53.エンシェントドラゴンの力

 《聖騎士》――それはたしか『特殊スキル』のはずだ。

 《剣聖》のようにレアなスキルで、盾を扱えるの分防御面に関しては《剣聖》と比べ物にならないはずだ。攻撃面に関しては絶対的に《剣聖》が上だけど、どちらが総合的に上かと聞かれれば、なんとも難しいところだ。


「さっき見ていた限りだと、君はいくつものスキルが使えるように見えたが……?」


 ――うっ、さすがに分かるか……。


「実は俺の本来のスキルは《特殊スキル:大喰らい》というものなんです。時間があまりないので説明は省きますが、これは色々なスキルを手に入れれるもので、《剣聖》もその1つなんです」


「ほう……実に興味深いスキルだ。この戦いが終わったら、ぜひ詳しく教えて欲しいところだな」


「ええ、わかりました。コレをどうにかできたらその時には……」


「グオオオオォォォン!!!」


「――来るぞ!!」


 ここまで様子見していたエンシェントドラゴンだったが、再び俺たちを潰そうと腕を振り上げた。


「ふん――っ!!!」


 エクエスさんは片手に持った大きな盾を地面にガンッっとさすように構え、真正面からエンシェントドラゴンの攻撃を受け止めた。


「おおおぉぉぉ――っ!!」


 そしてそのまま盾を押し出すようにして、エンシェントドラゴンの腕を跳ね返してみせた。


「すごい……」


「ふぅ……何を言っている。君だってさっき同じことをしてたではないか」


「いえ、それとはずいぶん違うと思うんですが……」


 実際、エンシェントドラゴンの攻撃に耐えるために、あの時の俺は様々なスキルを重ね掛けしたのだ。そこまでしても、ダメージこそなかったものの押し潰されるのではないかと不安になるほどの危うさを感じた。

 だが、エクエスさんはエンシェントドラゴンの攻撃をものともせず、今も余裕の表情だ。

 さすが、防御に特化している《聖騎士》なだけある。


「ふむ、ならば私が盾となり君が剣となるのだ。2人の長所を上手くお互いに補えば、この伝説上の怪物にもなんとかなるかもしれんぞ」


「たしかにそれがいいかもしれませんね。防御を気にしなくていいのなら、俺はまだ攻撃力を上げることができます」


「ほう、それは楽しみ――だっ!!」


 エンシェントドラゴンがイラついたようにさらに腕を振り下ろすが、エクエスさんはそれを確実に止めた。


 ――よし、これなら任せても大丈夫そうだ!


「おおおぉぉぉぉ――ッ!!」


 俺は《咆哮》で自分の防御力を下げる代わりに、攻撃力を上昇させる。


「【エアカッター】!」


 試しに《風魔法》を放ってみるが、エンシェントドラゴンの固い皮膚にあっさりと弾かれてしまう。


「……なるほど、魔法じゃ歯が立ちそうにないな。やっぱり剣でいくしかないか」


 あわよくばと思ってやったが、俺の持つ魔法程度ではまったく効果はなさそうだった。


「――尻尾がきます!」


「ああ、わかってるさっ!!」


 ――ドゴンッ!!


 前世で言うのなら、トラックが思いっきりぶつかったような音がエクエスさんの盾から聞こえてきた。


 ――こんなの俺なら一撃死だな……。


 普通なら粉々になりそうなほどの負荷がかかっているはずだが、


「おぉ……っ!」


 エクエスさんはその攻撃さえも受け止めてしまったのだった。


 ――チャンス!!


 俺は無防備に尻尾をこっちに向けたエンシェントドラゴンの背中へ駆け上がり、


「はああぁぁぁぁ――ッ!!」


「ギャオオオォォォォォオオオ!!!」


 2本の剣で一心不乱に斬りつけた。

 《剣聖》の力に《双剣士》で2本の剣を扱い、《剛力》、《咆哮》で攻撃力をブーストした俺の剣は、エンシェントドラゴンの強固な皮膚さえも切り刻んだ。


「――うおっと!」


 エンシェントドラゴンは悲鳴を上げながら身体を振り回したので、俺は慌てて飛び降りて背中から脱出した。


「いいぞ! 君の攻撃は確実にダメージを与えている! このまま続けよう!」


「はい!」


 俺はエクエスさんの後ろに隠れるように移動し、


「グルルルルルル……」


「ブレスが来るぞ! 私の後ろから離れるな!!」


 エンシェントドラゴンは深く溜めを作って、息を吐き出すようにドラゴンブレスを放った。


 ――うっ、こんなの本当に防げるのか!?


「う、ぐ……ぬおおおおぉぉぉ――ッ!!!」


 俺は、必死に両手で盾を抑えるエクエスさんにくっつくように隠れる。

 直接ドラゴンブレスが触れたわけではないが、その熱量にだけで、身体が焦げるのではないかと思うくらいだった。


「エ、エクエスさん! コレいつまで続くんですか!?」


「わからん! だが、さっきと同じならそろそろ終わるはずだ!」


 まるで灼熱の中にいるかのように錯覚するほどの熱さだが、これでもエクエスさんが防いでくれているだけマシなはずだ。


 ――こんなの直撃したら一瞬で炭どころか形も残らないぞ!?


 俺は、レッサードラゴンから取得した《ドラゴンブレス》が、紛い物だったのではないかと思えるほどの差を感じていた。


「グルルルルルル……ッ」


 ようやく《ドラゴンブレス》が収まり、エンシェントドラゴンは俺たちが生き残っていることに不服そうな声を上げた。


「よし! 行きます! ――《突進》!」


 俺は《ドラゴンブレス》が収まった今がチャンスだと思い、《突進》で一気に距離を詰める。


「――い、いかんっ!」


 後ろでエクエスさんの叫ぶ声が聞こえたと同時に、


「――ぁ」


 視界の端にエンシェントドラゴンの尻尾が見え、俺の意識は途切れたのだった。

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