第45話 料理レクチャー

「今日は酷い目にあった」


放課後、何故か橘に学校案内を頼まれた俺は写真ネタに志歩と普段どんな生活をしているかとか色々喋らされた。


最初、恥ずかしい部分は隠そうとしたが


「嘘ついてもいいけど、後で志歩ちゃんに聞けるからね」


と言われ正直に言うしかなった。


警察の取り調べでも俺は受けているのか?という気持ちになった。


しかし昨日今日と藍沢社長には呼び出されていないので家でゆっくりすることができる。


志歩がアイドル活動を再開して今日で1週間が経つ。


そしてこの1週間で志歩が居て騒がしいのが当たり前になってしまっていたのだなと実感した。


いつも隣にいる話す相手はいなし、部屋は静かだし。


何故か落ち着かない。


つい1ヶ月前まで「1人の方が良いだろ」とかほざいてたいたのに、今はそれが嘘のようである。


しかも寂しい以外にもう1つ問題がある。


少なくとも俺は洗濯と皿洗い、風呂洗い、それ以外ほぼ何も出来ない。


志歩のレッスンは8時半までで、移動も考えると家に帰ってくるのは9時ちょい過ぎくらい。


志歩は事務所で軽食が貰えるらしいが、俺は料理が何も出来ない。


コンビニ弁当を買いに行きたいが


「コンビニ弁当はあんまり身体に良くないからダメ!!私が帰ってから作るから!」


と言われてしまった。


「腹減った………ぐぅぅぅ〜」


結果、こうなるわけだ。


今までする必要が無かったので身に付けようともしていないのでほとんど何も出来ないのだ。


(申し訳ないけどレッスンがオフの時に志歩に料理教えて貰おう)


そして俺は空腹とかに耐えかねて、そう決意したのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふ〜〜ただいま!ゆーくんっ!」


「おぉ〜ただいま」


しばらくして志歩が帰宅した。


「汗でビチャビチャだからお風呂入ってくるね!そのあとご飯作るから待ってて!」


そういって荷物を置いて速攻で風呂場に行ってしまった。


(疲れているはずなのに……)


ご飯を作ってくれるのはありがたいが、同時に申し訳なさも込み上げてきた。


普通であれば、俺がご飯を作っておくべきだろう。


だが俺は料理がほぼ出来ない。


これが俺が志歩に料理のレクチャーを頼もうと思った理由のもう1つだった。


「志歩が出来るタイミングでお願いしたいんだけど、料理教えてください!」


俺は夕食を食べ終わったあとに志歩にそう頼んだ。


「なんで?」


「いや、だってさ、志歩いつもレッスンで疲れてるのに料理作ってくれるじゃん?だから俺が料理できるようになれば、志歩がもっと休めるようになるんじゃないと思ってさ」


「ん〜…………分かった!明日オフだから明日教える!」


「オフの日に申し訳ない」


「大丈夫!ゆーくんと居ればいつでも休憩だから!」


よく分からないが教えてもらえるようだ。


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「よーし、じゃあゆーくんこっち来て!」


昨日、言ってた通り俺は志歩に料理を教えてもらっていた。


まずは包丁からだ。


「今日は焼きそばにしたいから人参切る!1回お手本見せるね!」


そういって高速で人参をスライスしていき、数十秒で切り終わった。


「まず猫の手は分かるでしょ?」


「うん」


「猫の手で人参押さえて、指の第二関節を包丁の側面に当てながら切るんだよ。そうすれば指切らない!最初はゆっくりね!ゆーくんが私みたいにやったら指がスパッ、ポトッてなっちゃうから!」


最後の効果音は指が取れてるでしょ。


俺の技術によっては取れるかもしれないけど。


「分かった」


怪我をするのは嫌なのでゆっくり人参をスライスしていったが上手く同じ厚さで切れていない。


すると俺の手に志歩の手が重なった。


ついでに俺の背中に柔らかい何が押し付けられている。


「そうそう、ゆっくりね〜」


志歩は気づいていないようだ。


微笑みながら俺の顔を覗き込んでいる。


そして俺の背中で志歩についてる双山がグニグニと変形している。


(手元、手元、胸、手元、胸、胸……)


意識を手元に向けようにも、どうしても胸に意識がいってしまう。


俺は必死で手元に意識を向けながら野菜を切るのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おー!初めてにしては良く出来てる!」


10分程かけ志歩と同じ量の人参をスライスすることが出来た。


時々胸に意識が向いてしまい、若干厚さは不揃いだが大体合っているので大丈夫だろう。


そのあと、他の野菜の切り方も教えて貰った。


玉ねぎは時間かかるのと、俺が嫌いなので自分で料理することはないだろうとスキップされた。


俺は玉ねぎを切っているのを見ていたが、見ているだけなのに目から涙が止まらなかった。


志歩もめっちゃ涙を流していた。


「玉ねぎってこんなに涙出るんだね」


「うん、だから私もあんまり使いたくない」


志歩の泣き顔のドキッとしてしまったのはここだけの秘密だ。


志歩が玉ねぎを切ってる間、俺は別な食材を切っていた。


「冗談抜きで、ゆーくん意外と料理の才能あるんじゃない?」


そして志歩にそう言われるほどには、上手く出来た。


「次は焼いてみよっ!」


うちはIHなので火災が起きたりはしないのでそこは安心できる。


「温度と油は私がやっといたからここからはよろしく!」


志歩が近くで見守る中、俺はフライパンに人参を入れた。


そしてちょっとしてから、他の食材をフライパンに食材を入れていった。


「これで完成っ!」


志歩が火を止めた。


料理を始めて1時間程、ようやく焼きそばが出来た。


多分、志歩がやると30分くらいで終わるだろう。


志歩がいかに料理上手か実感した時間だった。


「「うん、味も美味しい!」」


見た目は大丈夫だが味がヤバいみたいなことはなく、普通に食べれるものだった。


「「ご馳走様でした」」


「じゃあ片付けようか………」


明らかにテンションの下がった声が聞こえた。


「いいよ、今日も俺やるから」


志歩のアイドル活動が再開してからは俺が後片付けをしていたが今日は自分でするつもりだったのだろう。


「いいの!!やった!ゆーくん大好き!!」


そしていつも通り抱きついてきた。


前までは恥ずかしさが勝っていたが、今日は何故か安心感を覚えたのだった。

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