第4話

「えっ……お、王子?」

「うん。だってさ、お兄さんの苗字の『皇』って、王様って意味でしょ?」

「あ……まあ……そうだけど……。

 ってか、何で名前……?」

「覚えてないの? これ拾ってあげたじゃん」


 兵士が俺の社員証を差し出した。

 なんだか、黄色っぽい汚れが付いている。


「……臭っ」

「お兄さん、昨日めっちゃゲロしてたよ?

 店の前で倒れてたから、俺が運んであげたの。んで、汚れてたから服も脱がせた。」


 それで裸だったのか。昨日のことなのに、全く思い出せない。

 休憩スペースで中西さんと話して、退勤して、六本木のレストランでお嬢様とクソつまらない食事をして……。


 「お兄さん、もっとカラダ鍛えたほうがいいんじゃね? まあ、俺は嫌いじゃ無いけどね」

 「え……?」

 「兵士!失礼なこと言わないの!

 ……ごめんね〜。あ、そうだそうだ」


 お婆さんが俺のスマホを割烹着のポケットから取り出した。

 

 「充電しておいたからね。早く見たほうがいいんじゃない? 電話がたくさんかかってきてたわよ」


 やばい。完全に無断欠勤だ。

 会社の人間から父さんに話しが伝わったら、また面倒なことになる。


「あの、ありがとうございます。……助けていただいて。」

「いいのよ〜。お礼なんて。アナタって礼儀正しいのね〜。本当に王子様みたい」

「いや、助けたの、オレなんだけど……」


 兵士が、不満そうな顔をした。まるで、小さい子供がオモチャを買ってもらえなかった時みたいに。同じ顔なのに、すごく幼く見えた。


 「あの……キミ、何歳なの?」

 「え? 19歳だけど……?」


 恥ずかしい。まだ10代の子供に助けられるなんて。

 とりあえず、服を着て、会社に電話して……。


 「あの……申し訳ないのですが、着替えはありますか?」

 「あら!ごめんなさい。あなたのスーツはあんまり汚れてたからお向かいのクリーニング屋さんに出しちゃった。

 兵士が就活で使ったスーツがどっかにあった気がするけど……それでいい?」


 お婆さんが温かく笑った。


「はい……ありがとうございます。」

「お兄さん、仕事行っちゃうの?」

「うん……そう。キミもありがとう。

 マジで助かった。社員証盗まれたらヤバかったし。」

「コレってそんな大事なもんだったんだ!?」

「会社に入るカギでもあるんだよ。盗まれて悪用されたら本当にヤバい。」

「ふーん……。」

「おう……」


 兵士は俺と同じ顔だけど、やっぱり言動が少し幼い気がする。まだ10代だからなのか、この子だからなのか……。

 

「お兄さん、スマホ、また鳴ってるよ。」


 最近購入したばかりの最新のスマホが、ヴーヴーと震えた。画面がバリッバリに割れている。買った時は大切にしようと思って、高級なフィルムを貼ったのに……。

どれだけ酔っていたのか。

 ぼーっとしていると、ディスプレイに『不在着信 会社』と通知が出た。

 マジでヤバい……。

 とりあえずパンツ一丁のまま、スマホを耳に当てた。










 





 

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