第19話

 父さんのSPに家に連れ戻されて、いつもはあまり入ることのない応接室に連れて行かれた。

 豪華な絨毯が敷かれた床の上に、艶のある革張りのソファーが幾つも置かれている。


 「一体、あんな廃れた食堂で何をしてたんだ!」

 「週刊春春に載ってた、あの子は誰なの!? 顔が裕ちゃんにソックリだって言うじゃないの? しかも、外であんなこと……」


 部屋に入るなり、父さんと母さんが、それぞれ言いたいことを捲し立ててきた。

 週刊誌を改めて見たが、最初に入れ替わって、兵士にお見合いをさせた後の帰りを撮られたらしい。

 路チューも、頬にだけどしていたし……。


「そいつは何処の誰なんだ? お前とどういう関係なんだ!」


 父さんはいつものように、威圧的で、傲慢で、冷静に話を聞こうともしてくれない。

 今まで一度も、父さんに意見を言って、聞き入れられた事はない。

 跡継ぎになる事。そればかりを押し付けられてきた。俺も、それが自分の運命なのだと諦めていた。でも、今は……。


「その人は、俺の恋人。大切な人だ。」

「なっ……! 恋人だと!?」


 父さんは唖然として、言葉が出てこないようだった。母さんは驚いた顔で押し黙っている。


「俺は、この家を出ます。これからは、兵士と一緒に、自分の力で生きていきたい。

 ……今まで育ててくれて、ありがとうございました。」


 俺はソファーから立ち上がって一礼すると、部屋を出た。

 玄関を出ると、桜の木に鳥が集まって、歌っていた。楽しげにつつき合ったあと、空へ飛び立っていった。

 ずっと何処かへ飛んで行きたいと思っていたけれど、今がその時なのかもしれない。

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