27.到着

「さて、それじゃ食事にしようか」


 俺たちはギルドを出て、料理屋を探すことにした。

 一騎討ちのあと、カード更新を終えた俺たちはダンジョンを踏破した後のニューリアのような状態になり、適当にあしらって逃げ出した。


「人が多い分、揉みくちゃにされたのですよー」


「さすが王都ですね」


「ああ、どこもかしこも人だらけだ」


 適当に入った料理屋も混雑しており、ようやく席に着くことができた。


「本当は冒険者ギルドで依頼を見てみたかったんだけどな……。こうなってしまうと、今日はもうちょっとやめとこうと思う」


「それがいいと思うのですよー。また揉みくちゃにされるのは勘弁なのですよ」


 アビがうんざりした顔で言う。


「今日はもうゆっくり休むために宿を探そうと思うんだが、それでいいか?」


「はい、アルゼ様」


「いいですよー」


 2人の同意も得られたので、食事を終えたら宿探しに切り替えることにした。


「お待たせしましたー!」


 店員が料理をテーブルに並べた。肉や野菜など適当に注文したが、どれも美味そうだ。


「ん! 美味い!」


 ただの肉を焼いた料理に思えたが、タレが美味しくて肉の味をより引き出していた。


 野菜も新鮮で、値段はそれなりにしたが相応のものだといえる。


「美味しいです!」


「ニューリアの街では食べれない味なのですよー」


 メルとアビも満足そうだ。

 俺たちは王都に来てから初めての食事を満喫するのだった。



 ◆◇◆



「ふぅ、腹も膨れたし、次は宿探しだな」


 料理屋を出た俺たちは市場を通り抜け、宿屋を探した。

 いくつかの宿屋が建ち並んでおり、見た目がきれいそうなところを選んで入ってみた。


「いらっしゃいませ~」


 俺たちが宿に入ると、1人の若い娘が駆け寄ってきた。


「しばらく泊まりたいんだが、部屋は空いてるか?」


「はい、空いてますよ! 部屋はいくつですか?」


 俺は後ろを振り返り2人を見ると、


「メルはアルゼ様と一緒ならば……あ、でも、アビは別の部屋のほうがいいかもしれませんっ。ええ、そうしましょう!」


「お金がもったいないので1つの部屋でいいですよー。メルの頭の中はヤラシイことしか考えてないみたいですが、アビといる間は諦めるのですよ?」


「ヤ、ヤラシイことなんて考えてません! ただそのほうがアルゼ様がかなと……」


「余計に疲れるだけだと思うのですよ?」


「そ、そんなはずありません!」


 メルが顔を真っ赤にしながらアビと言い合いだしたので、俺は「1部屋で頼む」と娘に伝えるのだった。

 部屋の代金は一泊につき金貨3枚で、やはりニューリアなんかと比べれば少し高い。とりあえず三泊分、金貨6枚先払いして部屋に案内してもらった。


「あ、ベッドがまた1つだ……」


 さっきのやり取りを見られていたせいか、またしても1つのベッドしか用意されていない部屋に案内されてしまった。

 今回はアビもいるので最低でも2つは欲しかったのだが、


「アビは構わないのですよ?」


 と、アビは何でもなさそうに言った。


「え、いいのか?」


「そ、そうですよ、アビ! 別の部屋にしてもらいましょう!」


「アビは別に一緒のベッドでもなにも気にしないのですよー。むしろ、近くでメルのことをできるのでアリなのですよ?」


「監視って……別にもう1部屋借りるくらいなんてことないぞ?」


「アビ、ここはアルゼ様のご好意を受け入れるべきかと……!」


 アビはメルを見て1つ息を吐くと、


「お金の無駄ですよー。アビはこの部屋でいいです。もう決めたのですよー」


 そう言って、ベッドにバフっとダイブした。


「あぅ……アビのいじわる……」


 メルはそれを恨めし気に眺めながらがなにかボソッと呟いた。

 俺としてはもう1部屋の代金くらい気にしないし、メルと2人の時間も過ごせるので良かったのだが、ベッドの上でゴロゴロと転がるアビを見て諦めることにするのだった。



 ◆◇◆



「レティア様? そろそろ王都につきますよ?」


「まったくなんでこんなことに。そもそもお父様が変な約束をするからいけないのよ。なんで私がアルゼじゃなくて、あのクソ生意気な弟と婚約なんてしなきゃいけないのよ。ふざけないで欲しいわ……」


 ニューリアでアルゼの話を聞いた後から、ずっとこんな感じでふさぎ込んでいた。

 馬車の外を見ると、見慣れた王都の大きな門が見えてきた。


「レティア様、いったん家に戻られますか?」


 未だぶつぶつと呪詛を唱えているレティアにシンシアが問いかけると、


「……戻らないわ。このまま冒険者ギルドに行くわよ」


 と、急にいつもの彼女に戻った。


「王都に戻られたことをご報告されなくてよろしいのですか?」


「元はといえば、全部お父様のせいだわ。報告そんなのいらないわよ。それよりも早くアルゼを見つけなきゃ、どんどん変なのが増えちゃうわ!」


「そんな節操ない方とは思いませんが……」


 レティアの目がキラリと光る。

 それは、もはや完全に浮気の現行犯を取り押さえようとしている妻の姿のようだった。

 シンシアはそんな彼女に、


「わかりました、レティア様」


 と、素直に従うのだった。

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