第3話 さよなら、平凡人生!!?
妖怪に命を狙われ、自称“天狗”の彼方と出会った。
挙げ句、自分は今まで人間だと信じて疑わなかった俺まで紅牙という“鬼”の生まれ変わりだという──
これまでの人生でダントツ1位の非現実的、非科学的な数時間。
……だが彼方の言うように、この目で見て…この身で体験した出来事。
そして、こうして彼方と向かい合って言葉を交わしているというのは……紛れもない“事実”だ。
確かに、この事実は変わらない。
俺が信じようと信じまいと……たとえ全力で否定しても変わらない、変えられない“現実”。
「……もしかして、また命を狙われたりするのかな……?」
自然ともれた呟き。
もちろん、今までの人生で命を狙われたこと何てない。
だが、これからは──?
「まぁそりゃあ、アイツらからしたら紅牙は宝を奪った大罪人だし、宝の在処を聞けても聞けなくても処刑……てことになるでしょうねぇ」
……やっぱり?
今回は彼方が助けてくれたけど……毎回というわけにはいかないよな。
なら……やはり自分でなんとかしないと??
でも、相手は妖怪。
生まれ変わりとかいわれても、俺は人間(?)だし。
「何にしても思い出すのが一番だと思うけど……急には無理でしょ?」
はい。無理デス。
ていうか無茶言うな?
「まぁ……気楽に、気長にね?」
そう言って彼方は微笑むが……
「そんなこと言うけど、いつまた襲われるか分かんねぇだろ??」
こっちは命がかかってるんだぞ?
悠長なこと言ってられないだろ……!
「う~ん…そうだねぇ……やっぱり急いで思い出した方がいいかもね?」
いや、だから…そう言われても無理だから!
身に覚えもなければ、ゼロから…いや、生まれる前の話ならマイナスからの記憶を呼び起こせって言われても……俺にどうしろって??!
「ん~、とりあえず記憶が戻れば力の使い方とかも思い出せると思うんだけどね……」
力ねぇ……
鬼の力??
腕力くらいしか思いつかないけど……?
“鬼”と聞いて思い浮かぶのは節分と日本昔話くらいだろうか。
途方に暮れる俺だったが、彼方も何か考え込むように黙ってしまった。
俺たちの間に流れた沈黙──…
そして、何か思いついたのか、彼方がふと顔を上げた。
「宗一郎、左手出して?」
「……左手?」
とりあえず言われたとおり、左手を差し出すと……
「ちょっとゴメンね」
そう言って、彼方は俺の左手を甲が上になるよう軽く手を添えると、そのまま自身の左手……その指先で俺の指先にそっと触れた。
「手、動かさないでね?」
俺は訳も分からないまま頷く。
それを確認すると、
「……しばらく貸してあげるよ」
彼方がそう言ったのと同時に、彼方の左手が淡く光り始める……!
「え……??」
俺が驚いているうちに、彼方の手の光はその指先に集まり──
シュ……ッ
「うわッ!? 何だ??!」
彼方の指先から小さい光の塊が飛び出し、俺の指先に吸い込まれた──!!?
「なッ……何だ今の!??」
目の前で起きた出来事が理解できない……いや、できるわけがない!
何故手が光るのか、何故その光が塊になって飛び出したのか、何故それが俺の指先に吸い込まれたのか──!?
驚き、混乱する俺。
そんな俺に、彼方は苦笑をうかべつつゆっくり手を離すと、
「……
「いや……?」
何のことかさっぱり……
「オレの“使い”なんだけど……しばらく宗一郎に貸しておくよ。多少のことならこのコでなんとかなるから大丈夫」
「……」
多少じゃなきゃダメって……それじゃあ困るだろうが。
それに、彼方……“天狗”の“使い”ってことは、今俺の左手に入ったのは……やっぱり妖怪の一種か??
そんなの体内(?)に入れて本当に大丈夫なのか??
急に増えた不安要素。
自分の左手と彼方を交互に見る……が、
「大丈夫だよ、悪さはしない……というか、させないから。宗一郎にはね」
……なに、その言い方?
なんか、ものすごく引っ掛かる言い方なんだけど??
本当に大丈夫なのか……?
「まぁ、何にしても……早く思い出してね♡」
……そんな笑顔で言うなよ。
俺は今だって完全に認めたわけじゃない。
これだけの話で納得できるわけない。
しかも、得体の知れないモノまでこの左手に……?
混乱や不安でいっぱいの俺の気持ちなんて……こいつはお構いなしなのか?
彼方はいつの間にかあんなにあったバーガー全てを食べ終え、その包み紙を丁寧にたたみ終わると、
「じゃ、そういうことで……頑張ってね? 宗一郎」
そう言って席を立とうとする。
「ちょ……ちょっと待てよ!」
思わず呼び止めた俺を、彼方はきょとんとした様子で見つめ返す。
「あんたは……彼方は、紅牙を探してたんだろ?」
彼方は当然とばかりに頷いた。
「──やっぱり、宝が目的か……?」
彼方は静かに首を振った。
「じゃ……じゃあ、何のために?」
「……」
……?
彼方の琥珀色の瞳によぎった悲しげな色。
それは、名前を聞いた…あの時と同じ──?
しばしの沈黙の後、彼方は苦笑をうかべて答えた。
「……オレにとって宝はどうでもいいんだよ。紅牙は友だちだから探してただけ」
あぁ……そうか。
彼方にとって紅牙は“友だち”だという。
紅牙を探してきたのに……紅牙だという俺には彼方のことどころか、紅牙としての記憶なんて全くない。
──紅牙は…俺は、“彼方”を覚えてない。
“友だち”に忘れられるのは……やっぱり寂しいし、悲しい…よな。
なんか──ゴメンな。
「……ん? なに暗い顔してるの? 元気だして!」
「──いや、俺は平気だけど……」
懐っこい笑顔で逆に励まされたが、多分つらいのはこいつのはずなのに──
「まぁ、いろいろ大変かもしれないけど……これからよろしくね♡ 宗一郎」
彼方はそう言ってにっこりと微笑んだ。
「……あぁ」
その懐っこい笑顔に思わず頷く。
でも……
俺、これからどうなっちゃうんだろ……?
その不安がなくなったわけじゃない。むしろ、余計に不安要素が増えた気もする。
それでも……。
……それでも。
彼方の笑顔が、俺の心をほんの少しだけ軽くしてくれたのは……たぶん気のせいじゃない。
だって
俺の口元には自然と笑みがうかんでいたから──。
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