change!〜王子と兵士、入れ替わってみました〜

わたあめ

第1話

『お前は跡継ぎなんだからな』

 

 この言葉が大嫌いだ。

 父さんがいつもの通り、朝から経済新聞を読みながら紅茶を啜っている。

 シワのないワイシャツに濃いブルーのネクタイをぎっちりと締めて、俺はそれを見ただけで、毎朝自分の首を絞められているようで、憂鬱な気持ちになってくる。


「仕事はどうだ?きっちりやっているんだろうな?」


「ああ…うん」


「なんだ?その締まりのない返事は……」


 来るぞ……あの言葉が。


「お前は跡継ぎなんだからな。しっかりしてもらわないと、家族が困るんだからな」


 やっぱり来た。月曜日の朝からもうウンザリだ。


「ああ…わかってるよ。」


 俺はなるべく父さんの言葉で心を乱されないよう、フォークで冷めきったウィンナーを転がした。


 「裕ちゃん、早く食べないと、遅刻しちゃうんじゃない?」


 母さんが甘ったるい声で時計を見ながら言った。母さんの一族に明治時代から伝わる古い置き時計だ。


 「今日の夜は、天上製薬のお嬢さんとお食事でしょ? このご縁が実ったら、裕ちゃんの政界進出の助けにもなるんだし……」

 

 「はあ……」


 「はあ、じゃないでしょ。しっかりしてね?

ママが頑張って、やっとお声がけできたんだから。」


 「はいはい」


 「19時に六本木のスカイハイアータワーのレストランだからね。忘れないで」


 「ういっす」


 俺はカバンをもって立ち上がり、ナプキンをテーブルに投げつけた。


 「いってらっしゃいませ、裕介様」


 お手伝いさんの挨拶を背にして、会社のトイレより広い玄関から出た。


 小さい頃木登りした桜の木に、小鳥が2羽止まって、じゃれあった後、また飛び立った。


 それを見て、翼を広げ、飛んでいきたい。本気でそう思った。小学校の時に歌った歌みたいに。













 


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