第2話
自動販売機がブーンと音を立てている。
ここは静かでいい。
俺の部署があるフロアの2つ下の階だから、見知った顔が少ない。
缶コーヒーを啜っていると、一瞬会社にいることを忘れそうになってしまう。
「あ、こんなところにいた。」
甲高い声で、一年後輩の中西さんが声をかけてきた。俺を狙っている、と社内で噂になっている女子だ。
見つかってしまったか、と少しガッカリする。
「お疲れサマです。スメラギさん。」
「お疲れ……。」
「あれー?なんか元気ないですね?
どうしたんですか?」
「別に……」
彼女が苦手だ。美しく手入れされ、ウェーブがかった髪に、ファッション雑誌から飛び出してきたような完璧なコーディネートの服。
うちの会社は、基本的に学歴の高い者しか入社出来ないから、彼女ももちろん有名大学卒だ。私は完璧、と言わんばかりに、上目遣いの笑顔を向けられ、俺は圧倒された。
「今日、ご飯でもどうですか?お話しききますよ?もうすぐ退勤ですよね。」
「いや、今日は……約束があるから。」
「もしかして、デートですか!?」
彼女の眉間に一瞬だけシワが寄ったのを見逃さなかった。
「そんなんじゃないよ。」
俺はソファーから立ち上がり、ゴミ箱に缶を落とした。
「え〜……本当かなあ……じゃあ、また今度、行ってくれますよね?」
「ああ……」
一刻も早くこの場を去りたくて、曖昧に返事をして、休憩室を早足で出た。
嫌なことがある直前だから、少しでも気持ちを落ち着けたかったのに、益々心がざわついてしまった。
スマホを取り出すと、例のお嬢様からメッセージが来ていた。
母さんの取りなしで事前に登録させられたが、自分から送ったことは無い。
『今日は楽しみにしています。よろしくおねがいしますね。』
可愛いうさぎのスタンプが、俺の気持ちとは正反対に、嬉しそうに動いていた。
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