魂の花が集う場所
仲仁へび(旧:離久)
第1話
足を向けたそこは、とてもきれいな場所だった。
噂通りの光景が広がっている。
ここなら、もしかしたら、死んでしまった彼女と話ができるんじゃないだろうか。
そう思っていたら、声をかけられた。
その人物は俺が向かおうと思っていた崖の先端へと歩いて行く。
魂の花が集う場所
死んだ人の魂が、花になって集う。
そんな言い伝えがある場所が、ここだ。
その場所は、海がすぐそばにある、断崖絶壁の上。
景色の綺麗な所だ。
何十年か、何百年か前。噂によると、そのあたりに一人の女性が住んでいたらしい。
その女性は、死者の魂を体に宿すことのできる人間で、生者の未練を解消したり、死者の言葉を届けたりしていた。
けれど、ある時その女性に不幸な出来事があったらしい。
女性は衝動的にその崖の上から身を投げた。
それ以降、その場所は花が咲き乱れるようになった。
その花の上で、幽霊のようなものを見たって話が、その後、ちらほらと出てくる。
だから、魂の集う場所といわれているんだ。
話を聞いた後、俺は「ならここで死んだ俺の彼女に会えますかね」と訪ねてみた。
答えられるとは思っていない。
すると、その人物は足元に咲く花を見回して、「いいや、それは無理なようだ」と言った。
「彼女は会う事を望んでいないようだから」
どうしてそんな事が分かるんですか。
そう聞く間もなく、あたりの景色が変わっていく。
花が消え去って、殺風景ながけだけが残った。
風が吹きすさび、身震いすると、足元の地面がわずかに崩れて、小石がはるか下の海に消えていった。
そこは、崖の先端だった。
あと一歩、先へ歩いていたら、死んでしまっていただろう。
俺の目の前で話していた人間は、いつの間にかいなくなっていた。
魂の花が集う場所 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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