第8話 家族旅行の朝

 家族で長期の旅行に出る。戸締まりで家の中の鍵を確認する。


 妹が、スマホの画面を「じゃーん!」などと云って得意げに見せてくれる。


 僕には、スマホの画面が全く見えない。


 家族で一緒に旅行に行く、ということで、両親も姉妹もはしゃいでいる。だけど僕にはもう、間もなく一生の別れになる確信が、既にある。


 いよいよ家を出る時刻になり、僕以外の家族は、玄関の外で、他愛ない話をして待っている。


 僕は玄関を出ようとして。


 外の空気が、まるで水中にいるかのように、僕だけ呼吸できない事を知る。


 「ゴボッゴボボッ(もう だめだ)」


 取り残された家の中で、もう二度と外出すら出来ない世界に、僕は一人取り残された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る