悪役令嬢が、自身の幸せより、王国の繁栄を願った結果 ~国王のシナリオに悪役令嬢がシナリオをつなげたら、上には上がいました~
甘い秋空
一話完結:何か仕掛けがあるように見える
「僕は、正面に立つその侯爵令嬢との婚約を破棄し、横に立つこの美しい令嬢と婚約する」
栗毛の第一王子が、パーティー会場で高らかに宣言し、会場は静けさに包まれます。
「なぜですか」
正面に立つ、金髪の可愛らしい少し小柄の侯爵令嬢は、納得いかない様子です。
「僕の横に立つ、この美しい令嬢をいじめたからだ」
第一王子が言った令嬢とは、彼の横に立つ銀髪のギンチヨ、私のことです。
「いじめなんて、そんなひどいこと、私は行なっていません」
侯爵令嬢が、シナリオのとおり、否定します。
「ひどいです、いじめた方は忘れても、いじめられた方は決して忘れません」
私も、シナリオのとおり、すぐに反論します。
「証拠はあるのですか」
侯爵令嬢が、食い下がります。
「証拠などいらない。僕は、この令嬢を、新たな婚約者だと考えている。それが答えだ」
第一王子が、自分がお花畑だと、自ら宣言してしまいました。これは少し計画外です。
「それでいいな、ギンチヨ?」
「お断りします」
即答してしまいました。これは私のミスです。
「いえ、王家には、将来の妻を示す“宝玉”がありますので、そこで選ばれた令嬢が婚約者となるのが、しきたりになっております」
ズレたシナリオを、無理やり元に戻します。
「そうだったな、僕としたことが、少し急ぎすぎたようだ」
「父上、国王陛下、その宝玉をお貸しください」
国王陛下の返事を待たずに、国宝の宝玉を手に取る第一王子。そのガサツな所が人気がない理由の一つなのですよ。
「宝玉よ、僕の妻を示せ!」
第一王子の声に反応し、手に持った宝玉の上に、光りが、人の形に集まり……そして、消えました。
「誰もいないようですね。公の場で婚約を破棄する男性とは、だれも妻にならないと“宝玉”は言っています」
私は、驚いたフリをして、大きな声でセリフを読み上げます。
「ま、まさか……」
第一王子がヒザから崩れ、床に両手をつきました。
「国王として宣言する。第一王子を廃嫡として、第二王子を王太子とする」
国王陛下が非情に宣言しました。
第一王子が護衛兵によって退場させられます。
彼の婚約者は、力を持つ侯爵家の次女で、王家にとって必要な政略結婚でしたのに、残念な第一王子です。
「新しい王太子よ、この“宝玉”で、自身の妻となる令嬢を見つけなさい」
国王陛下が第二王子を呼びます。
従者が聖書台を設置し、宝玉を決められた位置に置きました。
「宝玉よ、私の妻であり、国母となる女性をお示し下さい」
第二王子の声に反応し、宝玉の上に、光りが人の形に集まり……
現れたのは、第一王子に婚約破棄されたばかりの侯爵令嬢です。
「「おぉ」」会場がどよめきます。
国王陛下のシナリオは完璧です。
第二王子が侯爵令嬢をエスコートして、皆さんの前に立ちました。
会場は、祝福の拍手に包まれます。
「国王として宣言する。この二人の婚約を祝福する」
おいしい所を持って行った国王陛下です。
二人は学園での同級生です。惹かれ合っていましたが、お互いの立場があり、結ばれることはあり得ませんでした。
第一王子の素行に悩む国王陛下と、娘の幸せを願う侯爵とを引き合わせたのは、やはり同級生であり悪役令嬢の私です。
同級生といえば、さっきから鋭い視線を感じます。隣国の王子である黒髪の留学生、クロガネ君です。
彼が何を考えているのか、少し気になります。考えすぎでしょうか。
さて、国王陛下が考えたシナリオが終わりました。
でも、ここまでは、まだ第一幕なのです。
「国王陛下にお願いがあります」
私がシナリオにないセリフを切り出し、国王陛下が意外な顔をしています。
「女王陛下が亡くなり、喪が明けてから、ずいぶんな時間が経ちました。国民は新しい女王を望んでいることは、ご承知のことと思います」
国王陛下は現役バリバリで、国民からの人気も高いですが、横に立つ女王がいないのが、玉にキズとなっています。
「どうしろというのだ? ギンチヨ、まさか……」
「そうです、その“宝玉”で妻となる女性を見つけてください」
私の提案に、会場の視線が国王陛下に集まりました。
「宝玉よ、私の新たな妻となり、女王となる女性をお示し下さい」
国王陛下の声に反応し、宝玉の上に、光りが人の形に集まり……
現れたのは、王太子妃となる侯爵令嬢の姉です。
「「おぉ」」会場がどよめきます。
私のシナリオも完璧です。
侯爵令嬢の姉の才能を見抜き、侍女として、国王陛下に引き合わせたのも、悪役令嬢である私です。
二人は惹かれ合っていましたが、大人の事情を考えすぎ、手も握らないような仲でした。
国王陛下が侯爵令嬢の姉をエスコートして、皆さんの前に立ちます。
会場は、割れんばかりの拍手に包まれました。
めでたしめでたし。
「意義あり!」
祝福の場に、不穏な空気が漂います。
声の主は、隣国の王子である黒髪の留学生、クロガネ君です。
「その聖書台に、何か仕掛けがあるように見える」
あちゃ~、空気を読まない彼です。
「隣国の王子、クロガネ様といえど、何か証拠があって、そのような無礼を口にするのですか」
私が反論します。
彼とは同級生ですが、いつも、こんな展開になります。
彼が絡んできて、私が反論する。
私は、彼のことが好きなのですが、なぜか、いつもケンカになってしまいます。
「それなら、俺の妻になる令嬢を、その“宝玉”で、見つけてもらおうか」
売り言葉に、買い言葉、もうお互い後には引けません。
「よろしい、認めよう」
国王陛下が言いましたが、あの聖書台には、もう令嬢のデータは入っていません、どうするのですか。
「宝玉よ、俺の妻となり、隣国の王妃なる女性をお示し下さい」
クロガネ様の声に反応し、宝玉の上に、光りが人の形に集まり……
現れたのは……私の姿です。
「「おぉ」」会場がどよめきます。
「本物だ」
私もクロガネ様も固まりました。
「今日はめでたい日だ。新たな恋人の誕生を祝福しよう」
国王陛下が拍手をし、会場が祝福の拍手に包まれました。
「ギンチヨ、王国をあずかる者は、常に最悪の事態を想定し、備えることも必要なのだ」
国王陛下が笑っています。
「ありがとうございました」
悪役令嬢に幸せな結婚は、ないと思っていました。
クロガネ様が私に近づき、唇を寄せてきました。
「おい、まちなさい! あちゃ~」
国王陛下の言葉なんて、聞こえませんから。
━━ FIN ━━
【後書き】
お読みいただきありがとうございました。
悪役令嬢が、自身の幸せより、王国の繁栄を願った結果 ~国王のシナリオに悪役令嬢がシナリオをつなげたら、上には上がいました~ 甘い秋空 @Amai-Akisora
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