第2話 常識適応外!!?
あの場を離れ、とりあえず目に入ったファストフード店に入った俺たち。
時刻は16時をまわっていた。
「おごってくれてありがとね♡ ──で、何から話そうか」
もごもご食べながら彼方が切り出した。
いや、何で……何で俺がこいつにおごらなければならなかったんだろうか?
しかも、飲み物に加えバーガー類……計10個も。
まぁ、一応助けてもらった礼といえばそれまでだが……もう少し遠慮しろよ?
それに、そのキレイな外見でそんなに食うのは反則だろ。
所謂ヤセの大食いというやつなのか? 俺、実物初めて見たよ!?
だが、こいつの大食いショーに呆れている場合ではない!
これだけおごったからには、きっちり説明してもらわねば!!
俺は改めて言った。
「最初から解るように話せ」
何で俺がこんなことに巻き込まれたかを。いや、何よりも先に……
「……まず、あいつら…いや、お前らは何なんだ?」
とりあえず人間でないことは間違いない。だが、じゃあ……何だ?
「…人間はオレらを“妖怪”っていうね。オレら自身は“
「はぁ?? 妖怪??!」
この現代社会に妖怪だと!?
人間ではないと思ったが、まさか本当に妖怪だとは……そんなファンタジーな存在が実在してたまるか!!
混乱する俺に彼方は構わず続ける。
「ちなみにオレの種族は“天狗”だね」
天狗……って、あの?
山とかにいる鼻が高い……赤いアレ??
確かに彼方の鼻筋が通ったキレイな顔立ちや髪と瞳の色は浮世離れしているかもしれないけど……俺の知識にある天狗、ましてや妖怪とは似ても似つかない。
服装もカジュアルだが違和感はない。強いていうなら元々背が高いのにだいぶ厚底の靴を履いているくらいだろうか。
そんなことを考えつつじっと見つめていた俺に、当の彼方は、
「ん? ……あぁ、人間に伝わっているのはいろいろ脚色されてることが多いんだよ」
そうにこやかに言うと、早くも6個目を食べ終え、7個目に突入しながら……
「で、紅牙は“鬼”の一族だね」
「鬼!??」
「うん、紅牙はオレらの世界…
俺の脳裏に節分のお面がよぎる中……彼方は続けて“幻妖界”について話し始めた。
「幻妖界っていうのはこの世界──人間の住む人界と表裏一体の世界で、オレたち妖が本来身をおく世界のこと。昔はもっと二界の境は曖昧だったんだけど……」
──つまり、人間の文明が進むにつれ、自然……超自然的なものとの関わりも減ったため、その境界がはっきり分かれたってこと?
そんな俺の問いに彼方は頷く。
「……まぁ、昔ほど曖昧ではないけど行き来は自由だよ。少なくともオレらはね」
どうも彼方の話しぶりでは、たまに迷い込む人間がいそうだけど……?
「聞いたことない? 神隠しとか」
いや、少なくともそんな笑顔で言う話しではないだろ……。
「で、さっきの連中が言ってたと思うけど……あいつら鬼の
あぁ……そんなこと言ってたな。確か、“お前の奪った宝”って……。
「確かに宝を奪ったのは紅牙なんだけど……どこかに隠したんでしょ?」
いや、俺にそう言われても……
「ていうか、紅牙が何も覚えてないってことが一番の問題なんだけどね……」
溜め息混じりにそう言って俺をじっと見つめ……られても困る!!
「だからッ!! 覚えてるも何も、人違いだし、俺には無関係だってば!!」
本日何度目かの渾身の否定に彼方は食べる手を止め、
「いや、間違いなく紅牙だよ」
そう断言し、改めてじいっと観察するように俺を見ると……
「……まぁ、外見は多少違うけどね。小さいし」
いや、中身も全く違うし!! あとなんだ小さいって!!
確かに身長はそれほど高くはないが……それよりも、鬼の一族だという紅牙の外見と同じであってたまるか!!!
「何を根拠に俺だって!??」
苛立ち混じりに言った俺に彼方は一瞬考えるような沈黙の後、
「えっと……カン、かな」
…………ッ
ふざけるなぁぁぁ!!!
テーブルをひっくり返さんばかりの勢いの俺に、
「まぁまぁ……落ち着いて?」
そう相変わらずのマイペースぶりでなだめるように言い、
「でね、紅牙は宝を奪って……まぁ、いろいろあって人界に逃げたの。人間の子に転生することで……」
そう言って俺を指差す。
「……それが俺だ…と?」
「うん」
「何をふざけたことを……ッ!」
俺は妖怪なんて……転生なんて信じないぞ!!
こんな非科学的な話、あってたまるか!!
「――でも、見たでしょ?」
「……ッ」
確かに……俺を襲った奴らの外見、そいつらを殺った彼方の不思議な力(?)、奴らの消え方……どれをとっても、俺の知る……信じている常識では有り得ない。
でも……確かに俺は……この目で見た。見てしまったのだ。
──全力で否定したい事実を。
「……それにさ、オレがここにいるってのは事実だし、確かなことでしょ」
そう言って彼方は微笑んだ。
確かにそれは認める。いや、認めざるを得ない……。
でも…でも……ッ!!
「──俺は紅牙じゃない!! 俺は…俺は人間だ……ッ!」
そうだ。
少なくとも……俺は人間だ!
「……じゃあ、何て呼べばいい?」
少し困ったように言う彼方に、俺はまるで確認するように
「俺は…宗一郎……高瀬 宗一郎だ」
そう、俺は…高瀬 宗一郎として、自分は人間だと信じてきた。疑うことすらなかった。
俺はこの17年間、人間として生きてきたんだ!!
なのに……なのに、ある日突然こんなことに巻き込まれ自分は妖怪の生まれ変わりと言われ、尚且つ…命まで狙われるなんて……そんなこと全力で否定したい!!
でも、目の前に突きつけられた現実──。
「じゃぁ、こ……宗一郎? ──……まぁ、事実は変わらないし、せっかくなら楽しんだ方が良くない?」
現実に愕然とする俺に、彼方は懐っこい笑顔でそう言ったのだった──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます