妄想世界
太郎ま
第1話
良く夢を見て、夢の中の出来事を思い出すことがある。
同じ夢の世界を何度も訪れることもある。
夢の世界は、現実とよく似ているが少し違う。
見知らぬ人がまるで以前から知っていたかのように登場して、
何故か親しみを感じることがある。
そんな夢の中で意外な結末を見て「これは夢だ」と気付くと目が覚める。
そんなとある人間のイメージを3つのモノリスが投影し、もうひとつの世界が創造された。
そのもうひとつの宇宙に点在する星々の中の一つである惑星に、
不思議な鉱物達が住む洞窟が広がっていた。
その洞窟の奥には世界を投影したとされる第一のモノリスが存在する。
モノリスからは緑色のガスがにじみ出ていた。
霧は広がったり、繋がったりしてゆっくりと尾を引きながら
薄明かりが射す洞窟を進み、しばらくすると人間の形を作り歩き始めた。
その狭い洞窟は銀色に輝く鉱石の結晶で埋め尽くされていた。
鉱石の結晶の一部がくずれながら動き、尖った頂点を一斉に霧の人の方に向けた。
霧の人はそのの異変に気付き歩みを止めた。
集団からはぐれたように一生懸命に一つの塊がモノリスの方向に崩れ運動していった。鉱石の塊は少し進んだ後バラバラになって息絶えたように動かなくなった。
その様子を見た霧の人はその塊を両手で拾い集め、モノリスに供えた。
霧の人が宇宙に存在し、最初の祈りをモノリスへ運んだ瞬間だった。
その霧はモノリスにその祈りを運んだあと、広がって銀色の鉱石の塊を包み込んだ。
霧はぐるぐるとまとわりつくと、最初に2つの目をつくり、その後さらに4つの足をつくった。
その銀色の鉱石は目を赤く光らせたあと、お礼に角と背中の一部を崩してモノリスに捧げた。
銀色の塊はその4つの足でせっせと歩き、最初の"狩り"をはじめた。
銀色の塊は動かなくなった他の鉱石を砕いて集めたものをモノリスに運び、供えた。
いつも霧は銀色の塊にまとわりついていた。
捧げものを持っていくと霧の人が体を大きくしてくれるので、狩りはどんどん捗るようになっていった。霧が次の獲物へと銀色の塊を導いた。
狩りをするたびにその体の一部が少し剥がれ落ちたが、痛みや恐怖を理解できない銀色の塊は、ただモノリスへ獲物を供える為に淡々と"狩り"を進める。
この痛みや恐怖を知らない”無痛の者”は、長い年月、霧を纏い霧に導かれながら狩りを続けた。
霧は無痛の者の祈りをモノリスに運び、
祈りを受け取ったモノリスから送られてきた”神の力”を無痛の者に与えた。
石を探し、供え続ける日々。
無痛の者はある日、自分の分身を授けられた。
自分に付き従う分身を貰ったことがきっかけで、
無痛の者は分身と連携して狩りをすることを覚えた。
その後、モノリスから腕輪を授かった。
その腕輪を無痛の者が1つの前脚にはめてみると、
動いても体の一部が崩れ落ち無くなった。
無痛の者は2本の後脚で立ち、2本の前足を腕に変えた。
最初に腕輪を身につけた無痛の者が2本の脚で歩き始めると、
分身の者たちもそれに続いて立ち上がり、腕を使い始めた。
無痛の者たちは合体して宇宙船になった。
宇宙船は霧を纏い、神の力を推進力に変えて捧げものを探しに宇宙へと旅立った。
狩りをして、石や生命をも見つけてきては供え、体を貰った。
ある日、無痛の者に纏わって獲物を探し宇宙空間を漂っていた霧は突然、
一筋の緑色の光となり青い惑星に突入していった。地球だ。
宇宙船も地球に進路を変更し霧が変化した光の後を追う。
先に光子となった霧が降り立ったのは信仰の深さを象徴しているかのように中心部に巨大なモスクがそびえ立つ街だった。
緑の霧は人の形に変化し”興味深い”とでも言うかのように礼拝している人間の姿を観察しはじめた。
その後、霧を目撃した街の住人のから”霧の亡霊”の噂話が広まった。
巨大なモスクの立つ街の一角には墓地と隣接するバーがある。
そのバーには地下構造があり、表向きは酒の貯蔵庫として使われているが、
裏では不正規な武器の取引が行われることがあった。
その地下の奥へ進むと、上方に墓地が広がっている。
そのあたりの地下の壁のうしろには第二のモノリスが土で固められ、
密かに存在している。
バーの店主"カシム"は第二のモノリスの存在を誰にも知られず、秘密にしていた。
今やこの国は政治的緊張が高まっていて戦争の火種の様相が露見し始めている。
大国が国際秩序という理想を掲げ、この国で盛んに行われる武器貿易の支柱を砕かんと躍起になっている様に見せかけ、
実際には資源を巡る戦争を正当化する根拠を求めているのだ。
その緊張は民衆の心理にも影を落とし、信仰の象徴とも言えるこの街も含め国全体に不穏に空気が漂っていた。
ある日、
第二のモノリスが存在するバーに若い未亡人の女性"エリアナ"が訪れた。
エリアナは占い師からバーの店主カシムを訪ねる様に言われたそうだ。
2人は打ち明け次第に深い話をする仲になっていった。
「その占い師っていうのは、両目を隠した?」
「そう!その通り!当たるって評判なの」
会話は彼女の夫の話から信仰の話へ、
信仰の話を通じて神の話と発展していった。
2人は意気投合し議論を交わし合った。
カシムはエリアナにモノリスと神、自分のことを語った。
カシムの先祖が残した"神を讃える歌"をエリアナに教え、
先祖が残していたとされる”絵”を彼女に見せた。
その歌と絵は、これまでにない新たな神への信仰を象徴していた。
エリアナが大いに興味を示したので、気を良くしたカシムは店を閉める時間を過ぎた後もより深く神についての説明をしてやった。
そうやってカシムはエリアナに新しい視点の信仰を啓示した。
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