【実用】小説の書き方についてあれこれ考える -改訂版-

柿木まめ太

第一章 地の文の「私」は主人公の「私」と同一存在か否か

地の文の人格「お前誰やねん?」問題

第1話 永遠の謎…地の文は誰を想定して語っているの?

 のっけから、単刀直入なトコいきます。


 一人称の地の文に居る方の「私」と物語内で動いている「私」……地の文の「私」が、”今私は誰それと会話している”とかと語っている時の、実際に誰それと会話している「私」と、それを俯瞰で眺めているかのように語る地の文の「私」は本当に同一存在であるのか否か、という問題をまずは取りあげていきたいと思います。


 ◆◆◆


 三人称というのは「客観視点」のことで、一人称は「主観視点」とよく聞きます。


 しかしながら、よくある一人称小説における地の文に見られる「自分のことなのにまるで他人事」のように聞こえる語り口は、客観的である以前に、現在進行形なのか過去形なのかさえ曖昧になっており、非常に戸惑うのですね、私は。


 他にこんなトコロで引っ掛かっている書き手さんなど居ないだろうと思っていたのですが、色々と調べてみたところ、実は割といらっしゃるみたいなんです。


 説明が難しく、何を言っているのか理解してもらえないこともある、この問題。


 要するに、今まさに現在進行形で起こっている出来事をリアルタイムに伝えているとするならどうも違和感があるし、さりとて出来事そのものが過去のことで時間経過の後に語っているということならば、それは客観と呼ぶべきなのだから、一人称と呼んでいいものなのかどうか、という疑問が湧くということを言っているわけです。



 その回答らしきは、物語論という論評に語られていました。


 ナラトロジーとかで言えば、あらゆる種類の文章を分類すると「描写文」「解説文」「説得文」「物語文」の四つに分けられるそうです。


【(前略)この状態は、まだ出来事として存在しているだけで、誰かに語られているわけではありません。出来事としては存在しているが、まだ誰にも語られていない状態です。物語は、出来事として存在しているものが、誰か(語り手)によって語られて初めて物語になります。】関西大学 李春喜氏 講演録より抜粋


 ここにある「出来事として存在している事象」のことを「物語内容」と呼び、それが「語り手によって語られた状態」を「物語言説」と呼ぶのだそうです、ナラトロジー、物語理論では。


 つまり、同じ物語内容であっても語り手によって物語言説が変わる、ということで、物語理論ではこの物語内容と物語言説の関係を紐解く、ということのようです。


 ……こういう面倒臭いことを問題にしたいわけじゃないんですね、しかし。



 私が頭を抱えている問題は、時間軸です。


 一人称における地の文の「私」の厳密なところの捉え方です。この「私」は、現在進行形の同一時間軸に存在する場合にのみ、主人公「私」と同一存在であると言えるはずで、これが「誰かに物語っている形式の私=過去の出来事を語る私」である時には、物語内の私にとっては未来に居る私であり、これは三人称一視点と同じ立場の存在としての「私」が居ると言えてしまうのではないのか、という疑問なんです。


 つまり、結末も仕掛けも何もかも知っている私、ということになるのでは?と。


 そうなればもちろん、語り口が変わってくるはずです。しらじらしく地の文で”この先どうなるんだろう”なんて書くのはいかにも作為的になりませんか?


 あなた、もう知ってるでしょ?と。


 そういうしらじらしさを廃して書くなり何なり工夫がいるということになりませんか。地の文がそういう立場を採るケースでは、セリフを言い行動する「私」とは違う立場の「私」の存在を書き手は自覚しなければならないのでは? もっと言うなら、三人称の語り口で「私」は書かれねばならず、感情を書くにも一歩引いた「過去の自分を見ている私」というスタンスになるのではないのか、と思うのです。


 未来を知らぬ「私」と知る「私」ではおのずと語り口は変わるはずです。文章の細かいディティールが違って当然でしょう。何より感情の書き方は大きく変わる。


 ところが、この問題をいろいろと調べてみてもどうにも納得できる回答に辿り着けないんです。多くはこの疑問に触れてもくれず、触れてくれるモノがあっても、「そう言われているのでそういうモンです、」と言いたげな説ばかり書かれている。そして別段気にする必要はないとして話が終わってしまいます。正直、モヤモヤします。


 物語理論がナンボのもんじゃ、時間軸の説明をしてくれや、という気分。


 次のページで例題的に、時間軸を完全な過去においた一人称作品と、逆に時間軸を完全に現在とした一人称作品とを置いておきますんで、何を言っているんだかさっぱり解らんという御仁はどうぞ読んでみてください。巧く書けるか不安ですが…

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