ここは異世界ですか? 違うんじゃない?[注:個人の感想です]1/3

@forestneko

第1話

ここは異世界ですか?


違うんじゃない?[注:個人の感想です]






前編【1/3】




「ここは異世界なんですか?」


「・・・・・は はいぃ?!」


あたしの隣にいる由緒正しい格好の巫女さんは、今まで夕飯用の米を研いでいたらしく、まだ濡れたたすき掛けの腕を気遣いながら、番茶を啜るのを止めてコチラを不思議そうに見ていた。


そこは野中の一軒家みたいな場所に立つ、こちらも由緒正しき平屋の日本建築。


ピー


高い空に雲雀?が鳴いていた。


彼?が見下ろすだろう、その軒下板張り縁側の隣に座るあたしを彼女はジッと見る。


「・・・・」


見つめる先のあたしは今日初めて会うことになった職場の先輩に失礼があってはいけないと中学のセーラー服姿。


聞いた話じゃ、これで皇居に行っても誰からも見咎めれる事もない、天下御免の女子生徒の最上級礼服 って聞いたことあるのでこの格好でやってきたが、どうもここに来る途中途中で平日の昼間になにやってるってのって職質を何度も受けたので、違ったかなと思っていた。


先程この格好で初めて訪れた玄関先で、変ですかと聞いたら、変じゃないし可愛いとお世辞でも言ってくれたので真に受けることにした。




「ん~~」


少し脱力した半眼で見られてので所在なくて茶飲みに視線を落として空を使う。


(ば 馬鹿なコトを・・・・)


巫女さん・・・・って言ってもあたしも今日からこの社で巫女さん   の見習いなので、便宜上は先輩巫女さん ・・・どうやらあたしはこの人の下で修業をするらしいので 兼師匠巫女さんは、お茶うけの黒糖かりんとうでベタついた手でオデコの熱を図るってベタな対処も出来ずに、蟹とたわむようにジッと手を見て困っていた。




「えっと、う~~~~~~~~~ん」


なんか悩ませてしまった。


出会った印象は凛とした高校生のお姉さん。って感じであろうか。年齢不詳だが、多分それぐらいだろう。


そのキリっとした顔が儚げに困っていた。


問に対する返事は無かった。


いや、その気の抜けた返事と顔が答えだったかもしれない。


曰く、お前はアホかって。


顔が少し火照る。


確かにアホかあたし。


(まあ、そうよね。どこの次元シームレスオタクよ。二次元と三次元の区分無いなんて。今日初見の相手にこんな事を聞いて。でもね~)


この所、おはようからお休みまで頭をグルグルしていた疑問だけにここに来れば答えが分かるものだと口に出さずにはおかなかった。


(だって、こんな事ウチの島で言ったら追放・・・じゃない後ろ指だもん)


噂千里を走るような田舎の島ではあまり口にだすのは憚られる妄言なので誰にも聞けなかったのだが、現地で当事者みたいなこの人には言っても構わないだろう。




「えっと、ここに来る途中交差点のブラインドコーナー抜けた所で大型車両と、口からトースト的な出会いでもした?」


ありがちな、アニメ的なシュチュエーションを聞いてきた。


「いえ。朝はフェリーの食堂で鮭定食でした」


大型車両免許保有なら多分二十歳後半以上だろう。少しくたびれた運ちゃんが運転しているような気がするので、そういう人との胸キュンな出会い、あらんや


ドカンと大型車両と衝突


ドサッっと地面に落下


ゴロゴロと道路を転がり


ピーとストレッチャーでご臨終です


って的出会いは遠慮したい。




「数ヶ月受験勉強で家に帰れず寝るのは塾の机の下か、アホみたいにやりこみ要素があるんで時間も寝食を忘れて命と健康と人生削り取るように没頭するようなオンラインゲー・・・・・」


「やってません」


塾なんか行く手持ちは無いし、受験勉強していくような高校は島には無い。そしてゲームやってる時間があるならバイトとか知り合いの手伝いでもしていたほうが実入りがいい。


小人閑居して不善を成すんだから、少し忙しいぐらいの現実の方が今は大事。




「信号の無い道路を横断しない 又は監視員がいない海や河川で泳がないって教育しない馬鹿な親の子供を・・」


じっと顔を見てきた。


「助けてません」


顔にタイヤの轍、または髪の毛に溺れた人間が付けてそうな水草やワカメを探しているのだろうか?無論そんなモンついていない・・・多分。




「家が権力と権威と金持ってるメイドを雇うようなお大尽で日頃は人を人とも思わない傲慢な性格で下々のモノに辛くあたったのでひとおもいに・・・・・」


「私は貧乏な町人です」


アッシは単なる町人ですぜって言いたかったが初見じゃのってきてくれないだろうと自重する。




「ん~~ん。じゃあ違うんじゃないのかな?」


轢き殺されてない、ブラック企業かゲームの過労で心不全でなければ溺れて死んでない。下々のモノに大貧民の革命を起こされて下剋上で断頭台のツユってワケでも無い。


他にありがちな心当たりも無い。なら大丈夫。ここは異世界じゃないって顔をされていた。


「私もそう思うんですが」


「誰かに何か言われたの?まあ分かるけど」


利発そうに見えるので、安易な現実逃避にそんな手前勝手な夢は見ないだろうと言われた。


中学の知り合いが揃いも揃って変な連中であるので交友があると私も変だと思われて、島じゃ肩身が狭かったので常識人だと言われ、褒められたようでちょっとうれしい。オタなアイツラと同列に扱われるのは正直キツかったからな。


「中学の級友にその手の話が好きな馬鹿らがいまして」


自分に空気を吹き込んだオタな奴らに責任転嫁する。




「ここそんな風に思われてるらしいね?」


地面を人差し指で指し示している。


「いえ、ただそんな噂が学校であったもんで」


(あの異世界バンザイのオタ共に聞いてきたのと大分違うのよね)


今日就職&就学で来たここには オーガ ゴブリン オーク ワイバーン ドラゴン キラー何とか ジャイアントかんとか その他諸々の魔獣ってモノが野山を走り回り人に仇無し、村や街を襲う。


ついでに悪い魔法使いに覇権主義者な国家や裏稼業の組織も暗躍していて、剣を持った冒険者や騎士やら魔法使いがそれらを討ち滅ぼす。


錦の御旗で凱旋の折は若い女性がキャ~ キャ~ 抱いて お嫁さんにしてってハーレム ハーレムでムッシュムラムラ。


そんな世界中の異世界ファンの桃源郷 アルカディア シャングリラ ああ、恍惚と不安共に我とあり と口走っていた。


(そう聞いてきたんだけどな)


無論ハーレム 女性だから男ハーレムなんかに興味ないので残念がらないが、幾らか退屈な人生に色をつけてくれるかなと信じていたのか、少し身構えた身からすると大外れに気が削げる。




「アッチ【異世界】ね。ん~、世間の極一部はここをそう言ってるようだけど。なんでなんだろう」


ここに長くに就職?している者としてはそんな噂が何故立ったかわからないと首をひねって見せる。


「まあ真意は知らないけど、それが本当だとしても、どっちでもいいし、ここにいるものの大半は興味ないんじゃない。まあ、口には出さないけどあるやつもいるかもしれまいけど、わたしは興味ないから正確には知らないし」


知らんオタ?の妄言に付き合う気もないし、見たくないものは見ない。


ガス台の裏の油汚れをワザワザ見る気は無い。見なければ無いのと同じだからな。それと同じで君子危うきに近寄らずだと、消極的生き方のまっとうを力説する。


「そうですか。そうですよね」


先輩が言ったように、なんか知らんが、この地は異世界への扉だか、門だか、勝手口だか、非常口だか、焼き場だか、落とし穴だか、拉致被害者失踪現場だかが有ると世間のごく一部では噂になっていた。




「言ったように、住んでる者としては何故の嵐なんだけど」


「あたしも本当は興味は無いんですが。なんか異世界にはコッチに無い色んなモノがあるって噂聞いてきましたので気になったんです」


魔法とか魔法とか魔法とか。


島の冬の寒さは辛いので、暖房の魔法があれば寒い朝に布団から出るのが楽になるだろう。


夏は熱いので下着が汗でベタついてしまうので洗濯機を回す回数が増えるが、冷房の魔法があれば水道代と電氣が抑えられて助かる。


未来視が出来れば時化を避けることも出来るので荒れた海のせいで無駄な重油代を出さなければいけなくなったと、注文がしぶくなったので、今日は居酒屋のバイトはいいからって、ボーズにならなくても済む。


錬金術が出来れば出来た金塊を日中貴金属に持ち込めば一生不労就労で安泰だ。


だから魔法には興味があった。


世界を征服したり、不正腐敗の権力者を懲らしめたり、盗賊やドラゴンに襲われる人を助けたり なんて事はやりたい人にまかせて、楽に人生を生きたいので魔法に興味はある。




先輩は興味無いですかと、呼称が先輩に固定しましたと個人的に決定して話を振る。


「アッチの世界の歩き方ガイドでも見せてくれれば旅先の魅力も伝わって観光気分で行きたく成るかもしれないけど、公式には誰も言ったこと無いんでしょう?。私は知らないけど多分国交も無い。とうことは言い方変えればパスポート無しって事は日本国の保証無しでしょう」


日本大使館があるとは思えないと手のひらヒラヒラさせて旅行プランに入らない候補だと捨て置く。


「国交は多分ないでしょうね」


パスポート持ってビザ取って異世界に行ったなんて話は聞いていない。まあ世界最強の日本国の菊の御門入だからビザはいらんかもしらんが。


「それじゃトラブった時の各種保険にも入れないし国も助けてくれないよ」


パスポートは外国に行った時に所持者は我が国の国民。だから国が身柄の安全を可能な限り保証するって契約書だ・・・・確か?。


だから国交のない国には行くなってお達しも出ているのは国があんたの身の安全は保証出来ないって事。ましてや国交どころか正体不明の場所に行くアホの面倒なんか、いくら表向きは優しい我が国だってみてくれないだろう。


「日本海沿岸の拉致じゃないんだから、自己責任の領域じゃ多分責任取ってくれないよ」


召喚されて行くって国交の無い国から無理から連れ去るって拉致だ。普通の国なら戦争始めるレベルだろう。どっかの普通じゃない国なら空母と特殊作戦郡動かして国連が何横槍入れようが、戦術核持参で救出活動を誰はばかること無く初めて、さあドンパチして拉致関係者の身柄拘束で司法の場に引き渡すだろう。


生憎日本にそんな甲斐性は無いのでのぞみ薄だろう。


ますます行きたくない。




「折角コッチの世界でそこそこ働けば、衣食住そこそこ保証されてる生活してるんだから御免被る」


病気になっても国民健康保険?で低い負担金で治療をしてくれるってこの星でも恵まれた環境の国から、死んでも野ざらしみたいな所に誰が望んで行きたいものか。


畳の上で死んで、白装束を着せてもらって、仏様飯に線香の一つでも上げて『せぇう~ん それは~ 黄身が三田ひかり~♬(一部語字あり)』と歌ってくれない死に様は嫌だ。




「それにインカ帝国滅亡パンデミックの再来も困るし」


大概異世界って文明後進国で牛痘接種の知識も制度も無いので危険なウイルスはそこいらの現地民の中に常駐菌として元気に潜伏してるかもしれん。


アッチ由来のウイルスに耐性の出来たアッチの人はまだましだろうが、コッチで働く細胞さんたちも未知のウイルスには対処方法を知らないのでコッチ側の人間はほぼ無抵抗で脆弱の筈だ。


逆もまた真なりでコッチのウイルスにアッチの人間も耐性持っていない筈だ。それがインカ帝国を滅亡においやったらしいのだ。


「天然痘ですね」


うっかり訪れてパンデミック引き起こして文明一つ滅ぼすって、自分はどこのピサロだ。


「あんまり知られてないけど、梅毒もね」


梅毒まで持ち込んで子供の死亡率が縛上がりで文明崩壊させるような愚行を自分から経験する気もさせる気もない。


「ちなみに一応あたしは体はキレイだから持ってないよ。ドッチも」


「聞いてません」


なんか目が、本土の人間だけに遊んでそうと訴えていたと拗ねる先輩。鋭い目をしてるのに意外と可愛いと分かった。


「まあ一応巫女ですから、性病持ちは世間体的に遊んでるって風潮だから神に仕える身で何やってるんだって評判になったら困るから、そんな噂は立てないでね」


巫女は処女なんて実は正式な決まりごとでは無い。自分で産んだ子供に、その孫までいて巫女やってるおばちゃん、おばちゃんも多くはないがいる。それじゃイメージを損ねて参拝客も賽銭も減るんで若年で肩を叩かれて結果若い子ばかりになってそんな噂が立つようになっただけらしい。




「お金さえだして予防接種したらほぼ百%根絶出来る狂犬病だってコッチ世界では未だに蔓延して、噛まれても発症前ならほぼ助かるのにそれすら知らないで毎年随分死んでるのに、牛痘接種の発想も技術も知識の共有も無いような殺人ウイルスが手ぐすね引いて待ってるような医療後進国に誰が行きたがるの」


エボラ出血熱ウイルスのキャリアーと言われるコウモリの営巣洞窟に裸で行くようなもんだ。


「レベル4の防護服着てても行きたくないですね」


行ったこと無いが、旅行の旅先で風邪引いたり水あたりで下痢しただけで外国じゃこれで一巻の終わりだって世を儚む人も多いぐらい異国の地での病気は怖いらしい。不幸にして異国で死ねば遺体を帰国させるのがメチャクチャ大変で金もかかるらしいので、死ぬなら帰国してからお願いだって頼む家族もいるとか?。




「生き残っても水疱痕でも残れば白粉をたっぷり塗らないと人前に出れないでしょうから平安時代の宮中女性みたく白粉の塗り過ぎの鉛中毒で早死したくも、させたくも無いし」


平安貴族の女性の平均寿命みたく鉛中毒で早死は嫌だ。


「今どき鉛入った化粧品探そうたって無いですよ。どこの第三国ですか」


「間違ってそんなウイルスのブルーオーションみたいな所に病気の持ち込んだら、お前はアッチで何やってきたんだって事になるでしょう」


風評被害で氏子さんも奉納も減るだろう。




とにもかくにもアッチもコッチも過去に感染したことが無く、全く抗体の無い未知のウイルスがあると考えて行動したほうがいい。


新型肺炎はコッチの文明圏ではある程度免疫システムには既知であったが、それでも変異株の発生地である不漢に行くのだって怖いのに全く免疫システムが予行演習したことのない地に誰が好き好んで行くか。


「まあ、そうですよね」


ついでに有害な大気成分も紫外線も放射線も重力も有毒動物・昆虫・植物も怖い。


「そんな危険に自ら飛び込むなんて、わたしは川田浩探検隊じゃないのよ」


スマホと衛星携帯を持った、人跡未踏の観光地のジャングルにいる文明未開人を探す気は無い。


「ですね」


本当に彼女目線のアッチ(異世界)には興味はないようだ。


では魔法にもと、一応と聞いてみるが、魔法の仕組みは分からないが、エネルギー保存の法則から無から有は作れないんだから、その魔法エネルギー消費分をどっから持ってきてるんだと思案する。


もしエネルギーを自分の体の脂肪燃焼なんかで賄っていたら急激な体重の増減で、過度なダイエットみたく体壊して早死するから魔法なんぞ御免被りたいとのこと。


「ありがちな魔力ってやつじゃないですか?」


「存在が証明されていないモノに頼らなければいけない理論って大体破綻するらしいけど、それじゃ面白くないからどっかにあるとして、魔力が魔法現象を起こしているなら、人間の意思が介在しないでもエネルギーの断片やら発現が起きてても可笑しくないような気がするけど、そんな事聞かないけどな~。まあ、よしんばエネルギーは魔力とやらが賄うにしてもその発動には人間の介在が必要ならそのコントロールにはエネルギーいるでしょうから、量は少なくて済むにしても体への負担はゼロとは思えないから出来ればご遠慮したいな。まあ今までの話は部外なわたしの空論だからどんだけ当たってるか知らないけど」


魔法じゃないが、幽霊がやらかすと言われていたラップ現象や球電現象だって熱変化や大気変動が作るって言われているぐらいでエネルギー保存の法則から逃れることは出来ていないから、この世のありとあらゆる万象が逃れていない法則に魔法だけが特別なのかと思ってしまう。


(こりゃ駄目だ。あたしが言うのも何だけど、この人は夢はみないひとだ)


まああたしも乗ったほうがおもろいって思っただけで、本息じゃないけど。




「それからついでだけど、本当の所はどうなんだかわかんないけど、大体アッチって中世の西洋世界がデフォでしょう」


「みたいですね」


なんでか知らんがそれがお約束らしい。


トイレのデカい方や頭部は蒸れないのかと心配する頭からスッポリのムチムチなツナギの服を着て、反重力で飛ぶ車があって、ビームガンで撃ち合い、鹿児島沖で沈んだ戦艦や石炭煙吹いたSL列車が宇宙を飛ぶ なんて科学の発展した世界の話はあまり聞かない。


文明の加速度的には、国家が群雄割拠して戦争やってるなら武器の発展はとどまりようが無く、中世なんてアッという間に通り過ぎて過去のモノになりそうだけど、アッチの世界じゃ後生大事に西洋中世を生きておられる。


「それだと法体系も人権意識も衛生管理も最低で、町の往来じゃオマルにした中身をブチまけてるんで道路はハイヒールとキツイ香水必須の肥だらけで臭くて病気になりやすいわで、歴史的状況知ってる現代人からすれば誰がイキたがるやら」


現代の周辺諸国だってトイレ関連衛生問題で行きたがらない人間も多いのに、フランス革命前ぐらいの時はあのベルサイユ宮殿だってトイレがなかったぐらいに不衛生で庭は言うに及ばず、室内も人目を避けれる場所はうんちと小便だらけだったらしい。


「オスカル様とかアンドレ様とかフェルゼン様も・・・・」


「当時の事情知ってるファンはオムツをしていたって無理くり信じてるらしいけど・・・・・それも問題あるような」


「大きい方をしたオムツはいたまま歩くと・・・・」


「・・・・・・・・」


「・・・・」


しばしカレーはご飯と混ぜる派とはドコ一番には行かないと誓った。




温水洗浄便座が無いだけで海外に行くたくないってのに、仕切りも無く穴が開いてるだけの水洗でも無いトイレの異国に何が面白くて行くのか分からん。


「ここはどうなんですか?」


いきなり現実に戻って聞く。


どうみても外見はボットン便所完備な古風な平屋だ。


「心配しないで。ここ神社の聖域で土地を汚さないように上下水道完備で、温泉利用の温水洗浄便座もあるわよ」


「是非ここで働かせてください」


出てきた郷里の島はボットンが殆どだったので、石にかじりついてでも職を全うしようと思った。






「さっきの話の続きだけど、ここに来ればアッチに行けるとか、まあ一部じゃそうって言われてるから、そう思いたい人らはこの星自体がもうそうだと思ってればいいんじゃない」


そう思ってこの場所の事はほっておいてくれと願う。


「ここに来るんですか?あの妙なヨタ話広めてる異世界オタ連中」


引きニートが本分の自宅警備員から、捕まる方の警備対象になりに来るとは意外とアクティブに驚く。


「来るのよ。なんか知らないけど、ここに来ればアッチに行けるとか変や夢を見て、スキあらば忍び込もうとするんで警備厳しくなってみんな迷惑してるのよ」


ゲンナリしている。確かに入り口の庁舎はどこの紛争地の駐屯地かってぐらいに銃持った歩哨もいれば戦闘車両も控えていた。




「施設の所在地が日本国千葉でも信じてる人間は夢の国だって思ってられるんだから、この星そのものがそうだって思ってくれて、家で大人しくしててその手のアニメやラノベでも読んでて欲しい」


「今朝ISS【International Space Station:国際宇宙ステーション】見ましたけど、あれみてもこの星が異世界だって思えるんですかね」


今日島から竹芝桟橋へついたのは夜の帳がまだ降りている時間。埠頭の始発バスを待つ内に白み始めた夜空を横切る光点を見つけた。もうすぐ明ける陽の光で反射したISSが通過していた。


人類の科学技術と叡智と総建設費数兆のあれが異世界にあるとは思えないが。


「願い事はなんて言ったの?」


西洋風のゲンコ祈りで流星に願うポーズの巫女さんって世にも珍しい風景に笑う。


「流れてません」


「そりゃ残念ね。普通の流れ星は精々数センチだから三度願いの前に殆ど燃え尽きるけど、アレならしばらく大丈夫でしょうから願いかけられたのに」


「だから流れ星じゃありません」


ISSを流れ星かなにかと思ってるのだろうか?確かに露のソューズは以前流れたが。


プルトニウム電池がどうとかって騒ぎになっていたのでポイントネモにでも落としたのだろうか?放射能汚染の報告は無いが、いつか海外旅行するとき飛行機で落ちたくないものだ。




「乗員総員退避済みのソューズならまだしも、有人のまま大気圏再突入していたら大ニュースでしょう。大気圏突入でお馴染み、ジオン軍のクラウンさんにする気ですか。断末魔聞かされるヒューストンはたまらないでしょうね」


シャア少佐ぁ~~~て叫ぶ姿のかなと、ケラケラと笑う先輩に少し引く。


「流れてくれないかな。ここの入り口にあった合同庁舎の自販機が古くなって冷えないし、ここ夏も朝夕は冷えるから温かいのも欲しいから、ホットアンドクールな新しい自販機を入れてくれって言ってるんだけど、予算が降りたらってずっと入れてくれないのよ。ISSが流れたら予算が降りるように願いをかけるんだけど」


奉職に付く巫女とその見習い全員の願いなんだから、温かい飲み物も入る自販機がほしいので、私達の為に落ちろカトンボって叫ぶ。


「自販機が冷えるようになったり暖かくなるためだけに何人死なすきですか」


大丈夫。知り合い乗ってないからいうのでマジ引く。






「魔物はいそうにないってことは、その総本山みたいな魔王も・・いるわけないですよね」


「御神酒になんでかその銘柄持ってくる氏子さん多いんで本殿いけば腐るほどあるよ」


精製純度とアルコール度数の高い焼酎は腐らないから無理に飲むのも急ぎ下賜ものと配る必要もないので本当に腐るほどあるので飲むなら勝手にどうぞと言う。


まだ15ですと断ると、神楽の前儀式だって言えば誰も何も言わないと言う。


そんな問題じゃないと思ったが言わずにおいた。段々この先輩はおかしいと思うようになったので深追いは危険だと感じ始めていた。




「そう言えば魔物と魔王ってセットなの?」


「じゃないですか。大概一緒くたにいるイメージですよね」


「どんな関係なんだろ。金銭の授受関係あるようには見えないし、ローマの兵士みたいに塩とかの現物支給とか」


サラリー【塩】マンとかなら着てるものとか言葉使いでなんとなく分かるが魔物なんて殆ど素っ裸ではわからない。マントを付けてるのが偉そうだって事ぐらいだろう。名刺持ってるのかな?と思って、「貰ったら何処にいれるんだろう」って裸なので心配してみた。




「あんまり雇用契約結んでるとは思えませんよ。精々記憶力は日雇いぐらいでしょう」


動物を手下にするって事なら桃太郎が有名であるが、桃太郎みたく吉備団子の配当で契約するにしても、精々朝三暮四ぐらいの知能しかあるように思えないので、明日何時に来てくれと言われても寝たら忘れてそうだ。


「吉備団子ね。それで命かけろってなら魔王って桃太郎並みに鬼畜ね」


島に攻め入って皆殺しでお宝を分取るとか海賊の黒ひげ並の鬼畜生だ。


「それに犬 サル キジ 三匹で吉備団子一個でしょう。吉備団子は知らないですけど、コンビニ三色団子が100円に持ち帰り税率適用で108円だけど、三匹で分けるから一人日給36円って、どっかの砲弾のマト的観測員だってもう少し優遇されてますよ」


例え親友がもってきても従軍契約書は酔っ払って書かないようにしないと、ハート様みたく肉の爆散も嫌だが、ダイス船長みたく砂漠で渇死も嫌だ。


「アレじゃないですか。お決まりの調教スキルって奴で言う事聞かせてるとか」


動物に言うことを聞かせる能力った筈だ。


「厚さ0.02ミリの優しさとか言うヤツ?」


「そ それは、ちょ~っと違うような気がしますけど」


まあそれでも良いかも知れないとスルーする。ツッコむのも、まだ乙女的に面倒くさいし。


「スキル名は ムツゴローさんでしょうか?」


「それ大丈夫かな?あの人熊とかに食い殺されかけた事一度や二度じゃないらしいけど。甘噛も熊ならまだしも、ドラゴンじゃ洒落にならないでしょう。」


ニシキヘビに体中の骨をバラバラにされそうになったり、灰色熊に頭齧られたなんて死んでもおかしくない惨事は枚挙に暇がないとか。


「そう言えば豹とライオンにも首筋噛まれてましたね。あいつらに脛骨噛み砕かれて生きてる人間はあの人だけだって動物の学会で驚かれたとか」


「それはちょっと違う人だったよ~な?」


二人して仲良く麦茶が飲みたくなった。


ズズズ


ズズ


無いので番茶を二人で啜る。






「じゃあ当然勇者は」


「そんな焼酎あるのかな?」


「お酒から離れてください・・・・無いとは思います。どっちも」


そういえば魔王があるのに、勇者が無いのは馬鹿なパリコレ?が差別だって騒ぎそう。


「パリコレ?・・・・・・そんな平等万歳団体あるの。まあいいか」


儀式以外に酒には触りもしない二人にはどうでもいいことであった。




「騎士とか騎士団はありませんよね」


「お巡りさん?兵隊さん」


国預かりの施設なので警護には自衛隊と警察からの出向組なら結構いるが、人斬り包丁持った暴力装置は見たこと無い。


「暗黒邪神教団は」


「ナニ(ぷっ)ソレ?」


絵に書いたようなアホな、キ印宗教団体の命名センスに思わず吹き出す。


「ここ利権も権力構造も転がってないからいてもあんまり近寄らないんじゃない。まあいるかどうかはしらんけど、宗教って洗脳だかマインドコントロールだかで、何かろくでもない事を考えてるやつはどっかにはいるんだろうけど、ここ小作農の氏子さんしかいないし、氏子さん以外は基本立入禁止で社務所に売り物もなければ賽銭箱すら無いから旨味はないでしょう。まあオークション目当ての記帳の仕事も頼まれないから助かってるけど」


そんな連中は現場には来ないし、来ても現場の人間には埒外だと打て合わない。




「聖女様とかメイド様は」


「その二種が同列にカウントされてるのが違和感あるけど、前者は定義がわからんからありがち誤変換の性女なら歌舞伎町でも行けば店でも街路でもピンクのバスでも探せば困らないでしょうし、後者はアキバで探して」


「吸血鬼は?」


蚊とダニ。のみ等は除くと予め釘をさす。


「ボケ潰さないでよ」


吸血害虫が忌諱するハーブ育ててるし、バルサンも定期的に焚いてるので多分大丈夫。吸血鬼の同列みたいなもん?に魔族ってのもいるらしいが、似たようなもんだからやっぱりバルサン焚いておけば大丈夫だろうと納得した。


「ドラゴンは」


「まあ8月まで待ってれば嫌でも飛んでくるよ」


「ドラゴンはいるんですか?」


拉致誘拐が趣味の水晶色じゃないけど、水色のメガネをかけてるやつが田んぼの上辺りを飛んでくる。


「それは蜻蛉とんぼでしょう」


「英語じゃドラゴンだよ・・・・たしか」


英語じゃドラゴンフライ。


昔は炎を吹きかどわかしたお姫様を地下室に閉じ込めていたのだろうか?。それは良いとして地下室は侍女もいないのにあのお姫様はどうやって生きながらえていたんだろうか?物だって食わなきゃいけないだろうし、食ったら出すもん出さないと駄目だろう。石造りの地下室じゃ湿度高いわ埃っぽいわで風呂やシャワー完備ってわけにもいかんだろうから、お姫様やってるよりサバイバル評論家やっていったほうが食って行けそうだ。


「まあ噛まれると地味に痛いらしいから出るようになったら気をつけてね」


「あれ(とんぼ)、噛むんですか?」


トンボの眼鏡は~ と童謡はのんびりしてるのに流石に弱肉強食の昆虫道で、流石ドラゴンだと納得。


「顔は仮面ライダーさんそっくりだから凶暴じゃないの?」


「仮面ライダーさんって凶暴だって初めて知りました」


正義の味方じゃないのかと?


「ショッカーの怪人さんや戦闘員さんにとっては殺人鬼でしょう」


破防法の適用を受けそうな組織見つけたら警察とか公安への通報が鉄則だろう。なのに逮捕から刑執行まで自分一人、しかも初めから通報する気なぞサラサラないような忙殺のつもりでは独裁覇権主義者か快楽殺人者だ。


「戦闘員さんはそうでしょうが、怪人さんって人間なんですか」


「仮面ライダーさんの前フリ能書きは改造人間だったから、他の皆さんも確か元人間だから死亡認定されてないかぎり人間じゃない。まああの姿でコンビニでバイトとか海外旅行のパスポート取るのにはひと悶着ありそうだけど、どっか人間のDNA残ってると思うから沢田靖子さんのいる科研でチェックしたら多分人間になるんじゃない」


昆虫や動物の遺伝子が混じってるかもしれんが、人間の遺伝子が残ってれば人間認定されるんじゃないと思う。


「人権団体とか騒ぐから国とかは処遇にこまるでしょうね」


多分あんな姿で日本人だって海外いかれると外面が悪いって出国は勘弁してくれと税関で止められると思うけど。日本人のフリをして海外で悪さしてる亜人間がこれ以上増えると困るだろうからな。




「お姫様に貴族様に王様とか御令嬢も・・・・・いませんよね」


「昔はやんごとなきお歴々が鹿鳴館もあったから、大江戸当たりにいたらしいけど今いるんかな?少なくともここに両者が欲しがるような地位 名誉 権力 金銀財宝 夜会 陰謀なんてないから用があるとは思えないけど」


ここにいる連中が欲しいのは、権力・地位なんかより24時間営業のコンビニとドラッグストアとネットカフェ併設のコインランドリーの方だろう。


ご期待に添えなくてすまないと謝る。




「じゃあ襲われる定番の送迎馬車とかは?」


「馬車?ここ大手町じゃないし、外国駐留の大使がくるような場所じゃないからな~」


ここへの赴任において信任状はいらん。


「まあ馬車は無いけど」


馬車は無いけど馬と牛とヤギとロバはいる。それらが引くリヤカーじゃ駄目かと。


「リヤカーにお姫様や王様、旅商人とか豪商の令嬢のせるんですか」


「追い剥ぎや盗賊や暗殺者も多分出ないから馬車はいらないでしょう」


ここへの入り口には自動小銃持った自衛隊員とサブマシンガン持った武装警察官と公安らしいのもいるから好き好んでこんな場所にくるモノ好きは・・・・あまりいない。


「さっき聞きましたけど本当にいるんですか?あんな重武装の兵隊さんとかいるのに」


一体ここは何があるんだと聞こうとしたが、機先を制される。


「ああ、ここじゃ止まれと言われたら止まってね。あの連中一度の警告無視で本気で当ててくるから」


「え?・・・・・・・・」


アメリカの警官だって三度警告するのに一度で当てるって・・・。


「ここはどんな福岡【修羅の国】なんですか?なんか物騒な人が町中を跋扈してそうだな」


星を見せて視力検査するゴツい馬に乗ったオヤジや、革ジャンを直に着るので皮脂汚れが酷くクリーニング屋を困らせそうな弟がいそうな街だ。




まあそれはともかく、あれで代用できるかなと置いてあるリアカーを見せる。


「リヤカーですか」


堆肥や農耕具を運ぶのと聞く。


「リアカーは有能よ。震災で街が壊滅して車が走れる路幅が取れないところも小回りきくんで傷病者の搬送とか生活物資の搬入には役にたったんだから」


「そ そりゃそうでしょうが」


なんかリアカーに思いがあるのか、リヤカーの代弁者みたいな立ち位置だった。この人大丈夫かなと今更ながら思った。


「あなたの引っ越し荷物が庁舎に届いてんで持っていってくれって言われたんだけど、あなた荷物多すぎ。ヤドカリじゃないんだから」


全部背負って持ってくるなら何往復もしなくてはならなかっただろうが、リアカーのお陰で一度で済んだのだからリアカーに感謝しろとのお達しだ。


「それはありがとうございます」


どうやら引越荷物を運んでくれたのはここでの先輩である彼女らしい。


「あれっ、じゃあ本当にここ車は走れないんですね」


アマゾンの宅配業者や引越便が今どきドアまで届けてくれないなんてどんな秘境だ。


「電気も電波も一切合切使えないからね。なんでか知らんけど」


心霊スポットみたいに電磁波かなんかのお陰で電化製品が一切使えないとか言われたのを思い出す。


家の中を見渡してもその類は一切ない。どうりで今どき振り子時計だと納得した。




「確かにアッチじゃ電気使わない・・・使えないかドッチか知りませんけど、電気が使えない世界=異世界 だってオタらに噂になったのかな?」


それが連中の異世界認定の根拠かもしれないと今更思い返す。


「またそれは豪快な論理跳躍ね」


なんで電気が通じないことがイコールで、そう定義づけられか全くわからない。タキシング中の乗り合い旅客機も電氣入らないから、あれの機内もそうかなとおもってしまう。


「オタクの連中なんて手前勝手な理屈で生きてて、人の話聞きませんから、一度思い込んだら周り見えませんからね」


「人は見たいものを予めイメージで作り上げて、その願望が叶うものだと思ってしまう。小人においてはそれが顕著で、普段はなんとも思わない柳の枝だって怪談噺の後は幽霊に見えるらしいから、そう思ってればそれにそう情報ばかり選んで確固たる確信を得てるんじゃない?」


惚れてしまえばアバタもエクボだ。頑としてここがそうだと思ってしまったんだろう。




「ロボットとかゴーレムとかもいませんよね」


「ドッチかしんないけど、いるよ・・・・つうかあるよ」


「あ あるんですか」


ゴーレムかロボットが動いているならそれは異世界だ。


「なんでそうなるの?あなたまでそんなナントカ先輩ナントカモン説、みたくドサクサ理論を振り回してどうするの」


外部の人間が囃し立てるのと内部の人間がするのではニュースバリューが違うので、カキコなんかしなように釘を刺す。


「ここまで来たら乗ったほうがいいかなと思いまして」


「まあわたしも面白うほうが好きだけど・・・・まあ、いいわ。取り得ずゴーレムなんだけど」


もう少し川の上流に行けば粉挽きの水車が回ってるらしい。


「?」


それは水車だろうと言うが、ロボットの条件に生物学的特徴は必要では無い。自動で人間の作業を代行するのがロボットの定義にはあるので、人の代行で粉挽きもロボットかゴーレムだと言うそう言っても文句は言われ無いはずだと。






「ギルドってハロワか職安は」


「あたしらには無い」


任官開けの再就職の相談所はあるが自分らには関係ない。


「武器屋」


「JAの購買店いけば鎌とか斧とかあるし、PXには肥後守ぐらいはあるよ」


装備品の配給施設はあるとは思うが店じゃない。


「ポーション屋」


「ドラッグストアは無いけどPXで大概の医薬品は売ってる」


男性隊員も使うので生理とか女子限定用品は裏の暖簾の向こうだと教えてくれる。アレはアダルトビデオですかとツッコむ。




「人間の能力を見極める水晶とか石板とかインチキ臭い偶像は」


「スカウター?流石にここにトイザらスは無い。あっても今売ってるかどうかしんないけど」


「人の能力を偉そうに上から目線のパワハラ審査官が個人的主観で合否を決めて、アルファベットで等級を決めて発行されるカードとか」


「誰が決めるのかな?そんな面倒くさい等級。後で被験者から絶対突き上げ来るよ」


例えば小学校の担任がどんだけ苦労して通知表を数値化して記載しているのか知れと笑う。


あれは使える数字の総量が決まっていて、全員5とつければ本人もモンスターペアレントだってにっこりだろうが、生徒数何人だから5は何人 4は何人とか決まっているらしい・・・・たしか。


お陰で我が子可愛やのバカ親から文句がくるんで小学校の担任さんは心労で大変らしい。


「履歴書で職歴や免許の所持の記載は紛れもない事実だからいいとして、単なる見た目で区分分けしたんでしょう?。査定が気に入らない、差別だって絶対労基や自称人権弁護士団体に訴えられるわよ」


部外秘の内申書が表に出ただけでプライバシーはどうした、生徒の将来の責任は誰が取る、どんな基準で誰が決めてると大騒ぎになって関係者が処分されたなんて話はよく聞く。あんな馬鹿な事を好き好んで誰がするんだ。


「コッチじゃ声のデカい自称被害者が騒いで大変よ」


今の世界は自称弱者が言い出せばなんでもハラスメントになるのに、アッチじゃならないらしい。


「人に順位を付けたことに関して口頭で済ますならともかく、公文書に記載して問題とか無いのかな?その原理もわからない道具で値踏されて納得してくれる。普通なら攻撃力5とか出たら、納得できないって暴れるヤツも、計測機器の製造会社にクレーム入れるヤツもいるでしょうに。アッチの世界じゃ問題にならなかったのかな?効果には個人差がありますとか、個人の感想ですとか、オーバーな表現をしてます とか警告文あるんかな?」


ブスって定義の無い評価付けただけで騒ぎ立てたり、裁判を起こされるような現代からするとなんて寛容だ。しかもどうやらそれで職業選択の自由が制限されるんだからオマンマの食い上げだと損害賠償だって考えないといけない。


「いい世界ね」


プライバシーだとか若年女性被害者擁護だって騒がれないのはきっと良い世界だろう。


「確かにクレイマーやモンスターペアレントが徘徊する異世界は嫌ですね」


「私も多分そう思う」


害獣の物理攻撃なら反撃出来るが、モンスターペアレントには下手な反論一つでクラス会で吊し上げ。


小学校の先生の離職率が高いはずだ。




「チート的な何かってあるのかな。神様の損害賠償ボーナスとか、魔素がどうたらこうたらとか適当なチートスキルとかありますか?」


「ん!その言葉はあまり使わないほうがいいんじゃない?」


「!」


見ると嘗胆しょうたんでもしているような苦い顔をしている先輩。


「えっ。あたし何か言っちゃいけない事いいました?」


ポヨヨンとしていた場が少し凍ったのを感じて戸惑う。


「ん~~。それ本来の意味。つまり本来の意味を隠すために誰かが使い始めた外来隠語だけど、借金をローン 毒をシロップで包んだようで、わたし好きじゃないのよね。まあ個人的でゴメンだけど」


借金って言うとイメージ悪くて多くの人は尻込みして借りてくれないのは金貸しが困るから、ローンって言って舶来だからオシャレだってイメージをミスリードして借金=体裁悪い ってタガを外したように、本来褒められたものでは卑劣な行為を言葉を変えて誤魔化しているだけだと告げる。


「日本語の意味知ってる?」


「えっと、チー・・・・ですか。確か インチキ 卑怯 ズル 不正 でしたっけ?」


「多分それで遠からずだと思うけど、そんな事に手を染めてる人間や組織と付き合いたい?」


「御免被りたい連中ですね」


世に平等なんて無いって事はそんな連中から教わったので出来ればお付き合いは遠慮したい最たる苦々しい相手だ。


「普通そうだよね。例えば受験で誰にでも平等にチャンスがあるっていいながら、実はお金払えば能力関係なく合格出来るってことになれば、真面目に勉強してる者としてはやってられないみたいなもん」


「でも自分がやるわけじゃないですし」


その言葉は使うなって意思を感じたので、自分がするわけでも無いし、言葉ぐらいと少し抗う。


「朱に交わればなんとやらで、自分は違うって思ってもそんな人間と付き合えば常識のタガなんて外れやすくなるものよ。ワザワザいらん苦労背負い込むような事はしないほうがいいとは思うよ」


友達は選べっていうのは、人は集団で生きる動物であるかぎり付き合うとその影響は受ける。


社会実験で同じ遺伝子を持った双子を片方は心根から品行方正な学者の一家、片方は性根が腐った無学なならず者一家に預ける実験をしたことあるが、見事なほどの確率でその家の家訓?に沿った人間になる。




「こんな言葉があるそうよ。『人は自分の嫌いになっていく』ってね。少し解釈すると、人はなりたくない人間に成りやすいって事なんだけど、聞いたこと無いかな?息子や娘が親を見て、こんな人間になりたくないって言っていても歳を経てみると、成りたくなかった親と同じことをしているって」


「は・・・・はい。それは聞いた事ありますね」


酒のんで帰宅してクダを巻く父親 他人の悪口を言って下卑た笑いを浮かべていた母親。


子供はそんな人間に成りたくないといいながら、ソックリになってしまったって笑い話。


「なんででしょう?」


「それは悪しき前例が直ぐ近くにあるので、親がやっていたんだから自分がやっても怒られないから習おうって、赤の他人がやる悪徳?よりもハードル まあ心のタガが外れやすいのよね」


他の人が卑怯をやっているんだから自分だけ正直に生きるのは馬鹿らしいって右へ倣えって自分ルールを曲げてしまう。


「それがこの場合はチー   ・・・・・ですか?」


火事場や被災地で、誰かが略奪をしていたら日頃そんな人じゃないと思っていたなんてのが捕まるなんてよく聞く話。


「まあ、それを魔が差したって言い訳するけど、魔がさすぐらいの矜持だったってだけなんだけどね」


ついでに人がやっていたから魔が差したって警察に言っても減刑はあまりなく、集団心理で流されやすい危ないヤツ認定で刑が重くなることもあるので、そのときは言い訳に使わないほうが良いと助言をしてくれた。




「それだけじゃなく、物理だけじゃなくて言葉ってモノも大事よ。例え実践しなくても、卑しい言葉を使えば行動に起こさなくても、心も卑しくなるって・・・・って誰かが言っていた(てへっ)」


偉そうに言ってるが、所詮だれかからの受け売りだから信用するなとテレて笑うが、何故か笑えなかった。単なる受け売りでは無く、経験が伴った何かの嫌な事がその言葉にあったのだろうか。


「言葉の乱れは心の乱れ 部屋の汚れは心の汚れ 関係ないと思っていてもヒトは触れる言葉や環境によっても影響を受ける ・・・らしいから気をつけたほうがいいかもよ。部屋も心もきれいな方が良い人もいい話を持ってきてくれるから、元手無しで良いことがあるなら理想じゃなくて、現実な実利的にもいいでしょう」


「はい」


バイトであって神に使える仕事柄、自分は違うと思っていても、言葉に染まってしまわないと言えるほど人生経験は無い。きっと長い年月に裏打ちされた経験でその訓が出来たのだろうと、肝に銘じる事にする。


「まあ本当はどこまで関わりあってくるかは知らんけど、尊敬したくない人間が使ってるような言葉を使わないってだけだから、将来おかしな事になる可能性あるならともかく使わないほうがいいんじゃない。やさぐれて汚い言葉を使って斜に構えても損をするのは大概本人だけよ」


言ったように、朱に交わればなんとやらだから気をつけようという。


「肝に命じます」


取りあえず自分が染まりたくない、成りたくない相手の使うような言葉はここではご法度だと使わないことにする。確かに俺は卑怯者だって恥を喧伝するような恥知らずとは疎遠でいようと思った。


「あらっ素直」


一応先達の役どころだから、注意はしたんですってアリバイ作りのつもりだったので、従順な態度に意外って顔をする。


「純朴な島娘ですから、これからも先輩みたいに素直に生きたいと思ってますから」


え~~と三白眼で疑う先輩。


ニヤ ニヤリ


二人して、ニヒヒと笑う。お互いそんなタマじゃないと察していた。




(よし。よく頑張ったあたし)


お互いどこが乙女じゃって、ケラケラと笑う先輩をみながらあたしは自分で自分を褒めていた。


たかがチートって言葉一つにそこまでの事ですかと突っ込まなかった事を。


単なる異世界馬鹿が多用する妄言に過ぎないんだから、人生まで語りますか。


言っていたことは多分殆ど正論だが、そこまでの事?。


(いや、ツッコむとヤバい雰囲気あったし)


どうもその言葉に相当嫌なことでもあったらしいと思ったが、人の心の闇に踏み込んでも良いこと無いからと、君子危うきに近寄らずって先輩の言に従い近寄らない事にした。






「じゃあ・・・・う~ん。あと何かあるかな?」


段々判で押したようなネガな答えに飽きてきたが、ここまできたら全部スッキリしたかったので頑張ってみる。しかしもう質問も在庫切れで何とか重箱の隅の探す。


「なんか悲壮感無い。わたしがネガに答えるたびに顔が段々死んできたよ。大丈夫?。もしかしてここにくればアッチの世界に行けてEEEEE 追放されてEEEEEE 実は実力がEEEE 商売やれば品揃えEEEEEEEE 女よりどりでEEEEE な展開期待組かな?それだとワザワザご足労ご苦労様だと思う。隣の芝生は青く見えるもんよ、見てる限りはね」


つまらないと思っていた地元から見る山の向こうに行けば楽園があると、いざ行けば自分が今までいた所とさほど変わらないってのが世の常。


そこにどっかで見たような駄目そうな奴が自分が今までいた方向を夢見るように見ていた。山の向こうにあるのは楽園じゃなく、見慣れた風景なんて腐る程ある話だ。


「自分が変わるのは面倒くさいって、世界が変われば自分は評価されるんだって爆弾しかけるテロリストみたい。周りが変わるって他力本願じゃなく、自分を変えてくれ。周りはめ~わくだから」


駄目なヤツは世界が変わっただけじゃ、違う世界にいる駄目なヤツになるだけだ。部屋が散らかって汚いって言うより先に、お前が片付けろって事。


「暗いと不満を言うよりも、進んで明かりを付けましょう って事ですか」


「そ、ゆこと」


不平と悪口は口が臭くなると英語圏じゃ言うらしいので、お互いどこまでか知らんが一応外面は乙女なんだから好きな相手に口が臭いと思われては人生終わりだから、気をつけましょうと笑う。


「お互い乙女ですからね」


「先輩もそうですか?」


「どこ見てもそうでしょうが」


「そうですか」


いつのまにか縁側の廊下で立膝の先輩に乙女を自称する資格があるかと考えた。










ピクッ


「えっ!」


先輩に突っこまなかった事を褒めていた時、空気が震えたので山を見上げる。


「ん?どした」


怪訝な雰囲気を感じてたずね・・・・


ターン ターン


遠くから銃声がし、それが山に木霊した。


音質からしてす大口径ライフルのようで、多分尾根を超えた山向うからだと察する。


「よく分かるね」


木霊の種類で距離と場所を知るのは島住まいには日常ですと、普通のJCじゃないと自笑する。


「害獣駆除よ。ここ良く出るのよね」


「猟友会の方かなんかですか?」


「多分違うんじゃない」


鉄砲持った人間には困らないから自衛隊あたりかと思った。


「じゃあモンスターって言うか駆除対象危険害獣がでるんですか?異世界的な」


「アレは多分違う。アッチ好きオタが望むようなモンスターじゃなくて、単なるコッチ側在住の害獣さんの駆除活動」


「やっぱモンスターとか魔獣はいませんか」


まだ異世界風味を少し期待していた。


「野良の熊と犬と猫と猪とか栗鼠なんかはたまに出るよ。猿とか野人も出るって噂になっていたかな」


「や 野人ですか。大問題じゃないですか」


ジャイアントオーガってやつかなと、イメージ映像ですってキャプションが付いた身の丈2メートル以上のアンドレ・ダ・ジャイアンの画像が頭に浮かぶ。


「花見の時に林業のオヤジたちが山で酒のんで裸踊りしたのを見て毛むくじゃらだから女性登山客が野人だって騒いだだけだから気にしないでいいわよ」


あれが例えそうでもお巡りさんで対処可能な対象だから期待するギルドからの駆除依頼は無いだろう。


「あ ああ、そうですか」


山歩きしている、特に女性の目には有害だが駆除対象では無い。まあその場に居合わせ猟銃でも持っていたら、一発なら間違いですむので、変なもの見せやがってってコレ幸いに撃つかもしれんが。


そう馬鹿話をすると、ちゃんとヘッドショットまでして後腐れを断ってとマジな顔で言われて、笑って良いんだか分からずにアルカイックスマイルで苦笑する。




「島じゃ狩っていたの?」


会話の塩梅から慣れてると思えたので聞いてみると、島は平地が少なく農地が限られていて作物もそう採れない。野生動物とは作物の取り合いで愛でる対象では無く、狩って売るか食べる対象とのことだ。


「そりゃあなたの諸島郡は昔流刑地で、出来れば餓死しろって事で配給無い自給自足だったから鹿とか猪を愛護なんてしてる場合じゃないものね」


先祖譲り?で狩りの腕は良いとライフルを構えたポーズで無い胸をはる。


「腕は良いって、銃の免許持ってるの?」


15で猟銃ぶっ放すのも罠猟も日本じゃ禁止の筈だ?。ここはアメリカじゃないんだから年齢制限ってもんがあるだろう。しかし有資格者のお手伝いには寛容らしい。


「知り合いが忘れた銃を届けに山に入って、たまたま薬室保護用?に装填していたのがダミー弾じゃなくて、実弾が入っていて、飛び出してきた獣に驚いたら暴発で、その弾がたまたま当たっただけです」


「たまたまね。よく当たったわね」


馬鹿なゲリラなんかが鼓舞のために空に発砲した弾が偶然自分に当たって死ぬより低確率だろう。


「で、暴発の有効射程は?」


「あたしは大体500だったと思います」


拳銃は狙っても素人は10メートル先の人間に当たられんと聞く。ましてや暴発であたる確率なんて一等宝くじなみだろう。500メートルが暴発と言い切るのは、隠す気がサラサラ無いらしい。


「照準器は?」


島の朝は夏でも寒いと答える。息と体温で曇るし、レンズの反射で獲物にバレるから使ってないようだ。


あなたの前世は北欧の狙撃手かと訝しんで笑う先輩であった。


「あなたがスカウトされて来た理由が少しわかったわ」


だから自衛隊があんなモン持ってきたわけだとつぶやく。


「へっ、何ですか。害獣駆除担当ですか」


「間違ってないけど、他にも事情があるのよ。まあ・・・」


いずれ分かると言ったときに気配がした。




ガサッ


枯れすすきが乾いた音を立てた方向を見る。害獣駆除の?発砲音の後なので身構える二人。


「ほらほら。あれはキラーキャットかな」


どこかまだアッチ世界を期待していたのだと察してネタを振って付き合ってあげる先輩。


段々畑の刈後から血まみれの小鳥を咥えた三毛猫が出てきた。


「普通の猫なような。駆除対象の危険な害獣とも見えません」


首輪もしてるので飼い猫であるよう。


「でも本気で命取りに来たらだったあれに普通の丸腰【人間】勝てないわよ」


「た たしかに」


それは聞いたことある。マジにタマを取りに来た中型の猫に武器がない限り普通の人間は成人男性でも勝てないらしい。だから魔獣かどうかはしらんが、有害害獣とキラーキャットは当たってる。


「今はデスキャットね」


口に咥えていた小鳥は先程飛んでいた雲雀のようだ。


首の骨を噛み切ったのかブラブラで失血して、今にも千切れそうで、誰がどうみても死んでる。


「言いにくいんだけど、今日の夕食の食材に串打ちしてる焼き鳥あったけど、大丈夫?」


タレがいいか、塩がいいかも聞いてきた。


「う~~~ん。のりたまか、旅の友ありますか?」


ごま塩しか無いと答えていると、視線に気がついたらしく獲物を咥えたまま森の中に消えていく。丸っとした長い尻尾がうねうね動いていた。


「可愛いですね」


「小鳥殺して食ってるけど、それはいいのね」


「・・・・・まあ、弱肉強食はこの世の理でし・・」


そんなほのぼの?な会話が途切れる。




みぎゃああああああああああああ




多分あの猫の断末魔があたり一帯に響いた。


「・・」


「・・」


顔を見合わせる。


「ああ、そういえば言われていたのよね」


多分冬眠をしくじった熊が里山をウロウロしていたので恐らく腹減らしているから気をつけてと言われていた。


シーン


「この世界がそのオタが望むフィクションの世界なら、女子供人気取り&尺稼ぎ担当マスコットキャラには出番は無いみたいね」


シーンとした森の向こうからバリバリと骨を砕く音がした。


「うわぁ頭から丸かぶりとは豪快ね。大体内臓からだけど、寝起き悪くてお腹空いていたんだ」


先輩は残さず食べてくれと何かに祈る。後で残骸残ってるとウジが湧きハエが飛ばれるのも迷惑だから、残さず食べて皿まで舐めてと。


残骸など拾って墓なんか掘って、かまぼこ板を探すのは面倒だと嘆息していた。




「怖いわね~。怖いからもう寝たいわ」


春眠暁を覚えずとアクビをする。


「なんでそうなるんですか?」


ついでに春はまだ遠いと、のんびりとして先輩にツッコむ。


「嫌な光景見た時は目をしばらく目をつむって暗くして外部刺激を減らすと忘却も早いとか・・・・・・・言わない?」


「聞いたことないですけど」


「あれっ。誰の受け売りだったんだろう。まあいいか・・・・」


手についたお茶うけの飾り砂糖をポンポンはたきながら上の空。




(やる気ねえええええな、このひと。仕事なら分かるけど、生き方も力抜きすぎでしょう。コッチに来たらどうすんの?)


身の丈5メートルはありそうな熊があんな猫だけで済むわけが無い。コッチに来たらとどうすんのよとコッチが焦っても飄々として、我関せずって姿勢に脱力してしまう。




見ているようで、見てるんだから何だかわからない。


考えてるようで、それは相当怪しい。


笑ってるようで、機嫌がいいのか悪いのかわからない。


なんか既視感があるような気がした。


「なんか後藤隊長みたい・・・・・・・」


思った事がボソッ口から漏れた。


「ん~?ごとう・・・・たいちょ」


アクビをしながらコッチをみて、何のことと目で訴える。


「あ、すいません(あれっ、それ誰だっけ?)」


独り言だと訂正しようとした。よく分からんが、多分その人に例えるのはよくないと思った。


「ああ、後藤隊長ね。みんなで幸せになろうって人ね」


「?・・・・・・・・・」


私の独り言に合点を得ている。言った私が知らない人名なのに。


「あのすいません。それ誰ですか」


自分で人名を言っておきながらそれは誰と聞く、我ながらマヌケな問答だと思った。


「?・・・・・・・・・・!」


死んだような目が胡乱にキョロ付いたと思ったらすわっとばかりに剝かれた。


「そう言えば・・・・あなたアニメファン?だった・・・かな」


さっきから随分アニメの独り善がりなフリの答えが淀みが無いのでと尋ねる。


「いえ。普通だと思います」


首を振る。付いてるテレビに写ってるなら見るぐらいだ。例え茨の雨が降ろうが槍が降ろうが万難を配してもオンタイムに全裸待機して見る人間は知っているが、自分は見ない。あれが普通だとしたら自分は普通以下だ。


「なるほど、向いてるわね、この仕事」


「あの、どういうことですか?。それに後藤隊長って誰ですか」


「他の人にも言われたことある、納得し難いわたしへの評価は良いとして、その隊長って首都圏ヒト型二足歩行治安維持ロボット活劇アニメに出てくる昼行灯な上司の名前でね」


「はあ」


なんだ、その首都圏なんちゃら人形決戦兵器のバッタもんみたいな名前は。さっぱり分からんと首をひねる。


わかりやすい言い方だとアニメにありがちなロボットコップモノ。セイタカアワダチソウまみれの首都圏埋立地に集められた左遷同然のハグレモノの、いまにみていろ見返したれストーリーらしい。言われて、ああ、そんなアニメ聞いたことあるかと思い当たる。


「そんなアニメを見たこと・・・・ある?たぶ~ん、無いじゃない」


アニメ好きでもなければ女子が見るものじゃない。日曜朝の魔法少女ものだってもう卒業してるぐらいだろう。


「多分無いと思いますけど」


「でもあなたは知ってる。多分その手の本も読んだこと無いでしょう。そんな人名を知り合いから聞いたこともないんじゃない?」


「人の話は、内容と共に誰から聞いたか忘れるなと言われてますので、誰かから聞いていた話なら出先は覚えてるとは思いますが・・・」


自分のような特徴の無い女子が他人に気に入られるコツは他人の話を聞くこと、聞いたことを忘れないこと、誰が言ったか忘れない、それだけで気に入って貰える。


それが凡庸な女子の処世術だと聞いたのでそれは実践しているつもりで、少なくとも私に限って言えばそれは当たっていて、こんなあたしにも回りは気を使ってくれていた。


ただ、話が分かる気のいいやつだと思われて長話につきあわされて困る事もあったが。


ここに来るにあっても見たことも聞いたことも読んだこともない異世界ネタに詳しくなったのはそのオタの長話のせいであったかも。






「まあそれはおいおいでいいとして、今はガテン系だけど、巫女さんの本来のお役目って何か知ってる?」


「神降ろしでしょう。神様からの御神託を受けて下のモノに伝える言葉にする・・・・・んじゃなかったですか?初詣のバイトの時に巫女さんの心構えで聞いたのはそんなことでしたけど」


わかりやすく言えば表面上の言葉だけじゃなく、裏事情まで委細込みで伝えることが出来る、出来た通訳が巫女って職業。後なんかあるらしいが、聞いてないのでしらない体で。


「多分正解。多分ね。」


正式には知らんし興味もない。いちいち誰にも虚実は聞かないのであくまで個人的には、多分そうらしい。


「でも言葉が分かる女の子なら誰でも良いってわけじゃないのよね。まあオカルト用語?で言う所のトランス体質で、言葉悪ければ憑かれやすい体質ね」


あなたの知らん世界や、ホンマにあったら怖い話なら被害者になれる女性だ、といわれて なりたくない 嬉しくないとツッコむ。競馬場に行けば馬の気持ちが分かる人もいるよ、と言われたので、二十歳になったば嬉しがることにしようと思った。


「それは直ぐにエクソシストを呼ばないと駄目ですね」


首を180度曲げたり、背面走りで怪談を降りたり、豆スープを吐き出したくは無い。


「まあ舶来でもいいけど、わたしたちが頼ると本庁あたりがうるさくなりそうね」


「日本の場合は陰陽師さんですかね。陰陽師さんが何する人か知りませんが、そんな状況になったら取り敢えず祓って貰わないと困ります」


ここ日本で、後進が他所様に頼るのは些か不味いと嗜める。




「ホントに悪魔がいるかどうかは良いとして、陰陽師さんは一応わたしたちの先輩なんだから、図書館行けばそれなりの本あるから暇だったら見てみるといい。まあ忙しいでしょうからヴィキで調べるぐらいでもいいけど、取り敢えず巫女さんの器たる資質は取り憑かれやすいのと基本おんなじかもね?」


これも多分と他人事。


(この人やるきないな~)


一応師事するらしい先輩なんだからもう少しいい加減な塩梅で覇気がほしかったが、スパルタにでもなったら嫌なので口には出さない。


「乗っ取られないんですか?」


西洋じゃ悪魔が出ていかないので火の付いたロウソクを押し当たられたり、いばらのムチでSMされたり、キャンプファイヤーやぐらで火炙りにされたなんて聞くのでそれは洒落にならん。


「なんとかダルクさんとか、なんとかベイダーさんみたく白焼きはイヤです」


キャンプファイヤーはバイトの露天で売れ残ったイカ焼きか焼きとうもるこしを食べながら回りで見ていたい。


「入りやすいけど、聞くこと聞いて用が済んだらとっとと追い出しやすいのが理想ね。全額前払いの安宿みたいに」


問題起こしそうだったらもう宿代貰ってとりっぱぐれないから本人と荷物全部捨てて追い出せるのも才能。またはそんな安宿で、チェンジ代で稼ぐホテトル嬢みたいな素養も巫女には重要らしい。その方がその手の職に付いた時稼げる。


「何の話をしてるんですか?」


だいたい分かるが分から無い方がいいととぼける。




「とにかく、あなたが触れた覚えがないアニメ知識を持ってるのは、多分あなたは回りにいた、オタの知識を持った人と一緒にいる間にその人が持ってるオタ知識を知らぬ間にトランス状態で吸収した・・・・・んじゃない。だから聞いた覚えも見た覚えもないけど、頭にはあったんでその隊長さんの名前が知らずに口をついたの・・・・・・かもね」


「た しかに」


確かにそのアニメの話は見たこと無い筈だが、今先輩に教わった概要と自分が知っていた知識はほぼ符号する。


「他人の思想に共感しやすい・・・染まりやすいって・・・」


「まあひどい話だけど悪徳業者や活動家からすると洗脳し放題のカモね」


ナントカ教会とか、ナントカウエイとかに気をつけろと助言をくれる。


誰かがそうやって騙そうとしている思念を自分から積極的に取り入れては人生何度あってもしくじりそうだ。


「まあ、同類相憐れむじゃないけど、ここにいる女性奉職関係者 まあ巫女さんに見習い連中は多かれ少なかれそうだから気にしないで」


ここでは珍しいことじゃない、っつうか、それが求人として重要だから気に病むなとの事。


「私が選ばれたのはそんな理由だったんですか」


「全部じゃないけど、その素養はあったほうがいいって事になってるね」


周りもほぼそうなので気にしてなければ多分すぐ慣れるとか。


それにここで暮らすと遅かれ早かれ耐性を持ち得るので現世に戻っても被害者になりにくくなるらしい。


「あれっ、じゃあ先輩もそうだったんですか?」


「まあね。ここにきたばかりの時にお世話になった女性隊員らがアニメオタでラノベオタで漫画オタで科学オタで歴史変人オタ エトセトラ エトセトラだったので、見たことも聞いたことも無いおかしな知識ばかり増えたんで・・・・・・・」


趣味は昼寝だったんでまっサラ状態だけに、夏休み明けの学校の雑巾みたいに吸収が良い時期にいらん知識ばかり吸収してしまい、あれで人生棒に振ったと悔やむ。


そして鉄は熱いうちに打たれたクセが今もずっとついて回る。




「さあ、キミも人生棒に振ってみないかって・・・・振ってしまった」


「今のもアニ用語ですか?」


「人生アニメで棒に振るのも意外と格好良いと誰が思ったかしらんけど、わたしもそうおもうようになった つまりマインドコントロールされてしまった過去の自分を修正したい」


拳をワナワナ震わせている。なんか悩んでいたが深追いはしなかった。


特にここは邪念が飛び交いにくい、霊的な暗室なので強い思念だけがよく届き、巫女の感応能力に補正かバフがかかるので現界より影響受けやすいとか。


「静かな図書館の方が勉強ははかどるようなもんよ」


特に聖域なので人あらざるものの思念も跳梁跋扈するから余計気をつけろと言っておく。




「でもいちいち見なくても、読まなくても知識増えるなら便利じゃないんですか?」


将来アニメストアに務めても、アニメ話に造形が深いとなると話の分かる店員ってお得意様も出来て安泰だろう。


「それ危ないわよ。だってそれは誰かの主観に基づいた記憶と思考パターンよ」


冊子や新聞が間違っているとは言わないが、取り得ず公正を期すってお題目はある。どこぞの不明な団体と深いつながりのある新聞や雑誌みたいに偏りすぎたモノもあるが、一応はそう言っている・・・・・多分。


しかし個人の好みやイデオロギーにガイドラインは無い。凶悪な犯罪テロだって知的犯罪だって己の中では自由に推奨しても自由だ。


そんな危ない考え方も言葉ってクッションをおけば疑う事も出来る。しかし直接言葉やニュアンスを介せずに思考のトレースをするには頭の柔らかな時分には危険すぎる。


ネットでならファイアーウオール一切無しって事かもしれない。


アニメで言うならナントカタイプとか、ナントカ機動隊的なもんかもしれない。


「そんな危ないやつの思考に染まる危険もあるかもよ」


「それは・・・・・・困ります」


変な団体や本に染まって人道踏み外したのが街角でプラカード掲げて拡声器でワケの分からん事を叫んでいる言ってるヤツをテレビで見て、ああはなりたくないと思った。


一度政府の偉い人が環境保全活動に島を訪れると、反対 反対のプラカードを持った胡散臭い赤い連中が静かな島に大挙して押しかけて騒ぐだけ騒いで迷惑をかけまくっていた。


政治家なんか成りたいと思った事なかったが、独裁制をしけて総裁になれるなら連中の党本部に悪さして、それを連中の仕業にして粛清してやろうかと思うほど迷惑な奴らだった。


まあ流石にそれは捕まるのでやらなかったが、連中が雇って乗ったボートのキングス弁は抜こうと思ったが、錆びていたので女子の細腕では抜けなくて残念であった。


今思うと、あれは誰かに影響を受けて行動していたのかも、と思うことにした。


長年の自分の行動があのときは異常だと思って悩んでいた事にスッキリ出来た。




「気をつけてね。自分で考えて行動してるつもりでも、実は誰かの見ている夢にただ身を任せているのかもしれないわよ」


人生という舞台で自分を演じてると思っていたのに、実はその舞台にいる自分は意思の無いマリオネットで、見上げると手足に結ばれた糸の先を誰かが持っていた。


「そして気を付けなければならないもう一つに知らずに、善意悪意は関係なく嘘つき ・・・・ ていうと、言葉過ぎるかもしれないけど、世の常識に照らし合わせたときに腑に落ちない事実や意見を言ってしまう。まあ痛い人だって思われるかもしれない」


真面目な顔をして、私は嘘などもうしませんって嘘を言うのは相当タチが悪いらしい。


言った当人が本当だと思っていたなら呆れるより先に、危ないタイプの人間で処置なしってまともにうてあってくれなくなるだろう。


「出処不明なソースの時は取り敢えず前に出て意見しないほうがいいかもね。それが本当に自分の意見かどうか疑って見たほうがいいかもね」


「気をつけます・・・・そういえばここの住人は多かれ少なかれそんな体質だと聞きましたけど先輩も記憶だけじゃなく思考まで染まる事なんかあるんですか?」


「まあね。自分は一体いつから今の自分で、それまでは一体誰だったか悩んだ事もあったかもね」


まあ取り憑く取り憑かないは関係なく、人は日々新たな自分に変わっていくので特別に気にしない事にした。まあ自分たちはちょっと重病ってだけだと。


「今は大丈夫なんですか」


「さあ?」


分からん。


自分でも分からんので自分と接する時まず疑ってかかってくれと頼む。言ってることも考えてる事も誰かからの記憶と意思の断片かもしれないからと力なく笑う。


「先輩じゃあ時々嘘つきになるんですか」


「そう。善意なのがタチ悪い嘘つきだよ」


騙されないでねと意味深に微笑む。




「そう言えば関係ない・・・・ワケでも無いけど、あなた夢を見る方・・・・・というか、正確には起きるときに見ていた夢を覚えてる?」


夢を見る人ってのは覚えてる人で、見ない人ってのは単に覚えていないのが本当の所。寝ている時はほぼ全員見るものだ。


「いえ、あんまり覚えてる方だとは」


「まあ、その方がいいかもね。特にここじゃ現世と違って変な夢見るから、起きたと同時に忘れてくれたほうがあなたの為にも、私達の為にもいいわね」


その方が生きやすいらしい。


「どういう事ですか」


悪夢を見て本人嫌な気持ちになるのは仕方無いだろうが、何故に周りが迷惑なのかが分からなかった。


その理由がわかった時は既に手遅れだったのだが。






「胡蝶の夢の話は知ってる?」


「あの、蝶になった夢をみた男が目を覚まして。本当の自分はドッチだろう?本当の自分は蝶が見ている夢の中にいるんじゃないかって話ですよね」


「そ。その話は起きた後も覚えてるから変な悩み背負い込むのよね。起きたと同時に忘れられたらよかったのにね」


今どき胡蝶の夢だなんてと思うが、その現代版?この世が全て5秒前に出来て、それ以前の記憶はどこかの誰かがインストールしたモノ なんて話は陰謀論者?がネットとかじゃ囃し立てていた。それを否定する事は難しく、否定した根拠すら予め用意された答えだったかもしれない。


「残念ですね。転生して前人生の文明知識を無断登用する、労せずに得た知識を駆使するだけで実力以上の評価を受けるように便利だと思ったのに、いちいち自分を疑わないといけないなんて、もし間違っていたら大変」


共産圏の設計担当技師なら、全部オールオッケーだと思って飛びついたら役立たずでしたじゃ、人民の資源と資金を無駄にした利敵行為だと良くてシベリア、普通は銃殺だ。


「本やメディアなら読むもの見るものはコッチで選べるけど、この憑き物は勝手にインストールされて、コッチには取捨選択の余地無し。悪意のないコンピュータウイルスみたいで、データ消すんじゃなくてデータを勝手に書き込まれていくのよね。幾らSSDの容量あっても直ぐパンパンになるっての」


知りたいコトをならその本を読むものだが、読みたくもない、それどころか興味のない知識が増えるのはある意味拷問だ。


「加減乗除しらないのに、素数一億桁まで何個あるかの計算式を覚えさせるようなもんよ。モノには選択の自由、順序ってもんがあるのよ。知りたくないことは知らないが一番」


オタクってのはアニメ 漫画は言うに及ばず、科学オタにミリオタにオカルトオタとかも百花繚乱。


中にはJISの工業規格のコード名を丸暗記してる、本当に何をしたいのか分からんオタクまでいたらしい。


そんな相手に出会ってデータをインストールされたらと思うとゾッとする。


「数字嫌いなら発狂するね」


「そんなのまでいるんですか。何の為に」


単なる数字の羅列でしか無いが、それがオタクの生きる道だってもんだと角を立てないように罵倒する。


「それに嬉しくない事に自衛隊員なんてオタの巣窟よ。趣味聞いて付き合う隊員は選んだほうがいいわね」


特にここは特殊で女性隊員が多いので?BLネタにハマってる隊員が多い。


何の趣味を持つかは勝手だが、何故か連中はゾンビが被害者を増やそうとするが如く頼まれもしないのに薄い本を持ってきて、BL世界の素晴らしさを布教してくる。


「それはイヤかな・・・・」


あの世界は仄暗くて ネットの世界並みに広大で おまけに中性子すら潰れ後は質量しか残らないので際限の無い底無し。


貯金通帳の数字も底無しで、二番底三蟠底まで割れて奈落だから気をつけろと言う。ホストに騙されたワケでも無いのにお湯に沈むなんて嫌だ。


「男性隊員にもてたいどうかは知らないけど、BL好きってバレると後退りされるからね」


巫女見習いにキレイな子がいたが、趣味がそれだと知れて男性隊員が冷たくなったと愚痴っていたとか。


「そう言えば覚えが」


中学にもBL好きがいたが、皆どこか遠巻きだった。


ああはなりたくない。






「あ あの、帰っていいですか?」


「どしたの?」


キョドるあたしを心配する。


「島に戻って受験勉強して春の高校入学を目指します。高卒資格を取って、大きな事は出来ませんが小さな世界の片隅でコツコツ堅実に行きていこうと思います」


女子が些細なことで坂道を転がって不幸になるなんてありふれた事だが、BLにハマって人生棒に振って白い後ろ指を差されるなんて凋落人生は絶対嫌だ。


(それに)


ここにはその他とんでもない秘密が、異世界の噂なんて吹けば飛ぶようなとんでもない秘密があるような気がしてきたので、とっとと逃げ出したかった。


しかし察した先輩は首を縦には振らないような顔をしていた。


(いかん。しかし回り込まれてしまった じゃないんだから、世界の半分で了承したと思わせて、一晩考えさせてとトンズラしよう)


「あたしが聞いた話は恐山と東京ビッグサイトと乙女ロードの話ですよ。だから」


秘密を知られた以上はタダで返すわけにはいかない、なんて展開は避けたい。


いや、大半は先輩が勝手に喋ったんだって事で。


それに島じゃオタの学友の影響でオカルト好きな小娘の悪評もあるので、オタ娘の妄言だと世間は信じないはずだから、幾らでも言い逃れできるだろう。だから帰してと思ったが、先輩の笑顔は怖かった。


「・・・・」


愚か者めって先輩の背後から黒い影が立ち上った。


「言葉で聞いているかどうかはこのさいどうでもいいのよ。だってあなたが言ったのよ。言葉にせずとも、他人の思考、または知識が理解できるって」


「あっ」


しまった。


あれは罠だったと今頃気がつく。


親身になったつもりでの口を開かせて言質とされたのだ。




本土は怖い所だと、若いときに本土に行って身も心もボロボロになって島に戻って小さなスナック開いているママさんの言葉は本当のことだったんだと思い出した。


(うう 島に帰りたい)


今頃だが、バイト代が出て授業料はタダでアゴ アシ マクラ付きに甘言につられたが、甘言がついた口に潜むのは毒蛇の牙で、ここが伏魔殿だと背中を冷たいモノが走っていた。


「本当はあたしの担当じゃないからどうでもいいけど、一応お約束と引き止めるのは役どころだから言っておくわ」


ここにいる誰でも知ってる?ここの公然の秘密を知った以上はと、ニヤッと笑って宣言した。


「駄目!」


「ですよね~~」




ああ、もうあたしには帰れる場所が無いのね。


こんな情けない事はない。


お母さんわかってくれるよね。いつでも会いに【墓参り】には行けないようになったけど、わかってくれるよね。




普通の女子中学生人生は終焉を迎えた。






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ここは異世界ですか? 違うんじゃない?[注:個人の感想です]1/3 @forestneko

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