29.新たに追い詰める者
王都に入ったレティアとシンシアは、早速冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの中はもう昼近くだというのに、ずいぶんと混雑していた。
「レティア様、こちらでお待ちください。私がアルゼ様について聞いてきます」
「いえ、いいわ。私も行く」
レティアはそう言って、シンシアとともに受付に並んだ。
「次の方どうぞー」
呼ばれたカウンターへ行くと、
「あら、ミゼじゃない」
「レティア様! もうお戻りになったのですか?」
レティアとシンシアが冒険者登録を行った際に担当してくれたミゼだった。
「う……ちょ、ちょっと戻ってこにゃきゃいけにゃい事情があったのよっ」
「レティア様、焦りすぎです」
「う、うるさいわね!」
「戻ってこなきゃいけない事情ですか?」
ミゼは不思議そうに首を傾げた。
「そ、そうよ。ちょっとあなたに聞きたいことがあるんだけどね、アルゼ――」
「――アルゼという男を探していると言ってるだろう!」
レティアがミゼに尋ねようとすると、隣からそんな声が聞こえてきた。
思わず声のしたほうを見てみると、
「――げっ!」
「ん? あ――」
そこにいたのはアルゼの弟のルイだった。
「……なんであなたがここにいるのよ」
「なんでと言われましてもね……私は兄を探してここまで来ただけですよ。むしろ、公爵令嬢たるあなたが
「そ、それは……あなたたちがアルゼをしっかり探してくれるか信用できなかったから、私自身が冒険者になって探すことにしたのよ!」
ルイは眉を寄せて、
「それはつまり、我がグラント家が信用できないと、そういうことですか?」
不快の色を滲ませてレティアに問いただした。
「そ、そうよ! だってあんなことがあったんですもの! それで信用しろなんて言うほうがおかしいわよ。別に私たちがこうして彼を探すことになにか問題でもあるの?」
「それは別にありませんが……」
ルイは内心で舌打ちをする。
アルゼを消すために探しているのに、ここでレティアに先に見つけられては台無しになってしまうかもしれない。
「ルイ、彼女は誰だ?」
それまで黙っていたレオが割って入った。
「……彼女は俺の兄の元婚約者で――」
「元じゃないわ、現よ!」
「チッ、まぁそんな感じですよ」
「ふむ……」
レオはレティアを下から上まで舐め回すように観察する。
「ちょっと、あんた変な目で見ないでくれる?」
「ぐ……失礼な女だな、君は。この俺のどこが変な目をしてると言うんだ!」
レティアにあからさまな視線を指摘され、レオは激昂する。
「はぁ? 自分で気づいてないの?」
「ちょっとアンタ! レオがアンタみたいな女にそんな視線送るわけないでしょ! ちょっと自意識過剰なんじゃないの!?」
レイラも負けじとレティアに食い下がる。
「あーもう、うるっさいわねぇ。私はアルゼの場所を知りたいだけなの!」
「あのー……」
「なんだ!!」
「ひうっ」
おずおずと手を挙げたミゼに、レオが八つ当たりのように大きな声で威嚇する。
「ちょっと、やめてよ! どうしたの、ミゼ?」
「あの、アルゼ様でしたら――」
◆◇◆
「くそ! 忌々しいやつめ! 衛兵も衛兵だ! このウェルシー商会がどれだけこの国に貢献していると思ってるんだ!!」
ジャークは部屋の壁に酒の入ったコップを投げつけた。
「まったくもって許せん! あの雌の鬼人族も、大枚はたいて購入したのに売るときにはわずかな金額で取引しやがって! 大損した分、取り戻せなきゃ話にならないじゃないか!」
ジャークがメルを奴隷商から購入したときにはスキルを使えなかったので、純粋に鬼人族の持つ力のみで戦わせていた。
それは、後に伝説ともいわれるエンシェントドラゴンと戦わせるためだ。
何人もの強い奴隷を集め、エンシェントドラゴンを倒させて自分の手柄とすることを、ジャークは夢見ていたのだった。
「身体も元通りになっていたし、もしかしたら呪いが解けたのかも。それなら、
ジャークの中で黒く暗い渦がぐるぐると廻りだす。
「おい!」
「はっ、ジャーク様」
すぐそばに控えていた執事を呼びつけ、
「お前も見てただろう、あの雌奴隷を。アレを手に入れたい……いや、元に戻したいんだ。どうすればいいかわかるよな?」
「はい。ではまずは金銭で釣ってみてはいかがでしょうか。多少金は掛かるかもしれませんが、最も正攻法かと……」
「ふん、あの様子じゃ金で取引するとは思わないけど……まあいい、最後のチャンスをあげなきゃな! これで大人しく僕に寄越せばそれで許してやるし、寄越さなかったら……後は頼んだぞ!」
「はっ、ジャーク様」
執事はジャークを残して部屋を出て行った。
「ふん、僕に逆らったこと、死ぬほど後悔させてやる!」
アルゼを追い詰めようとする者が、また1人誕生するのであった。
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