第26話 珍道中は続くよドコまでも!!?

 ──ようやく辿り着いた川での休憩


 川のキレイさには感動した俺だが、彼方と幻夜の魚捕り…正確には川魚乱獲に唖然とし、しかも一見ボディビルダーな自称正義のミカタ・河童の流の登場で、この場は一触即発の雰囲気になっていた──!?


「……またってことは、こんなこと前にもあったのか?」


 流に聞こえたら面倒そうなので、極力小声でコソッと篝に訊いたつもりだったのだが……


「一度や二度ではない!! いや、たとえ一度だって許すわけにはいかんッ!!!」


 しっかり流に聞こえたらしく、彼方たちを睨みつけたまま怒り全面アピールで怒鳴る…!

 もうそれだけでビクッとしてしまった俺だが、


「……何でだか、オレらが魚捕ってると見つかるんだよねぇ」


 まるで他人事のように言う彼方。

 その言い様は…火に油を注ぎ込むことに他ならないぞ!?


 案の定、流の怒りゲージが急上昇したようで……


「…ようやく、あの鬼が消えて川の平和が保たれると思っていたのに……ッ」


 怒りに震えつつ、忌々しげに言う。


 “あの鬼”って…もしかして、紅牙……?

 恐る恐る篝に視線を向けると、苦笑をうかべたまま軽く頷き、


「よく根こそぎ捕ってたからね。まぁ…紅牙は面倒だからって妖力使ってたけど」


 ──あぁ、そう…


 何だか脱力感を覚えた俺。

 だが、篝の言葉を受けて、


「別に今回は手で捕ってるんだからいいでしょ?」


 彼方が流に反論した……!?

 確かに彼方たちは妖力を使わず素手と錫杖で捕ってはいるが……結果的には、きっと同じことなんじゃ??

 もちろん、流の怒りが収まる訳がない。


「いいわけないだろうがッ!! 貴様らの度重なる川魚乱獲を見過ごすわけにはいかんッ!!!」


 ──…だよなぁ


 頭の血管がブチ切れそうな勢いで怒鳴りつける流。

 まぁ、見た目的にはどっちが正義のミカタか分からないが……明らかに流の言うことは正論だし、彼方の言うことも無茶苦茶だ。

 しかも、乱獲してるのも……事実だし。

 なのに……


「──別に、お前のモノでもないだろう?」


 ようやくその手を止め、面倒そうに言う幻夜。それに彼方も頷くと、


「そうだよ、魚はミンナのモノでしょ? “ミンナのモノはオレのモノ!”……って紅牙も言ってたし」


 ここにきて、どこかで聞いたようなフレーズ!?

 って、紅牙がかッ!??


「黙れぇ! だからって根こそぎ捕るなぁッ!!」


 まぁ、流の言うことはもっともだ。だが……


「……だって、足りないじゃない?」


 困ったように…仕方ないといった様子の彼方に、とうとう自称正義のミカタがキレた……ッ!!


「~~~~ッふざけるなぁぁッ!!!」


 いちいち声がデカい上に、怒りMAXでそう叫ぶと戦闘体勢に入る流…!

 その様子に、面倒そうな彼方と幻夜…そして篝の溜め息が重なった。


 もう戦いは避けられないのか──!?


 一人ハラハラする俺をよそに……怒りの矛先になっているにも関わらず、やる気のなさげな…しかもウンザリした様子の彼方と幻夜。

 それに対し、二人の態度で余計に一人怒りをあらわにする流!

 そして、面倒そうに見ているだけの篝。


 そんな状況の中、流はその右手を天へと掲げるように上げると、その掌に急速に妖気が集中していく──!

 それは光の塊となり、次第に速度を上げ回転する薄い円形の…まるで電気ノコギリの刃のようだった。


 アレが放たれ、掠りでもしたら……いかにも切れそう!!

 まともに当たれば、間違いなく真っ二つにされそうな技だ!


 その円形の大きさもより大きく…回る速度もどんどん加速していく──

 なのに、その様子を平然と…幻夜にいたっては溜め息までついて見守っている……篝含めての三人。


 今にもそのよく切れそうな技を放たんばかりの流が、


「川の平和を乱す貴様らには、この俺が正義の鉄槌を……ッ」


 と、そう言った瞬間


 ヒュ……ッ


「!?」


 俺の視界の隅を何か塊が掠めた…?

 と思ったら、


 スコーンッ!!


「……ッ!!?」


 程良い大きさ…拳二個大くらいの石が流の頭部にクリーンヒットした!?


 頭部に石をぶつけられた流からは、右手の技とともに妖気も消え、その巨体がグラリと傾いたかと思うと気を失い…大きな水音と水飛沫を上げ倒れた──!

 そして、そのまま頭から大量出血させながら…川に流されていく…… !


 事の急展開と、リアル“河童の川流れ”を呆然と見送っていると、


「……ったく、お前らまた何面倒起こしてんだよ!」


 後ろから聞こえた声に振り返ると……そこには、木の枝の束を抱え立っている天音の姿。


「も…もしかして、今のは天音が??」


 もしかしても何も、天音しか考えられないのだが…一応訊いてみた俺に、天音は盛大に溜め息をつきつつ、


「あぁ。頭が弱点だからな、アイツ」


 ──あ、河童なだけに?

 見た目はスキンヘッドで…いわゆるお皿っぽくはなかったが、弱点は弱点なんだ?

 まぁ、あんな石をまともに受ければ誰でもタダでは済まないだろうが。


 ──…というか、


「流…流されていったけど……?」


 頭から血流しながら。


「あ~……そういえば、この先滝じゃなかったっけ?」


 篝が思い出したように言うと、


「あったかもね。ま、平気なんじゃないかい?」


 心底どうでも良さそうに幻夜が言うと、


「うん、毎回のことだし……何より、正義のミカタなんだから大丈夫なんじゃない?」


 ……こんな事を言っても、特に嫌味っぽさを感じさせないのは彼方のすごいところな気もする。

 だが、いくら“正義のミカタ”でも不死身ではないだろう。

 ちょっと……流に同情しかけたところで、


「とりあえず休憩するんだろ? ほら、火起こしてさっさと魚焼こうぜ?」


 そう言って何事もなかったかのように、持ってきた枝で火を起こす準備を始めた天音。


 ……あぁ、本当にこいつらにとってはこんなこと日常茶飯事で、流のことも心底どうでもいいのか?

 まぁ、一応片は付いたし……いいか。

 気を取り直し、乱獲した魚に手頃な枝を刺して焼く準備を始めると、


「……こう言ってはなんだけど、流はそれなりに強いんだよ?」


 ふと、篝は俺にそう言った。


「うん…確かに、見た目から強そうだったし、あの技だってヤバそうなかんじだったよな?」


 こいつらにとってはどうでもよくても、俺にとっては脅威でしかなかった。


「一応あの技は、流の必殺技のようだしね……」


 幻夜が無表情で魚に枝を刺しつつ、付け加えた。


 必殺技か……

 仮にも自称正義のミカタの必殺技なんだから、かなりヤバかったんじゃ…?


 そう思って彼方に視線を移すと……彼方は苦笑をうかべながら、


「でも、あの技の名前“カッパカッター”なんだよね」


 ……なんだそりゃ?

 なんだかガックリした気分になった俺。

 いくら威力があってもそんな名前なのか??


「ネーミングはともかく、よく切れるんだぜ? アレ」


「うん、岩とかねぇ」


 天音と篝は軽く言うが…やっぱりスゴイ技だったのか!? カッパカッター!!


「……でも狙いが甘いし、大して早くもないから意味ないよ」


 彼方は困ったような笑顔でそう言うが、幻夜が溜め息混じりに、


「まぁ、それもあるけど……僕らのスピードと比べちゃダメだよ」


 ……うわぁぁ…なんだろう?

 この“所詮ザコ”的扱いは!?

 やっぱり…俺は流に同情するよ……?


 そんなことを話しながら、大量の川魚を火の周りに刺し、焼けたものから順に食べ、その空いたスペースに次を……の作業が続く。


 ──もちろん、そのほとんどは彼方が食べる分なのだが。

 一応、魚を捕った本人なんだから良いんだけどな。


「……ていうか、焼き魚にはやっぱりご飯が欲しくなるよねぇ」


 何匹目かの魚を食べつつ、ぼそりと呟く彼方……に、天音は溜め息混じりで、


「いや……お前が森に入った直後に全部食っちまったから、今ココにないんだろうが」


 そう言って、新たに魚を火の周りに並べる──。


 その言葉は真実なんだが、彼方に“食べていい”と言ってしまった俺的には…ちょっと複雑な気分……?

 まぁ、一応魚は皆に十分行き渡っているし……良しとしてほしいところだ。


「……とりあえず、日が出てるうちに先に進まないとね」


 篝がふと空を見上げて言う。


 そういえば、幻妖界は夜の方が長いって言ってたな。

 ということは、その分昼が短いってことか──…


「そうだね。……まぁ、この先に温泉もあるし、今日中にそこまでは行きたいね」


 にっこりと言った彼方…その言葉に、


「え? 温泉なんてあるのか!?」


 思わず聞き返した俺に、笑顔のまま頷き、


「あるよ。傷にもよく効くよ」


 ──いや、俺ら無傷だろ?


「……効能はともかく、温泉は好きだろう?」


 幻夜が小さく笑いながらそう言った。

 まぁ……確かに俺も温泉は好きだし、この場にいる全員が賛成しているんだから行くことに文句はない。


「まぁ、どっちにしても早くしないと日が暮れるぜ? そうなるとさすがに面倒だろ」


 天音の言葉に篝も頷いて、


「だね、何が出てくるか分からないからね~」


 あまりにも軽く言ってはいるが……それは重大な事だぞ!?


 相変わらず、こいつらの言動に翻弄される俺だが……

 まぁ、こいつらといれば大丈夫…かな?

 どちらにしても俺に選択肢はないし、こいつらのペースに任せ、前に進むしかない。


 一応、その温泉をとりあえずの目標に、俺たちは出発することになった。

 この先どんなことが待ち受けているのか…どんな奴らが出てきてもおかしくない。


 ──正直、不安だ。

 なのに……どこか楽しんでいる?


 そんな自分に気づくのは──…きっと、もう少し先になるだろう。

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