第8話 頼もしい仲間

「ところでアレク、カイデン、私に何か伝えたいことがあって、わざわざ神殿まで来たのでしょう?」


 アレクはシンラからの質問に対して、ごにょごにょと消え入りそうな声で呟いた。


「あ……いや……そのことなんじゃが……お主に頼み事があって来たんじゃよ……」


「頼み事とは?」


「怒らないで聞いてくれるかの?」


「フッ……私は悟りを開いた大僧正、怒ることなどありません。さあ、遠慮無くお話しください」


「う、うむ、そうか……すまんのう……えっと……その……」


 なかなか話さずにモジモジしているアレクを見かねたモッコは、アレクの方に飛び移り、頭をペチペチと叩いた。


「ほれ、焼け野原一号、きちんとシンラに説明してやれ」


「わかっておるわい! それから『焼け野原一号』とはなんじゃ! ちゃんと名前で呼ばんか!」


 モッコを叱りつけたあと、意を決して、アレクはシンラの前で正座をした。


「シンラよ、今から儂が言うことを心して聞いてくれ」


 ―――――――――――――――――――――――


「実は、かくかくしかじかで……」


 アレクは今までに起きたことを話し始めた。


 魔王デモアモンが復活したこと、神様に魔王討伐を依頼されたこと、五日ごとに一歳ずつ若返ること、既に二歳若返っていること、若返り続けて零歳になると最後には死んでしまうこと、などを詳細に説明した。


 アレクが話をしている間、シンラはずっと黙って聞いていた。


「……話は以上じゃ……すまん、シンラ……勝手なことをしてしまった儂を許してほしい……お主が重い病に患っていると知っていたら、儂はお前を仲間に誘わずに――」


「そこなんですよ」


 シンラが突然、口を開いた。


「えっ? どこ? どこ? 儂の顔に何かついてる?」


 慌てるアレクを見て、シンラは苦笑いしながら疑問を口にした。


「そういうことではありませんよ。私は五日ごとに体が青白く光ると、体調が良くなっていくのを不思議に思っていたのです。それまでは咳がとまらず、起き上がるのも困難でしたが、今では瞑想できるまで回復しました。ひょっとすると……」


「ひょっとすると……なんじゃ?」


「若返ると病気や怪我が治るのではないでしょうか?」


「なんと! もし、そうならお主の病も治るかもしれん! それは良いことじゃ! よし、儂が神様に聞いてみるとしよう!」


 アレクは目を閉じて精神を集中させた。


(神様……神様……こちらアレク……神様……応答せよ……応答せよ……)


 いきなり瞑想を始めたアレクを見て、カイデンはモッコに小声で話かけた。


「モッコ殿、アレク殿は何をしているのでござるか?」


「あれは、神様に念を送ってるんじゃねえかな……神様も『力が戻ってきたら念を送る』って言ってたしな……」


(神様……応答せよ……こちらアレク……)


 アレクが神様に念を送り始めて数分後、アレクの頭の中に神様の声が聞こえ始めた。


(……レク……アレク……儂じゃ……神様じゃ……どうした?)


(おお! 神様! 尋ねたいことがあります! 儂らは若返ると病や傷は治っていくのでしょうか?)


(そうじゃ……死んでしまってはダメじゃが……病や傷は若返ると自然と治る……昔の健康な自分に戻れるのじゃ……)


(そ、それでは、今、シンラが病にかかっていますが、これも若返ると治るのでしょうか!?)


(……そうじゃ……病にかかる前の年齢まで若返ればよい……)


(わかりました! それはありがたい!)


(……もうひとつ……クロマの……居場所がわかった……)


(本当ですか!? さすがは神様じゃ! その場所とは!?)


(……イベリア島……そこにクロマは……いかん、もう限界じゃ……念の力が切れる……健……闘を……祈る……)


(神様!? 神様!?)


 念の集中が途切れたアレクは、カッと目を見開き、激しく咳き込んだ。


「……っ! はあっ! はあっ! ゲホッ! ゲホッ!」


 そのを様子を見て、カイデンがアレクを抱き支えた。


「アレク殿! 大丈夫でござるか!」


「す、すまん、カイデン……わ、儂なら大丈夫じゃ……それよりも吉報じゃ!」


「吉報とは何でござるか?」


「神様が言うには、若返ると病や傷も癒えて、昔の健康な自分に戻っていくらしい! シンラよ、お主が今の病にかかったのはいつからじゃ?」


「四年前ですが……もしかして?」


 シンラの目に希望の光が宿った。


「そうじゃ、あと八日経てば二歳若返り、儂らは八十四歳になる! シンラの病も無くなるんじゃ!」


 アレクの言葉を聞き、カイデンは飛び上がって喜んだ。


「それはめでたいでござるな! シンラ殿! もう病に恐れ苦しむ必要はないでござる!」


 モッコもシンラの周りをぐるぐると飛び回った。


「やったな! シンラ! あと八日の我慢だぜ! ついでに髪の毛も伸ばしちまえ!」


 シンラはボロボロ泣きながら、アレク達に礼を言った。


「ありがとう、みなさん! 病が治った暁には、このシンラ、みなさんと共に魔王デモアモン討伐に尽力いたします!」


「おお! それは心強いでござる! シンラ殿がいれば百人力! なあ、アレク殿!」


「うむ、その通りじゃ! シンラよ、あと八日、ゆっくり体を休めておくがよかろう!」


 ―――――――――――――――――――――――


 アレク達がシンラと再会してから八日が過ぎ、アレク達は八十四歳になった。


 シンラの病はすっかり治り、元気な老人になった。


 アレク達は『大僧正の間』にて、次の作戦を練っていた。


 モッコは三人の頭に次々と乗り移り、その感触を確かめていた。


「やれやれ……一号、二号は相変わらずか……その点、シンラの頭はフサフサで乗り心地がいいぜ」


「フフフ、モッコ、言ったでしょう? 剃っているだけだって。あまりおだてないでください」


 モッコとシンラのやりとりを見ていたアレクは、怒りに震えていた。


「……モッコ、一号、二号とは、儂とカイデンのことか……?」


「ああ、そうだぜ」


 悪びれもなく答えたモッコに対して、アレクは深いため息をつき、ぶつぶつ文句を呟いた。


「……育ててやった恩も忘れおって……もう好きにせい……儂もあと二百日くらい経てば……ぶつぶつ……」


「まあ、そう怒るなよ! 勇者は細かいことなんか気にすんな!」


 僧侶シンラが仲間に加わった!!




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