パーティーを追放されたけど、これ異世界恋愛だよね? 私が魔法で令嬢を美人に見せていたのに、戻ってきてと言われても、もう遅い!

甘い秋空

一話完結:美容セットは、秘密の場所に全て隠しました



「ギンチヨを、王宮のパーティーから追放する!」


 金髪碧眼の第一王子が、声を荒げて、宣言しました。


 王宮で開催される華やかなパーティーは、貴族同士の交流の場です。


 そのパーティーから、銀髪のギンチヨこと、私を追放するということは、貴族社会から私を追放するということです。



 第一王子は、私の婚約者ですが、横に栗毛で美人の令嬢を寄り添わせています。


 彼女の美貌は、私のお店の美容セットを使っているからですね。私なら、一目でわかります。


 貴族の夫人や令嬢の皆さんは、私が秘密裏に魔法を付与した美容セットを使い、美しく仕上げてからパーティーに参加しています。



「婚約は破棄だ! 私は、この美しい令嬢と、新たに婚約することを、ここに宣言する」


 彼は、どうして見た目に騙されるのでしょうか。


 いくら注意しても、解ってはいただけませんでした。



    ◇



「突然ですが、従業員の皆さんには、しばらく研修という名のバカンスに行っていただきます」


 翌日、私のお店で、オーナーとして告げます。


 皆さんは驚くと思っていましたが、王宮での話を知っていたようで、むしろ、領地で自分の家族と共にバカンスできることを喜んでいるようです。


「ギンチヨ様、これが第一王子の浮気調書です」


 そっと調書を渡してくれたのは、王宮でメイドをしている私の潜入捜査官です。


「ありがとう。私は、貴女の代わりに、王宮でメイドをしますので、貴女もバカンスを楽しんでいらっしゃい」


「わかりました。美容セットの在庫は、ご指示のとおり、王宮の秘密の場所に全て隠しておきました」


 私のお店は、優秀な人材に支えられています。



    ◇



「銀髪のお嬢ちゃんは、よく働くね」


 ここは、王宮の洗濯場です。


 先輩のおばちゃんメイドさんが、18歳の私を、ほめてくれました。


 私のメイドとしての仕事は、王族のベッドメイキング、シーツの洗濯です。


 第一王子のベッドは乱れ、シーツは汚れています。これは、昨晩も浮気をしていましたね。


 王宮で暮らすことになった新しい婚約者のベッドも乱れ、シーツは汚れています。これは、まさか?


「お嬢ちゃんは知らないと思うけど、あの二人には、複数の浮気相手がいるんだよ。そういう二人だから、早く慣れなさい」


 先輩のおばちゃんメイドさんが教えてくれます。これは、もっと面白い話が聞けそうです。



    ◇



「最近、パーティーへの参加貴族が少なくなって、私たちはヒマなのよ」


 王宮のパーティーを担当するメイドさんが、ヒマを持て余し、話をしています。


「それがね、夫人や令嬢のお化粧が上手くいかなくて、パーティーに参加できないらしいのよ」


 どこかの貴族のメイドさんから聞いた話のようです。



「男女平等となってから久しいけど、実際は、国政は女性が握っているのよね」


 先輩のおばちゃんメイドさんも話に加わっています。


「全て、第一王子が、美容セットのお店を閉じたせいなのよね」


 私も、井戸端会議に加わります。



「「あの第一王子は最低よね」」

 皆さんが声をそろえました。



    ◇



「どういうことだ、美容セットの店を開けと、貴族から、すごい数の苦情が来ているぞ」


「この貴族も、上手く化粧が出来ないので、パーティーを欠席するだとよ」


 ベッドメイキングしていると、従者たちの怒号が漏れ聞こえてきました。



「オーナーのギンチヨ嬢はどこだ、早く探し出して、戻ってきてもらえ!」


 従者たちが、悲痛な叫びをあげています。


(この状況は、貴方たちが第一王子の暴走を止められなかった自業自得です)


 シーツを入れたカゴを運びながら、もう遅いのですよと、心の中で笑います。


 実家にも、私の行動は教えてないので、当分は、このメイドに扮したままで、混乱を楽しむことにしますか。



「ギンチヨ、何をしている?」


 第二王子の部屋でベッドメイキングしている時に、突然、声をかけられました。


「クロガネ様……」


 黒髪、そしてホホに残るキズ、彼は幼馴染の第二王子です。



    ◇



「落ち着くまで、ここで過ごすといい」


 ここは第二王子……クロガネ様の離宮です。


 彼に見つけられてしまった私は、秘密裏に第二王子の専属メイドへと配置換えされました。



「ホホのキズは、まだ少し残っているのですね」


 そのキズは、私のせいです……


 幼いころ、彼は、私を取り戻すため、兄である第一王子と決闘をしました。


 年上を相手に、彼は叩きのめされ、ホホにキズを負いました。


 私が止めに入って、第一王子の婚約者になることを承諾することで、その争いは治まりました。



「気にするな。後先を考えずに動いた、若さゆえのあやまちだ」


 私も第二王子も、自分の立場は、政略結婚の道具であることを、幼いながらも、理解していました。




「ギンチヨは、赤いルージュがよく似合う」

 彼は、懐かしむように、見つめてきます。


「クロガネ様、あの時とは、状況が変わりました」


 私は、彼の吸い込まれるような黒い瞳を見つめ、覚悟を決めました。




「貴族たちに、美容セットを使ったお化粧の仕方をお話ししたいと思いますので、女王陛下のお力添えの方をお願いします」


 彼の良い返事を得て、私は、従業員たちを、バカンスから呼び戻す手はずを整え、隠してあった美容セットを開封し、魔法を付与しました。



    ◇



「ギンチヨ、この度の第一王子の過ちについて、私からも謝罪します」


 私はカーテシーのまま、女王陛下から、お言葉を頂きました。


 第二王子の離宮にまで足を運んでいただき、恐縮しているところなのに、もったいないお言葉です。



 女王陛下から、次のとおり話がありました。


 第一王子は、全ての役職を解き、浮気相手を含めて王都から追放する。


 そして、この第二王子を、王太子として任命する。



「まさか、この離宮に隠れていたとは……あなた達は、まだ引かれ合っていたのですね」


 女王陛下のお声は、なぜか少しうれしそうです。



「美容セットの講習会の話は分かりました。私が主催して、貴族を招集します」


 女王陛下の力添えを得ることができました。


「皆さん、喜んで参加することでしょう。これで、貴族社会が元に戻ります」


 どうも、貴族社会の内情は、大荒れになっていたようです。



「ギンチヨ。このクロガネの正妻となり、王太子妃となることを、引き受けてほしい」


 女王陛下からの思わぬお言葉に、思わず顔を上げてしまい、ポカンとしてしまいました。



    ◇



 今日も朝日がまぶしいです。


 美容セットの講習会は、皆さん喜んでくれて、上手くいきました。


 お化粧で美しくなることで、自分に自信が持てるとの話でした。


 素顔の方が自然で美しいと思いますが、商売のためには、ヨイショすることも必要です。



 第一王子と浮気相手は、王都から追放した直後に、国の秘密保持のため、消えて頂きました。




「ギンチヨ様、第二王子様のベッドメイキングは、私たちがしますから」


 メイドさんが困ったという声を上げます。


 私は、あれからもずっと、クロガネ様の離宮に居座っています。


「この仕事だけは譲れないわ」


 そう言いながら、王国の秘密事項である赤いルージュが着いたシーツを、自分で洗います。




 ━━ FIN ━━





【後書き】

お読みいただきありがとうございました。

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パーティーを追放されたけど、これ異世界恋愛だよね? 私が魔法で令嬢を美人に見せていたのに、戻ってきてと言われても、もう遅い! 甘い秋空 @Amai-Akisora

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