【異世界ダンジョン】皆がアンデッドになった古の廃都で、その少年は、まだ戦えると信じていた。【ボーイミーツガール】

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第1話 心が折れそうな少年

 少年は、相変わらず、詰んでいた。



 何度挑戦しても、“ダンジョン”のリザードマンが倒せないのだ。


 久しぶりの攻略にトラップに引っかかった挙句、リザードマンが持つ大型のサーベルに引き裂かれた。

 盾を構えて、暗闇を必死に走り切り、先へ進んだとしても、“巨大な振り子”の赤い染みの一つとなった。


 なんか、白い光とともに、遠くから魔法が飛んできて、ハメ殺されたこともある。


「う~ん。う~ん。」


 ダンジョン“修練の古城”の巨大な城門の前で、ぽっかり空いた入口の暗闇を見つめながら、少年は、悩んだ。

 かつて甲冑の女剣士が、同じ場所で、そうしていたように、唸っていた。

 

 そういえば、彼女は、一体どこに向かったのだろうか?

 こうして、悩んでいたら、彼女が現れて、一緒に戦ってくれたり、しないだろうか?

 

 古城の城壁の前には、同じように悩んでいる者達が多く座り込んでいる。

 ただ、誰も互いに声を掛けようとはしない。

 お互いに距離をとっている。

 

 ほとんどが、独り“ソロ”だが、2~3人のパーティで固まっている者もいる。

 ここも含め、全てのダンジョンには、特殊な呪いのため、人数制限があるのだ。 



 かつて少年は、遠い異国から、世界を救うために、巨大な迷宮“ダンジョン”を有する国にやってきた。

 もう、遥か昔のことのように思える。


 回復魔法を扱う彼は、“天才だ”、“神童だ”、やれ、“神の奇跡”だと称賛された。


 彼は、国を代表する“勇者”として、“勇者の刻印”を得た。

 少年は、自分こそが、魔王を倒し、“霧”で満たされつつあった世界を救うのだと信じて疑わなかった。


 最果ての異国にたどり着くと、多くの人々が彼を歓迎してくれた。

 威勢よく地下ダンジョンの“廃都”に潜り、少年は、そこで現実を知った。


 実際は、体よくダンジョン攻略のための生贄にされただけだった。

 彼の魔法は、ダンジョン内では、初歩的な魔法の一つだった。

 

 供の者達は、最初の階層で、息絶えた。

 彼の回復魔法では、助けられなかった。


 少年は、死者を蘇生できるほど、高度な魔法は扱えないのだ。

 普通の人間を、蘇生させる魔法は、存在しないらしいが。

 

 ただ、少年自身は、“死ななかった”。

 ダンジョンに潜り続ける中で、気づいた。


 “生贄の刻印”のために、死ねない。

 “勇者の刻印”は、ダンジョンに強者を捧げる際の目印、“生贄の刻印”だった。


 この巨大な“ダンジョン”そして“最奥にいるモノ”に、“マナを捧げる”ための存在。

 

 巨大ダンジョン“廃都”は、一方通行の“異世界”だった。

 一度降りたら、もう、人の世には戻れない。

 

 回復に長け、不死身の呪い“生贄の刻印”を持つ彼のみが、ようやく“廃都”の入口にたどり着いた。


 複数の階層や“ダンジョン”が繋がっている巨大な異世界“廃都”。

 “修練の古城”ダンジョンにたどり着くまで、4年以上かかった気がする。

 いまだに、この先を突破できていない。


 もう、“ソロ”はやめようか。

 いいや。

 諦めずに、ここまで来た。

 この“ダンジョン”も必ず攻略できるはず。


 だが、今日は休もう。

 鍛冶屋ギルドに預けた“少女”に、早く会いたい。


 少年は、やがて諦め、古城に向かう長い石造りの道を、トボトボと逆方向へ歩き始めた。


 たぶん、今の僕は、攻撃力が足りないんだ。


 聖職者の少年は、戦闘に関して回復魔法を多用する、長期戦向けの戦術であった。

 敵に止めを刺すための、最期の決め手に欠け、敵を倒しきれないことが多い。

 逃げ回っているうちに、大勢に囲まれて、袋叩きにされるのは日常茶飯事だ。


 

 意地を張らずに、先人達の残した攻略情報を、ギルドで、よく見なければ。

 

 その前に、鍛冶屋の“レイア”姐さんのところで、武器を強化しよう。


 そのためには、強化素材“魔石”を買うための“マナ”が要る。

 いくらぐらい、必要だろうか?

 

 一番最後に、攻略した最下層の“廃村”を、ぐるぐる回るのが、経験値稼ぎには良いかもしれない。 

 他の未踏エリアの敵は、強すぎて、一撃死しかねない。

 

 “廃村”入口の、巨大な人食い鬼、“オーガ”相手に、“追いかけっこ”をしようか?

 

 鬼が2人になった瞬間、死が確定する。

 複数に挟まれないよう、逃げる場所には、注意しないと。

 

 まあ、最初の頃と比べれば、慣れたものだ。


 それに、高所から足を滑らせて、落ちていく巨大な“鬼”を眺めるのは、楽しい。

 少年は、その情景に、仄暗い“愉悦”を感じ、クスッと笑った。



 



 かつての“廃教会”の地下に、カンカンと高く、金槌をふるう音が響く。


 鍛冶屋ギルドは、かつてまだ、普通の人間が多くいたときに存在した“教会”があった場所に立っている。

 

 以前まで、存在していた普通の人間達は、“生贄の刻印”を持つ“不死者”達が、外界から際限なく訪れるため、いつしか、数を減らしてしまった。もうほとんど居ないだろう。

 

 古い時代から、祈りと信仰の場所であった場所では、今は別の者達が“祈り”を捧げている。


 鉄と工具を信奉する“鍛冶屋”達だ。


 鍛冶屋ギルドの歴史は古い。

 はるか昔、古い時代に滅んだドワーフ族が創設したという、由緒正しい組織だ。

 

 活動していた町の中心部が、“不死者”の成れの果て、“アンデッド”ばかりになったため、ずいぶんと昔に、ここに引っ越してきたらしい。


 鍛冶屋ギルドは“中立”のカルマを掲げており、一切の暴力行為が禁じられている。

 ここは、安全地帯の一つといっても良い“聖域”なのだ。


 門番達に軽くあいさつして、“廃教会”の敷地に入る。

 鍛冶屋ギルドの利用者は多く、いつ来ても活気がある場所だ。


 広場中心部の“要石”周辺にも、多くの人で賑わっている。

 夕暮れ時のためか、露店からは、美味しそうな料理を売っている。

 まるで、故郷に帰ってきたかのような感覚で、気分が安らぐ。

 

 少年は、露店の一つで足を止める。

 焼き鳥の香ばしい香りが、辺りに広がっている。

 “鍛冶屋”や“少女”へのお土産として、少し買っておこう。

 

 少年は軽い足取りで、建物の一つに入る。

 多くの部屋が立ち並ぶ廊下を渡り、少年は、注意深く、なじみの鍛冶屋の工房に向かう。

 少年のカルマ属性が“善”とはいえ、部屋を間違えると歓迎されないだろう。 



 精錬の釜戸の熱気が籠った、暗い部屋にて、半裸の女が、ハンマーを大きく振りかぶり、手元の武器目掛けて、休まず振るい続けている。

 

 規則正しく、大きな音が鳴り続けることから、彼女の“筋力”の高さが伺える。


 少年は、背の高い筋肉質の女を邪魔しないよう、背後からゆっくりと近づいた・・・。


「おう! 坊や、無事だったのかい?」

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