09【あらあら、消えたわね〜】


「ゴールデンウィーク、キター!」


 五月、遂に待ちに待った黄金週間がやって来た。双羽たちはルルイエへ向かうための準備に追われていた。


「ショゴスちゃん、なるべく荷物は少なくですよ? 必要のないものは置いていくこと」

「毛シロウのフィギュアとカピバラ大魔神の人形は持っていくの、異論は認めないの、テケリ・リ」

「無駄にデカいですね……仕方ないですね、その二人だけにしてくださいね? あとは着替えとか色々入れなきゃいけないんですから」

「わかった! テケリ・リ〜!」


 そんな二人の前に成瀬さんがやってきた。結構な大荷物で。


「準備は終わったか? 外でブチョーも待っておるし、そろそろ出発するぞ」

「あ、はい! では、いざルルイエへ!」


 双羽はお母ちゃんに行って来ますと手を振り、ブチョーと合流、成瀬さんの開いた異空間への扉を潜る。


「双羽ちゃ〜ん、ショゴスちゃ〜ん、気をつけて行って来るのよ〜。はて、ルルイエって、何処なのかしら〜?」


 お母ちゃんは首を傾げる。それと同時に、異空間への扉も消えた。


「あらあら、消えたわね〜」




 異空間を歩きはじめ三十分ほどが経過した頃、再び扉が出現する。成瀬さんは慣れた手つきでその扉を開ける。

 扉を抜けた先の景色は、双羽の心を弾ませた。まさに海の中を歩いているかのような、もとい、その通りで、海の中に今、存在しているわけで。呼吸が可能なのは、ルルイエの影響と成瀬さんは言った。

「すごく綺麗ですね!」

「まだまだ、ルルイエ内部はもっとすごいぞ。こっちだ、この先に入り口がある」


 少し歩くと、顔面が魚のヒトがいて、通行証の確認をしていた。成瀬さんはクティから預かっていた通行証を見せた。

「魚のヒト、バイバーイ」とショゴスちゃんはご満悦。皆でお出かけするのが、余程たのしいのだろう。魚のヒトの確認が済み、いよいよルルイエ内部へと足を踏み入れた一行は、その神秘的な景色に言葉を失った。

 丸いアクアリウムの中に入ったかのような絶景に、双羽も人間であるブチョーも驚きを隠せない様子だ。当然、ブチョーの肉は超振動を起こしている。双羽のアホ毛もこの上ないくらいぴょこぴょこする。

 そんな二人に成瀬さんが言う。


「中央地区のホテルを予約しているらしい。この先の移動式水泡エレベーターを使って向かうか」

「テケリ・リ〜!」


 やがて一行は移動式水泡乗り場に到着した。

 結構な人が、魚のヒトが並んでいる。彼らは順番に水泡の中に入っていく。

「この泡の中に入るんですか?」双羽は少し不安そうに言った。

「うむ、大丈夫。よく見ておれ、とう!」ほれ、お主らも、と、見本を見せた成瀬さんの後を追うように、ショゴスちゃんがピョンと泡に入る。二人顔を見合わせて小さく頷いた双羽とブチョーも、意を決して水泡へ飛び込む。


「中央地区へ頼む」

『カシコマリマシタ』


 行き先を伝えると、一行を乗せた泡が移動を開始する。中央地区に着くまでそれなりの時間を要するが、双羽やブチョー、ショゴスちゃんにとってはこの移動時間も一種のアトラクションに相当する。


「見てください! あそこにクティちゃんが映ってますよ!」

「おおお、クテー!」

「どすこい……あれは電光掲示板みたいなものなのかな?」

 盛り上がる三人に、成瀬さんは答える。

「うむ、人間界でいう電光掲示板のようなものだな。と、そろそろ中央地区に着くぞ。ホテルにチェックインしたら、少し街を見て回るか?」

「見たい! 成瀬さん、案内してもらえますか?」

「いいぞ。我もルルイエは久方ぶりだし、色々見て回ろう。人間界では買えないようなものも沢山あるからな」



 チェックインを済ませた一行は、街を歩いて回ることにした。雑貨屋や洋服店を見てまわり、地上では見たことないような、謎のスイーツに舌鼓をうったりしながら、ルルイエの街を満喫する。そんな双羽たちの前に、三人の魚のヒトが立ちはだかる。


「なんだお主らは?」

 成瀬さんが睨みをつける。

「けけけ毛! おみゃぁら余所者きゃ〜?」

「かかか蚊! 旅行とはいいご身分だぎゃ!」

「ききき木! 身包み剥いでやるででで!」

 明らかにテンションのおかしい三人組に囲まれた双羽たち。そんな中、一人落ち着いた表情で魚のヒトたちの前に出たのは成瀬さんだ。


「なるほど、これが狂気に狂いはじめた住人か。よく見ると、危うい奴がちらほら見受けられるのぉ。恐らく、クティの言っていたライバルのファンと言ったところか」


 成瀬さんは右手を前に出し手のひらをひらく。すると、その手に刺股が召喚された。成瀬さんがいつも乗っているものだろうか。

 さておき、その刺股を握ると同時に、それを魚のヒトの目の前に振りかざし眼光を光らせる。


「お主ら、我が何者か知っての狼藉か?」

「知るかよ! ただの幼女だろーぎゃ!」

「幼女ではないわ!」

「幼女じゃなぎゃぁ、なんだぎー! どう見ても幼女やぎゃらー!」

「ええーい! 幼女幼女と、ぬかすでないわ! 痛い目を見たくなければ、とっとと失せるがよい!」


 オロオロと震える双羽とショゴスちゃんの前で肉を震わせ肉壁となるのはブチョー。


「うむ、ブチョーよ。なかなか見どころがあるではないか。よし、お主は二人を守っておれ! 此奴らは我が一蹴する!」

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