08【おやすみ、イカスミ大王さん】
神海、そこは深きものどもの領域。
深海よりも更に先、およそヒトの理解の範疇を超えた深き、深き場所に存在する。
ルルイエは、その中心に値する、所謂、深きものどもの首都と言ったところか。
「準備は順調ね」
ステージで打ち合わせをしながら設営の準備を手伝っているのはクティだ。
「クティーナ様、設営は我々に任せて、少しはお休みください」
「そうもいかないわ。今回のコンサートで、狂気に狂った皆んなを正気に戻さなきゃいけないんだから……それに、人手も足りてないしね」
本番が近付くにつれ焦る思いも増大していく。双羽たちに励まされ勇気を得たクティだが、やはり脅威との激突を思うと居ても立っても居られないわけで。
「アンタも休んでね。アタシはもう少し位置とか確認して休ませてもらうわ!」
クティはそう言うとキラッキラの笑顔を咲かせる。得意のアイドルスマイルは、クティの精一杯の強がりだ。
一日の仕事を終えたクティは、自室のベッドに身を沈める。そして、お気に入りのぬいぐるみをギュッと抱く。
「双羽ちゃんにショゴスちゃん、元気してるかなぁ」
仰向けになってぬいぐるみを掲げる。
「見に来て、くれるかな」
ぬいぐるみ(クティ)は答える。
「ダイジョーブ! キットキテクレルサ!」
「ほんと?」
「モチロンサ! ダカラ、アンシンシテオヤスミ!」
「うん、おやすみ、イカスミ大王さん」
お気に入りのイカスミ大王さんを大きな胸に抱き、クティは眠りにつくのだった。
一方で、トウガ、ナチャ、試作品の一行はルルイエの某所に潜伏していた。本来なら通行証または住民証がなければルルイエには入れない。もちろん、彼らはそんなものを持ち合わせていない。そもそも必要がないのだ。
ナチャの能力の一つである蜘蛛の糸は、世界の裏側の通行を可能にする。長い時間をかけて伸ばしていった糸は、遂にルルイエまで到達したわけだ。そこを渡れば、難なく自分たちの拠点からルルイエへ侵入出来る。
ナチャの能力は、というか生態は、ただひたすらに自らの巣を張ること。その巣が完成すると世界が終わるとされているが、いかんせん拘りが強く、なかなか完成に至らない。または、何者かに破壊されてしまうのだが、その際に使う糸を応用し、新たな移動能力を得たのが現代のナチャである。これまでは自室で覆面配信者として活動していたが、これを機に表の世界に躍り出たということだ。
「ボッチで陰キャだった姉貴も、ついにメジャーデビューだな!」
「誰がボッチで陰キャですの!」ぽかん! と、いい音を立てた試作品の頭に大きなたんこぶが出来る。
「ナチャ、作戦は変更なしだ。お前はコンサート会場に繋いだ糸を使い乱入、試作品は会場入り口付近で警備にあたれ!」
トウガの言葉に、試作品は首を傾げる。
「兄貴? 警備って、誰か邪魔する奴がいるってのか?」
「……念の為だ。俺様は自由に動く。どうやら面白いことになりそうだからな」
トウガは不敵な笑みを浮かべた。
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