第36話 目には歯を、歯には牙を!!?
紅牙たちの思い出の地・紅い荒野で一夜を明かした俺たちに、夜明けから襲ってきた鬼・浅葱──
ケンカを売られたら借金してでも買うような…当たり前の成り行きにより始まった、浅葱VS篝&天音。
浅葱の鞭攻撃に防戦気味だった篝たちだが、天音の放った黒い羽でその戦況は変わろうとしていた。
三人の…正確には浅葱の間合いのすぐ外側を、天音の放った幾本もの
「……あぁ、なるほどね」
何かに気づいたように言う彼方に、俺が何のことかと疑問の視線を送ると、
「見てればわかるよ」
そう彼方に微笑まれ…相変わらず理解に苦しむ俺の横で、幻夜が溜め息をつきつつ、
「天音も気づくのが遅かったな…」
「まぁ、一緒に
「そうだな、あの二人が一緒だとやり過ぎないか心配だが……面白そうだから良しとしようか…ククク」
そんな、大乱闘を予感させる二人の物騒発言ではあったが、見守るこいつらもなんだか楽しそうだった。
久しぶりに仲間が協力して(?)戦闘う様子を楽しんでいるのか…?
見守る二人も、戦闘っている当の二人も楽しそうに見える中──相変わらず、この現状を楽しむような余裕は持てそうにない俺。
目の前で繰り広げられる戦闘──さすがにやや警戒はしているものの…変わらずにその長い鞭を振るう浅葱に対し、篝は好戦的な笑みをうかべたまま二丁の拳銃で浅葱を狙い乱射する。
だが、やはり浅葱には避けられ──…いや、先ほどとはそこからが違った。
浅葱へ放たれた弾丸は相変わらず簡単に避けられる……が、その避けられた銃弾の先にあるのは天音の羽!
そして羽に当たった銃弾は軌道を変え、再び浅葱を狙った攻撃へと変わった──!?
妖気を纏った羽は微妙にその角度を変え、銃弾の軌道をずらして跳ね返し、威力を増して浅葱を狙う。
「……なっ!?」
慌てて体勢を立て直しつつ攻撃を続ける浅葱に、
「まだまだこれからだぜ?」
不適に言う天音。
こいつらの中でも、この二人は特に好戦的で特攻組らしいことを、俺はこの目で再確認していた。
どうやら二人とも最初は浅葱の出方を伺っていただけのようで……
「そろそろこっちも楽しませてもらおうか?」
クスクスと残酷に小さく笑い、篝は改めて二丁の短銃を構えた。
「楽しいかは、
そう言う天音の手には……大きな金属製の黒い扇子??
確認するように幻夜を見上げると、
「……あれは
幻夜の説明を聞き、“天狗のウチワ”を思い出したが…何よりも天音らしい多機能な武器な気がした。
次の瞬間。
天音がその手に持っていた鉄扇を一振りすると、辺りに大きな風が巻き起こった…!
風は荒野の砂を巻き上げ、無数の羽とともに小さな竜巻のようになって天音たちをとり囲んでいく。
その中では、篝の銃から息着く間なく乱射される銃弾が天音の羽でその軌道を変え、浅葱のみを狙い続ける……。
「お前に逃げ場なんてねぇよ?」
「……ッ!?」
そう、天音の言葉通り……もはや浅葱に逃げ場はない。
避けようが、掠ろうが撃ち抜かれようが…銃弾が威力を失わない限りどこからでも、何度でも攻撃は執拗に繰り返される。
かわしきれず、傷ついていく浅葱。
「く……ッ」
一発の銃弾がその鞭を振るう右腕を貫いた。もちろん、その攻撃の手が弱まった瞬間を二人が見逃すはずもない。
篝はその手に持った銃を一瞬で双刀へと変化させると、そのまま銃弾の嵐の中、浅葱へ向かい切り込む──!
飛び交う銃弾は、相変わらず器用に自ら篝を避けるように、浅葱のみを執拗に狙い続ける中、
「ボクの命を狙うなら、それなりの覚悟があるんだよね?」
篝の刀が煌めいた──
「……ッ!?」
赤い血が飛ぶ……!
浅葱の間合いに入った篝の刀がその左腕を切りつけたのだ。
その一瞬の攻撃を致命傷にならぬよう避けた浅葱に、
「よく避けたね。でも…こんなもんじゃ、楽しめないよ?」
意地悪そうに言った篝だが、次の瞬間──
シュルシュルシュル…!
浅葱の足下の地面が割れ、幾本もの太く巨大な茨のツルが出現し、篝を捕らえた!?
「くっ…!!?」
草木どころか生き物の気配すらないこの荒野で青々とした茨が…伸びるツルが篝の身動きを封じるように締め上げ、その鋭い棘で傷つけていく。
「ふ、油断したな……私は貴様等を…貴様を血祭りに上げるこの時を待っていた──貴様の地位もプライドも何もズタズタに切り裂いてやる!!」
浅葱はそう言うと、鞭を左手にも持ち両手で鞭を振って動きを封じられた篝を攻撃し始め……ようとした、その時
「おい、オレもいることを忘れてねぇか?」
──ザシュ…ッ
天音の鉄扇がツルを断ち切り、篝はそのまま巻き付いたツルごと地面に落ちた。
「おいおい…バカにするのはいいが油断はするなよ?」
「……そうだった。ザコ相手に失敗しちゃった☆」
巻きついたツルを取り払いながら立ち上がった篝だが、その体には所々に滲む血が痛々しい。
だが、相変わらずな
いつの間にか天音の造りだした竜巻も収まり、羽も銃弾も消え…三人の様子がここからでもはっきり見えるほどに視界はクリアになっていた──。
そこには、刀と扇を構える二人と、それを忌々しそうに睨みつける浅葱。
だがその足元では、天音に切られたツルが再生増殖し、シュルシュルとその身をくねらせていた。
つまり、軽率に浅葱の鞭の間合いへ入れば、あの茨のツルが待っている──?
「あれが接近戦用の、てことか?」
「だろうね。どっちにしても扱いづらい感じが性格の陰湿さを顕しているように見えるけどな」
鼻で嘲るように言った幻夜だったが、確かに鞭と茨のツル……両方とも素直とはいえない、イヤなイメージではあるか。
「ちっ……」
浅葱は小さく舌打ちしつつも、その両手の鞭と足下のツルで二人に攻撃をしかける。
先ほどよりもやりにくそうな状況だが、篝たちは応戦しながらも攻撃の隙を狙っているようだった…。
二人の動きを封じるように蠢くツルと、同時に命を狙う攻撃を続ける鞭……。
いくらツルを断ち切ってもすぐさま再生し、攻撃を仕掛けてくる。そして負傷したとはいえ、両の手で器用に操る鞭も攻撃をやめようとはしない。
篝と天音二人を相手に攻防を続ける浅葱の実力は確かなものだった。
何より、浅葱にあっさり勝負を着ける気がないのがよく分かる…明らかにジワジワ攻撃し、命を奪うような戦闘い方に思えた。
だが、二人は……
「……おい、いつまで遊ぶ気だ? もう面倒くせぇよ、篝!」
次々と襲いかかるツルを切り捨てながら、浅葱との攻防に飽きてきたように天音が言うと、
「そうだねぇ……」
篝も面倒そうに呟くと、迫る二本の鞭を避け、改めて間合いを取り直すように一度距離をおいた。
「そろそろ
篝の言葉に天音はニッと笑いをうかべると、鉄扇を広げて構え、
「了解」
どこか楽しそうにそう言うと、天音は一気に浅葱との間合いを詰め、迫りくる茨のツルの攻撃から身をかわしつつ、その根本から全てを断ち切った。
そして──
「篝、大サービスだぞ?」
その言葉と同時に取り出した数本の黒羽を浅葱の左腕に向かい放つ。
そこからは一瞬の出来事だった。
黒羽は確実に浅葱の左腕に命中──天音と同時に距離を詰めた篝は、その一瞬で動きが鈍った浅葱の攻撃を片方の刀で軽く弾くと、そのまま右腕を切り落とす。
そして、もう片方の刀が鋭く一閃した──!
「ボクは別に地位だとかは興味ないんだけど…少なくとも自分より格下に殺られる気はないよ──それに、命を賭ける価値も感じない」
その冷たい言葉と同時に浅葱の首がズレ……
「……な…ッ!?」
戦闘いの結末…結局は篝と天音の気分次第──鬼の実力者・浅葱は二人の敵ではなかった。
自らの敗北に驚愕と絶望の色で染まった表情のまま、大量の血飛沫を上げ浅葱の頭が落ち…少し遅れて体も崩れ、黒い霧となって消えていった──。
返り血を浴び、残酷で…いっそ美しさすら感じさせる篝の姿──それが目に飛び込んできた瞬間。
ゾクッ……
背に冷たいものを感じたのと同時に、またあの高揚感が俺を襲った…。
あぁ…そうだ、この感覚はあの時と同じ。
俺の体…いや、魂の奥底から叫ぶような感覚……!
[俺モ、戦闘ワセロ……ッ!!!!]
それは明らかに以前より強く、激しい感情と欲求。
戦闘いを渇望する、血に飢えた紅牙が俺の中で吼えているとしか言い様がなかった──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます