男になったら後輩に叫ばれた
あぷろ
第1話
ん? あれは―――
「こいつ、男なのに男が好きなんだぜっ」
そう云ってわははと笑ったのは営業の藤田くん。
見ると一緒にいるのは同じ営業の広木さんと補佐の橋田さん。
どうやら営業の人たちの息抜きと私が飲み物を買いにきたタイミングがあってしまったようだった。
うーん、どうしようかな・・・・・・。
違う課の人たちの、しかもセンシティブな話をしている中に飛び込む勇気は私はないぞ。一応、面識はあるけどさ。
ちなみに藤田くんの名誉のために云っておくと、彼は別に差別主義者というわけではなく単純にこの世界が好きな相手のためだったり自分の嗜好で性別を変えることが出来るからだ。
この服に合うのはこっちだから、とか今の気分は、とかでひどい人は朝と夕で性別がコロコロ変わったりする。
まあ、私は前世の記憶があってその世界では簡単に性別を変えたり出来なかったから一度も性別を変えたことなんてないけど。
もっとも藤田くんの場合は、橋田さんの気が引きたいだけだろうけど。
藤田くんが橋田さんに気があっていろいろ誘いをかけては断られているのは割と有名な話。
橋田さんはいつも綺麗に髪を巻いていて、営業部のマドンナだ。
マドンナって云い方は古いかもしれないけどアイドルって言葉よりしっくりくるのだ。
でも気取ったところはなくて愛嬌のあり、結構なお茶目さんだったりする。
会社の何十周年の記念パーティーの時にたまたま近くにいた橋田さんと話をする機会があってその時に本物の女子力はズボラを隠すためのものですよと教えてもらったのだ。ね、面白い子でしょ?
広木さんは営業部だけど、他の謎にエリート意識を持っている営業たちと違って総務の女性社員だけで重い物を運んでいたりしていたら、さり気なく手伝ってくれるのだ。
だから当然、総務の女性社員たちのウケは良い。
ふーん・・・・・・広木さんがねぇ・・・・・・ふーん・・・・・・。
週明け、私は思いきったイメチェンで出社することにした。
「え、誰・・・・・・」
「うそ」
靴、良し。スーツ・・・・・・も大丈夫。
うーん、でもちょっと緊張するなぁ・・・・・・。
ざわざわとする中を自分の席まで行くと余計にざわめきが大きくなったような気がする。
何でだろ?
あんたたちだって割と結構、性別変えてんの知っているんだからね?
特に吉野くん、給料日前に女になって男に奢らせているでしょ。
「あれ、珍しいね? どうしたの?」
「おや、奥居、おはよう。うーん、ちょっとね? 気分転換?」
「ふーん、でも髪は切らなかったんだ?」
「服とか靴とか揃えるのに時間がかかちゃって―――そのうちヒマをみて切に行く予定」
そう、一度も性転換をしたことがない私は男物が何もなかったのだ。
だからイチから用意しなければならず、思ったより時間がかかって疲れて面倒になって後回しにすることにしたのだ。どうせ惰性で伸ばしていただけだしね。そんなにこだわりはない。
「じゃあさ、せっかくだから忘新年会の時に二人で歌って踊らない? ウケるよ、きっと」
そりゃあ、ウケてもウケなくても人生のネタになるかもだけどさ。
「えー踊れるかなぁ、運動不足だしなぁ・・・・・・」
「そりゃあ、練習あるのみだって」
と、そんなことを同期とうにゃうにゃ話していたら、ドサッバサッと紙が落ちる音が聞こえ
「何だ?」
見ると、入口の方で呆然と立っている橋田さんの姿が見えた。
あれ、どうした?
「橋田さん? どうしたの? 大丈夫?」
近くにいた人が落ちた書類を拾いながら声をかけると、橋田さんがこっちを見ながら叫んだ。
「先輩がこんなイケメンになるなんて聞いていないっ!?」
おっとぉ・・・・・・?
終
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