第47話 幽霊部活

「俺部活動見学行かなきゃならんやん」


昨日、奈珠華の俺が入った部活に私たちも入る宣言のせいで、先生もクラスメイトもお前部活入れよみたいな雰囲気になっている。


幸い、志歩が俺にボクシング部に入って欲しいみたいな事をぼやいたとの事なので俺はボクシング部に入る予定が決まっている。


今日も勧誘の嵐だったが、全て「もう入りたい部活は決まってるので、もし見学にきたらよろしくお願いします」と言って逃げてきた。


先輩も俺が何の部活に入るのか決まったと分かったからか勧誘の嵐は段々と落ち着いていた。


とはいえ、勧誘の嵐が完全に収まったわけでは無い。


時々ボクシング部以外の先輩たちが


「何の部活入るのか教えてくれないかな?」


と聞いてくる。


しかし、ボクシング部以外の先輩に向かって「ボクシング部に入ります」とでも言ったらまた勧誘の嵐が始まりそうなので「ちょっとそれは……」と言葉を濁して返答していた。


そう言っても、先輩たちが期待する目を辞めない。


その期待に答えることは出来ないので少し心苦しくなった。


「しっかし、ボクシング部の勧誘だけ来ないな」


そう肝心のボクシング部の先輩たちが勧誘に来ないのだ。


「なぁ、奈珠華?本当のボクシング部ってあるのか?」


言い出しっぺの奈珠華が俺の部活見学に同行することになっている。


ちなみに今日は部活見学のために早めに授業が終わっているのでレッスンに遅れることはないそうだ。


「なぁ、あるの?」


反応が無いので再度聞いてみたら。


俺は元々部活動に入るつもりが無かったので部活動紹介などロクに見ていない。


だから何部が存在するのかも把握出来ていないのだ。


もちろんボクシング部が本当に存在するのかも分からない。


奈珠華に何を言われても嘘だと見破る方法が俺にはないのだ。


「ある……はずよ、書類上は」


「ん……?」


何やら不穏な単語が聞こえてきた。


書類上は?


存在はするけど活動していない可能性もあるってこと?


だとしたら、ボクシング部だけが勧誘に来ないことにも納得がいく。


「ちょっと理恵先生に確認しに行ってくる」


そう言って俺を1人置き去りにして奈珠華は職員室に行ってしまった。


「えぇ〜〜〜」


部活について全く知らない俺は何もすることが出来ないのでスマホをいじって時間を潰していた。


「失礼します……」


「なんて言われ…どちら様ですか?」


女子の声が聞こえたので反射的に奈珠華だと思い反応してしまったが、そこに立っていたのは見知らぬ女子だった。


胸元のリボンは2年生であること示す薄紫なので先輩だろう。


「あの……どのようなご用件で?今理恵先生はいませんが……」


「あっ、あの!私ボクシング部のマネージャーの風間と言うんですけど、ボクシング部に入りませんかっ!?」


急に早口で話し始めた。


しかもボクシング部のマネージャーで勧誘に来たらしい。


「はい、入る予定ですけど」


「え!?本当に入るんですかっ!?」


自分から聞いといてなにその反応。


本当に入ってもらえるとは思っていなかったのだろうか。


「本当です、本当本当」


念を押すためにもう1度言った。


「あれ?なんで先輩がいるの?」


すると奈珠華が戻ってきた。


というかさっきの奈珠華の先輩という発言でとんでもない事実に気づいてしまった。


「おい奈珠華、お前高2じゃ無かったっけか?」


それは俺たちが初めて会った時のことだ。


奈珠華は俺に高2だと伝えていたはず。


しかし今、俺と同じクラスになっている。


ということは俺に嘘をついていたと言う事になる。


どうせ先輩だと思わせて敬語を使わせたかったとかだろう。


「スゥゥ…………」


全力で目を背けている。


「初対面の相手に嘘をつくその度胸には感心するよ」


「せ、先輩が困ってるよ」


コイツ露骨に話しを逸らしてきやがった。


もうちょっと追及したいが、本当に先輩が困っているのでこれ以上の追及はやめておいた。


「話それちゃってすいません。ボクシング部の方に案内していただけますか?」


「は、はい!もちろん!」


そうして俺と奈珠華が風間先輩に連れられ別棟へと案内された。


「ここがボクシング部の主な活動場所です」


「「いや、これ活動してる?」」


行ってみた最初の感想がそれだった。


どう考えても活動している部活の部屋じゃないのだ。


汚いとかでは無い、全て新品同様なのだ。


活動していたらサンドバックになどにが付いていたりするがそれも殆どない。


ただ、必要かもしれない!一応作って置こう!という感じのする部屋だった。


「あの〜先輩?」


「実はボクシング部、部員が私ともう2人。合わせて3人しかいないんですよ……」


ほうほう、マネージャー1人と活動メンバー2人と……


しかもこの様子を見る限り殆ど活動はしていない、と……


「幽霊部員ならぬ幽霊部活じゃねえか!!」


新品同様のリングに俺の叫び声が響いたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る