第109話 家に帰る

先日、介護職の友人に会った。

高齢者施設の入居者さんはやはり

「うちに帰る」と良く言うらしい。

彼女の働く施設は認知症のある人がほとんど。

最近の私には「うちに帰りたい」と言う高齢者の気持ちがすごく良くわかる様になって来た。ホッとしたいんだよね。ただそれだけだ。

どんなおうちなの? 誰が待っててくれるの?

心の中に何を描いているのか、聞いてみたい。

私の帰りたい場所はここだ。ここにいて、子供達に「おかえり」って言いたい。

これから30年経った時、ここにいられるだろうか。

子供たちは、たまには帰って来てくれるだろうか。

昔、実家で猫を飼っていた。

とても昔なので、猫たちは放し飼いだった。

具合が悪くなって来ると、猫は帰って来なくなる。

およそのおうちでも、床下で死なれたくはないから

「うちにいましたよ」と言って、連れて来て下さった事が、何度もあった。

年老いた猫は、静かな場所でひっそり逝きたいらしかった。大体の子がうちで亡くなったが、中には見つからなくなってしまった子もいた。

「家に帰る」と言う高齢者を、そのままにさせてあげられたら良いのにな。「帰りたいよね。行っておいで」と送り出してあげたい。認知症があると、途中で何をしていたのかを忘れてしまうから、そういうわけに行かないんだけどね、老い先短いのに、思い通りにさせてあげられないなんて。死ぬ事や生きる事を

他人に管理されたくないなぁ。長生きをすると

最期の最後まで、他人の目という物に振り回される事になる。自分はどうしたいのか。本当に長生きしたいのか。認知症さえなければ、自分らしく過ごせるかもしれないけど、ならない保証はどこにもない。

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