45.油断大敵
「好き勝手にさせない? クソ無能の分際で何様のつもりだッ!!」
ブワッとルイから圧が掛かる。まるで、メルが《
だが、そんなことで怯んでいる場合じゃない。
「お前たちのせいで、今も苦しんで助けを待っている人たちがいるんだ。俺もどこまでやれるかわかんないけど、手が届く人はできる限り救いたいと思ってる。だから、お前を倒してでも俺たちは先に進ませてもらうぞ」
「……舐めやがって! お前の力でこの俺に敵うとでも思ってるのか!!」
「あなたの相手はアルゼ様だけではありません。アルゼ様、私も一緒に戦います!」
「ああ、助かるよ、メル。正直、《剣聖》相手に1人はキツイだろうからな」
《剣聖》を手にしてからのルイとは本気で手合わせをしたことはないが、この世で剣術に関しては《剣聖》よりも上位のものはないとまで言われているスキル相手に1人で挑むのは無謀すぎる。
いくら多くのスキルを手に入れたといっても、それらは《剣聖》に匹敵するほどの力は持っていない。
結局のところ、今の俺はスキルを組み合わせつつ戦うしかないのだ。
「はぁ……たかだか奴隷が1匹増えたところでどうかなると思われるなんてな。その馬鹿げた考えを後悔させてやる」
先ほど俺たちに掛けた明確な圧はスッと引き、それは達人のような佇まいだった。
――スキル1つでこんなに変わるのか……!
《剣聖》を手に入れる以前の頃のルイとは全く違い、俺は記憶の中にある昔戦ったルイの剣術の腕を忘れることにした。
「――《
メルが隣でスキルを解放する。
ルイの本当の力はわからないが、それはあっちも同じはずだ。まして、鬼人族なんてレアな種族に出会ったこともないはずだ。
ただでさえ戦闘能力の高い鬼人族に、メルの『特殊スキル』が加われば、ルイもきっと面食らうだろう。
「メル、先手必勝でしかけよ――」
俺がメルにこちらから仕掛けようと伝えようとすると、視界にいたルイが
「アルゼ様っ!」
ガキンッっと俺の目の前で、いつの間にか現れたルイの一撃をメルが防いだ。
俺にはその一撃が全く見えなかった。
――これがルイの本気の速さか……!
俺はその事実に衝撃を受けるも、メルが防いでくれたチャンスを逃さまいと反撃に出る。
「――ハァッ!」
「フンッ」
だが、ルイは難なくメルを強引に弾き飛ばし、俺の剣を全く意に介さず払い除けた。
そしてそのまま、
「オラァッ!!」
「――ッ《頑丈》!」
俺に蹴りを放ってきた。
間一髪で《頑丈》を使った俺はダメージを負うことはなかったが、その勢いで後ろに飛んで距離を取る。
「……ふんっ、スキルを手に入れれるようになったのはどうやら嘘じゃないみたいだな」
「そう言っただろ。なんだ、信じてなかったのか?」
「勘違いするなよ。別にどうでもいいと思っていただけだ。ちょっとスキルを使えるよになったからって、この俺の《剣聖》の相手になるわけでもない」
ルイは、まるで俺のことなど眼中にないかのような口調で言った。
実際、これまではそうであったろうし、《剣聖》というスキルに絶対の自信を持っているのだろう。
「どうかな? それはまだわかんないかもしれないぞ」
「チッ、調子に乗りやがって……!」
ルイがグッと身体を沈み込ませるのを見て、
「――《見切り》」
俺は『不死の宵闇』で手に入れたスキルの1つを使用した。
「――なにっ!?」
ルイが猛スピードで俺に迫り剣を振ったが、《見切り》を発動している俺にはそのすべての動きが見えており、難なく躱すことができた。
このスキルはレッサードラゴンが持っていたスキルで、敵の攻撃を予測することができるものだった。
「《威圧》!」
「うっ……!」
「《剛力》――《爪撃》ッ!」
俺は《威圧》で怯んだルイに目掛け、《剛力》で力を向上させた状態で《爪撃》を放った。
「グァ――ッ!」
ルイは後方に吹っ飛び、傷ついた胸のあたりからは血が滴っていた。
俺が持っている《剣術士》は、盗賊からスキルの《追い剥ぎ》で奪ったもので、単純にルイの《剣聖》と比べれば相手にすらならない。だけど、こうやってスキルを組み合わせていけば、一泡吹かせることも可能だと証明できた。
「クソが……ッ!」
「ルイ、これで少しはわかっただろう。たしかにお前は昔より強くなったけど、俺だって強くなってるんだ。お前は『特殊スキル』に比べれば大したことないって思ってたかもしれないけど、意外と馬鹿にできないもんだろう?」
「たまたま俺に攻撃を当てたからって調子に乗るんじゃねぇッ!! ――ああ、そうさ。少し油断してただけだ。次は……殺す!!」
ルイがこれまで以上の速度で俺に迫る。
《見切り》で見えてはいるが、先ほどみたいに反撃するのも難しいだろう。
でも――、
「――ハッ!!」
「ぐぼァッ!?!」
剣を振り下ろす直前、横からの思わぬ攻撃にルイは壁に叩きつけられた。
「ルイ様、私もいますよ?」
倒れているルイに向かって、メルは凛とした顔でそう言うのだった。
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