56.功績
「グルオオオオオォォォォォン――ッ!?!」
逆鱗を突き刺すと、エンシェントドラゴンはこれまでとは違った反応を示した。
目は明らかに混乱したようにおかしくなっており、狂ったように身体を動かし始め、叫び声を荒げた。
「アルゼ! さすがだ、よくやった!!」
「エクエスさん、ここも危険です! もう少し離れましょう!」
転げ回り飛び跳ねるように苦しむエンシェントドラゴンに、俺たちは距離を取ってその様子を眺めた。
兵士たちが壺を壊したせいか、ただ単に逆鱗を突かれたことで苦しんでるせいかわからないが、ドラゴンの目は先ほどまでの洗脳されたような目ではなかった。
「グオオオオォォォオオオ――――ッ!!!」
そうしてる内に、エンシェントドラゴンはひと際大きな叫び声にも似た雄叫びを上げ、飛び立った。
「おぉ……エンシェントドラゴンが離れていく……」
「これは……終わったんですかね……?」
大きな翼をはためかせ、エンシェントドラゴンは逃げるようにテオス山の方へ向かって飛んでいった。
「お、終わった……終わったんだ……!」
「おおぉぉ……やっと、俺は家に帰れるんだ!」
遠巻きに見ていた兵士たちは、悲鳴にも似た歓声を上げた。
「アルゼ様!」
「アルゼ!」
「メル! レティア!」
それぞれ壺を破壊しに行っていた2人が戻ってきた。
「――うぉ!?」
メルとレティアの2人はほぼ同時に飛びつき、俺は倒れそうになりながらもなんとか2人を抱きとめた。
「アルゼ様、ご無事でしたか!? メルは心配で心配で……っ」
「そうよ! もうっ、心配したじゃないの!」
「2人とも……」
メルは心配そうな顔をしており、レティアもまた怒ったような顔をしていたが、2人とも少し目を潤ませていた。
きっと、本当に俺のことを心配していてくれたんだろう……。
「お、やっぱり無事だったのですよー。アビの言う通りだったのですよ? えっへん!」
「アルゼ様……たしかにアビさんの言った通り、見事にエンシェントドラゴンを撃退してしまいましたね。さすがアルゼ様です」
「アビとシンシアも無事でよかったよ。壺は壊せたのか?」
「冒険者と衛兵に協力してもらっていっぱい壊してもらったですよー。テオス山にも仕掛けられてたのですよ?」
「貴族街にもたくさんありましたが、おそらくすべて壊せたと思います」
「ご苦労さま。大変だったろう」
彼女たちはあの後、王都とテオス山の中を危険な状況の中走り回って役目を果たしてくれた。
街中にいたのはエンシェントドラゴンだけでなく、小さな魔獣からレッサードラゴンまでいただろうが、これでなんとか解決に向かうことができるだろう。
「私からも礼を言わせていただこう。王国騎士団団長として、国のために尽力してくれたことに感謝する。君たちのお陰でこの国は守られ、多くの民も救われたのだ」
エクエスさん、そして彼の配下の兵士が揃って感謝を表した。
「あら? エクエス騎士団長ですか?」
俺にずっとくっついていたレティアは、離れないままエクエスさんを見て、今頃になってようやく気づいたようだった。
「おや、リリー公爵家のレティア嬢ではありませんか。なぜあなたがここに? 公爵も大層心配しているのでは……」
「話せば長くなるんですけど……早い話、彼――アルゼのお手伝いをしていたんです。私は婚約者ですから」
「なんと! 君はレティア嬢の婚約者だったのか。まぁ、君であったら公爵も大変喜ばしいことだろうな。なんなら私の娘も将来……」
「ちょっとちょっと、何を余計な話をしようとしやがってるのですかー? これ以上、アルゼに
エクエスさんの話に、アビは即座に割って入ってきた。
「いや、うちの娘は決して変な子なんかではなくてな……親の私が言うのもなんなんだが、活発で明るく器量もいい子なんだ。まだ成人していないが」
「いやいや、そんな簡単に娘さんの将来を決めちゃいけませんよ。それに自分は元々貴族だったのですが、家を追われた身ですし……」
「ハッハッ、そんなもの関係ないさ。それが証拠に、公爵家も婚約者として認めてるのだろう? それに、君は恐らく王国を救った英雄として爵位を与えられるのではないかな」
「え、爵位ですか?」
まさかそんな話になるとは思わなくて、俺は驚いた。
「アルゼの功績を考えれば、そんなの当然じゃないの? これだけのことをしたんですもの。むしろ爵位程度じゃ足りないんじゃないかしら?」
「そうですね。おとぎ話でしたら、王女様と結婚もできるかもしれません」
レティアの意見に同調するシンシア。
俺としてはそんなことを求めていたわけではないが、言われてみればおとぎ話はそんな話が多い。
「そ、そんなのダメに決まってるでしょ!」
「ア、アルゼ様……これ以上、その、人が増えるのは……」
「2人とも落ち着け。シンシアが言ってるのはおとぎ話のことで、ただの冗談だよ」
俺は、おとぎ話を真に受けるメルとレティアを宥めるようにするが、
「果たして本当にそうでしょうか……」
シンシアはポツリと不安になるようなことを呟くのだった。
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