理想のあなたに逢えますか

鯖虎

第1話

 良い縁あります

 そんな怪し気な立て札の横で、じじいともばばあともわからぬ老人が座り込み、黄ばんだ歯を剥き出して私に笑いかけていた。

 縁結びの本場出雲大社にわざわざ神在月に参拝した帰り道、扁額の字も読み取れない、古くて小さな神社でのことだった。

 神社の人に許可を取っているのかな、なんて、そんな問いかけは野暮というもの。

 あまりの胡散臭さに却って興味を持った私は、老人の前の椅子に座ってみた。単に、疲れたから座りたかったのもある。

 しきりに賽銭箱を指差すので小銭を入れてから座り直すと、笑っているのか――丸めた和紙のような顔になった老人は、古びたお札を差し出して、家の奥の高い所に置けと言った。

 不思議なことに、お札を飾ってひと月もたたない内に、まずまずの相手と関係が深まった。ご利益というのは本当にあるものなのか。向こうも長いこと相手を探していたようで、ゆくゆくは、と言う話も出た。

 ただ、どうにも目鼻立ちが気に入らなかった。ご利益をありがたがれと言うのなら、もっと美形でも良いではないか。

 それを老人に伝えると、今度は白く新しいお札を渡された。次に出会った人は相手を探し始めたばかりで、とても綺麗な顔立ちだった。

 ただ、本人もそれを鼻にかけているのだろうか、連れて行かされる店も、買わされる物も値段が高く、おまけにキツい物言いが気になった。

 それを伝えると、老人は嘆息しながらレンタルビデオ店の会員カードを差し出した。

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