転生魔王は劣等生
@nasu_umai
第1話 魔王転生
「本気、なのか……? 魔王が勇者に殺してほしいなんて」
「ああ、本気だとも勇者アケト。俺をこの剣で殺せ。これは転生の剣という。殺したものを転生させる力のある剣だ」
魔王城謁見の間。二人の力あるものが対峙する。
魔王こと俺は一振りの青い剣を掲げる。『魔剣リィンカーネーション』死神達の持つ刈り取りの鎌から着想を得て作られた剣だ。
「訳を言え! 何か企みがあるはずだ」
「アケト……そうではない。少し振り返ればわかる。貴様は勇者になって幸せだったか?」
「え……それは」
アケトが幸せなはずはなかった。
アケトが勇者になったのは一年半前にさかのぼる。魔物に家族が殺され、村は焼かれ、最愛の人を亡くした。
それでも前を向いて生きようと思った時、呼ばれたのだ。
そして気づけば手に伝説の勇者の刻印があった。
対する魔王である俺も幸せではない。魔王に覚醒するまでは普通の魔族だった俺だが、覚醒した途端に全てを壊したいという衝動に駆られ人間領の国一つを三日足らずで滅ぼしてしまう。さらに魔物であった婚約者を力が覚醒した時の暴走で殺してしまった。
その後冷静になってかつての魔王、勇者と言われた存在の歴史を振り返ると似たようことばかり起こっていたらしかった。俺がその情報を知らなかったのは一魔族には知る術のない知識だったからだ。
この魔王と勇者の不幸な仕組みは当然知るものは知っている。特に長生きな魔族の重鎮達は知っていたのだ。
彼らに問いただすと『それが世の理だから』と言った。要は自分たちの責任ではないと言いたいのだ。理不尽なことだが繰り返されてきたことだから、と。
勇者に倒されるまで我らの王として頑張ってほしいと暗に言われていたようでもある。
ふざげるな。
だから今回、勇者に軽く掃除をしてもらってその上で俺のところは来させた。
転生してやり直す。
そしてこんな魔王と勇者のシステムなどはぶち壊す。それが狙いだった。
世界に抗いたかったのだ。
「言い残すことは?」
「そうだな。それでも前を向いて生きる、かな?」
「今から死ぬのに?」
「ああ、悪いものを断ち切るために必要だからそうする。だが、前は向いているさ。転生してもそうするだろう」
「転生なんてなければ同じことをしていたか?」
「いや、耐えて生きただろう。それこそ前を向いて」
「そうかい」
ザシュッ、と音が鳴る。
落ちたのはなんだ? 視界が妙に下にある。
ああ、俺の首か。
ドクドク……ダラダラ……。
目の前は暗くて、暗くて……。
「うわ!」
俺は深夜に目を覚ました。服は寝巻きではなく学生服? 次々と記憶が蘇る。
明日、魔法学園が始まるから嬉しくて制服で寝てたんだ。
いやそれよりも。
俺はバッと明日から行く学園の教科書を探した。それのできるだけ後ろにある高等魔術のページを見る。
「闇の炎」
夜の闇の中、暗い炎が手のひらに現れる。
何者をも焼き尽くす冥界の炎だ。俺にとっては赤子のような技だが……。
できた。
それも一瞬で理解して。高等魔術なんて今まで教わったことがないのに。そりゃそうだ、だから明日から学ぶんだから。
「じゃあ、ええっとテレポート」
言った瞬間に家の屋根の上に。
空は満天の星空。
そして俺は理解する。
「そうか、俺は魔王だったんだ。名前は……同じラルス。うん、ラルス=ウェンドリックだ」
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