第42話 ここだけの話!!?
幻夜の古い友人、妖狐の
美味しい料理が食べられたり、幻夜の意外な一面が垣間見えたりもしたが、話はおそらく本題の情報交換となりつつあった。
そして、その流れに便乗し、俺は幻夜にずっと抱いていた疑問を口にする──
「星酔とは…どういう……?」
紅牙たちと面識があるとは聞いている。
面識があるからこそ、星酔は自ら俺の夢に干渉し記憶を取り戻そうと術をかけてきたのか……?
いや、それには違和感がある。
星酔は俺たちの仲間ではなく、あくまでも知人な感じだった。
彼方もあの件は幻夜が絡んでると指摘していたし、幻夜自身も否定しなかった。
それは…星酔の意思で俺の記憶を取り戻そうとしてきたのではなく、幻夜の指示で、ということだろう。
「星酔は紅牙とも面識があるって言ってたけど…仲間だったわけじゃないんだよな?」
俺の問いに幻夜は、
「あぁ、違うね。確かに紅牙とも顔を合わせることは何度かあったけど、あくまでも僕の知人なだけだよ」
さらっと答えたが、言葉の裏では“あいつが仲間なわけないだろ”と言わんばかりだった。
そして、幻夜は溜め息をつくと…仕方なさそうに話し始めた。
「……まず、獏の一族は我々…妖狐の傘下だよ。ただ星酔に関しては、個人的にいろいろ手伝ってもらったりはしているけどね」
個人的に…ね。
知人の割には結構手伝ってもらってないか?
だが、それは紅牙関連でも手伝ってもらっていることがあるということだ。
「まぁ、僕はそんなつもりはないけど…彼は僕を恩人と思っているようだからね……」
「……恩人…?」
「僕が彼の命を助けた…と言えば聞こえがいいかい?」
「……」
それなら、まぁ……個人的に手を貸す理由にはなるのだろうか?
篝と蘭丸もそうだったが、やはり命の恩人には特別な感情があるのだろうか……妖怪にも。
すぐ殺し合いをするくせに、命を助けたり、命の恩を感じたりするなんて…なんだか意外な気もする。
──でも……まぁ…そうか。そうだよな。
死んだら全て消滅するって分かっているのだから……。
だがそれにしても、仲間である彼方の怒りを買うようなやり方をされては、幻夜にとってはマイナスなのでは……?
「宗一郎が気にしてるのは、星酔の件で僕と彼方クンが敵対するかもしれないということかい?」
「……うん、まぁ…」
すると幻夜は苦笑をうかべつつ、
「僕と彼方クンは……まぁ、大丈夫」
断言したのは“仲間”としての信頼……ということだろうか?
いや、むしろそうあってほしい。
そして幻夜は持っていた酒のグラスを置き、溜め息をつきつつ改めて口を開いた。
「それから……星酔と彼方クンについては、僕が関わらなくても元々あの二人は関係上良くないよ。まぁ…それを分かってても星酔の協力は助かるからね」
“それを利用しない手はないだろう?”
──メガネ越しの紫瞳がそう語っていた。
「星酔には紅牙探しを手伝ってもらっていたし、見つかった後も“記憶が戻っていないようだ”と伝えはしたよ」
それは暗に“お前の術で記憶を取り戻す手伝いをしろ”と言ったようなものだったのでは──?
……まぁ、分かってはいたことだ。
幻夜は目的のために手段を選ばないところがある、て。
星酔は夢を渡ることができるし、記憶に関しても干渉することができる…となれば、ダメ元でも試してみるべきだ。
たとえ、それが彼方の
“利用できるものは利用する”
そう考えるのは仕方がないことだ。
それに、幻夜は今までもそうしてきたはずだし、これからも変わらないだろう……。
「宗一郎が鞄を忘れたまま幻妖界へ向かった後、その鞄を回収してきたのも星酔だよ。僕は状況報告と共に鞄を受け取って…術の媒体として使わせてもらったんだ」
確かにそれは助かったけど……あの時の彼方と星酔…一触即発の二人を思い出すだけで胃が痛い。
白叡が絡んだことで彼方がキレてなくても、もうあの二人の間には入りたくない。
幻夜の話からすると、元から彼方と星酔の関係は良くないようだが……彼方の人柄(?)からすると合う合わないも両極端になる…のかも?
『…………それだけじゃないがな』
……え?
ぼそりと白叡の呟きが聞こえたが聞き返しても何も返答はなかった。
なんだか引っかかる言い方だが……まぁ、いい。
それにしても。
妖狐の傘下に獏がいるとして……いろんな種類の妖怪たちが勢力分布に関わっているのか?
確かに、
てことは、鬼の傘下の一部だったってことか。
この先、俺の命を狙うのは実力者とは言ってたけど、明らかな“鬼”とは限らないかもしれないってこと?
「──獏と妖狐が繋がっていて…確か、鬼と猫又も仲間だったよな?」
確認する俺に、幻夜は酒のグラスに口をつけつつ小さく頷いた。
「あぁ。幻妖界の三大勢力は鬼・天狗・妖狐…それに力を貸したり、同盟を結んでいる種族もいる。もちろん、支配されていたり、上下関係があることもある。逆にどこにも属さない種族もいる」
「なるほどな……」
と、そこへそれまで俺たちの話を黙って聞いていたフジが、烏龍茶のおかわりのグラスを俺に差し出しながら、
「ちなみに、力や個体数の少ない種族はどれかしらの傘下についている場合が多いんだよ。……自分たちを守るためにね」
そう言うと、空いたグラスや皿を下げつつ俺を…俺の中にいる白叡を見るように、
「飯綱は天狗との関係が昔からあるけど、そもそも天狗自体には傘下が少ない。積極的に増やす気もあまりないんだろうね……
『…………』
フジの言葉に、俺の中の白叡は無言を貫いていた。
特に訂正も入らないと言うことは…おそらく、フジの言うとおりなのだろう。
「対して、鬼には傘下が多い。当然といえば当然だが…数も多く、強大な力のある鬼の傘下に入りたいとなるのは自然だし、鬼がそれを拒むこともない。──ちなみに、妖狐は実力のある個体数が少ないから傘下をより多く取り入れようとしているフシがあるかな」
どこか他人事のように言う幻夜。
「三妖もそれ以外も、一族の上層部の意向はそれぞれだが…蘭丸のようにそれに縛らない奴もいる。まぁ…その逆もあるけどね……」
最後は消え入りそうに呟いた言葉に、どこか自嘲気味な笑みを重ねる。
「……幻夜?」
いつもと違う何かを感じる笑み。
その意味を考えるより先に、
「まぁ、簡単に言うと…幻妖界は三妖とその傘下、それ以外っていう構図のまま対立してたりするんだよ……ずーっと昔から」
フジがうんざりしたようにそう言って話は終わった。……いや、終わらせたのか。
二人ともその表情はとても複雑なものだったが、深く聞ける雰囲気ではなかった。
なんだか……複雑な事情があるのかもしれない。
幻夜に限ったことではないが、どうもこいつらの事情や詳しい話は聞きづらい……気がする。
聞いたところで俺にはどうすることもできないのだが、気にならないというわけでない。
各々の立場も事情もある仲間であることは分かっている。
それでも一緒にいるということも分かっている。
ただ、それに俺は…罪悪感のようなものを持っている……。
俺に記憶さえ戻れば…覚醒できれば話は変わってくるのかもしれない──でも、もっと深いところでチクリと痛むんだ。
これは……もしかしたら、紅牙も抱いていた“罪悪感”なのかもしれない──。
──その後、しばらく続いた沈黙。
それでも残りの料理をつまみつつ、幻夜とフジが情報交換を含めた話をしているのを何となく聞きながら…俺は少し考えていた。
紅牙は鬼の一族。
篝は鬼の実力者の一人だと言っていたし、綺紗も上層部と繋がっているっぽい。
ただ、紅牙は……?
それなりに強かったみたいだけど上層部との関わりまでは分からない…少なくとも現時点では。
鬼の上層部に意向なんてのがあるのかどうかは分からないが、紅牙は一族をどう思っていたのだろうか?
自称・盗賊を名乗って暴れていたようなので関係ないような気はするけど。
ただ……だから、余計に思うんだ。
紅牙の強さや、上層部との繋がりが特別あるわけではなかったのだとしたら……?
何でそんな紅牙についてきた…? 何であいつらは仲間になった??
何を、気に入ったんだ??
…………ッ
答えを知りたいような、知りたくないような…そんな疑問。
「…宗一郎?」
「え……!?」
急に名を呼ばれ、驚いて幻夜を見る。
「大丈夫かい? ……何だか顔色が悪いけど」
「いや、大丈夫…何でもない」
心配され、慌てて笑顔で誤魔化…せたことにしたい。
すると、幻夜はもう一度様子を伺うように俺を見ながら、
「……まぁいい。大丈夫なら、そろそろ出ようと思うけど…?」
確かにもう食べ終わっているし、時間も結構遅いはず。
用事が済んだなら……と俺は頷いた。
「……じゃあ、そう言うことだから…フジ、引き続き頼んだよ?」
「ああ」
どうやら俺が考え事をしている間に二人で話がついたのか、今後の情報提供を約束していた。
そして、俺たちが席を立った──そのタイミングでふいにフジは俺の腕輪を指差し、
「その腕の……妖力制御だろ?」
「…あぁ」
俺が答えるのとほぼ同時くらいに、フジが続ける。
「もしかして…それ、幻夜のか?」
「……」
フジの言葉に幻夜の片眉が上がった。
それに気づかないはずないのに、フジは笑いを含ませながら…というか、どこか揶揄うように、
「随分懐かしいモノを……よくまだ持ってたな」
「別に。捨ててなかっただけで、せっかくだから使ってもらってるだけだよ」
「??」
明らかに幻夜の表情が不機嫌を通り越して怒りに変わってないか……?
なのに、フジはそれを面白がるように小さく笑いながら疑問符が飛ぶ俺に向かって、
「聞いてないのか? それ、こいつがまだ妖気を抑えるのが下手っぴだった時にしてたやつだよ」
「……うるさいよ。すぐ使わないでも済むようになっただろ」
!!
メガネの奥の眼が怖い。
フジは幻夜の怒りも笑って受け流しているが、見てるこっちがドキドキするぞ?
おそらく、この腕輪は幻夜がまだ妖気制御が苦手だった時に使っていたもので、それをフジに馬鹿にされたのをきっかけに使わずに済むように制御できるようになった……という思い出…というか曰く付きの品なんじゃ??
幻夜にとってフジは旧友ではあるが兄弟のようでもあり、どうもやりづらそうだな。
まさかこんな幻夜が見られるとは思わなかったよ……。
紅牙たちと幻夜は友人だし仲間ではあるけど、フジとの関係はちょっと違う感じがする。
幻夜としてはフジは仲間というより、身内感が強いのかもしれない。
まぁ、フジの人柄的なものもあるかもしれないし、可愛い弟分を構いたいだけなのかもしれないが、俺としてはあまり幻夜を刺激しないでほしい……怖いから。
そしてフジはひとしきり幻夜を揶揄ってから、
「あ…そうだ、宗一郎」
「え?」
「その腕輪……ちょっといいかい?」
そう俺に腕輪を見せるように言うと、そのままそっと触れ、
「“またおいで”」
フジがそう言ったのと同時に腕輪と、触れた指先が淡く…青白く一瞬光った!?
「よし、これでまたココに来れるようにしたよ。来たい時、腕輪に“この店に来たい”と念じてみてね」
それは…俺が一人でもこの店にも来ていいということ……か?
「一応、君が来ても大丈夫そうなら道を開けるから。ただ、タイミング悪かったらごめんね」
そう言って、にっこり微笑んだのだった。
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