25.Bランクの実力

「それで? どういう条件でやるんだ?」


 ギルドの裏手にある訓練場に移動した俺たちは、野次馬たちが見守る中、相対して立っていた。

 メルには「私がアルゼ様の偉大さを体に味わわせてやります」と息巻いていたが、相手のご指名は俺だったのでアビと一緒に俺のことを見守っていた。


「へっ、そんなのどっちかが降参するかぶっ飛ばされるまでに決まってるだろ?」


「そうか、つまりなんでもありってことだな。ところで名乗ってなかったな。俺はアルゼだ。アンタは?」


「俺はBランクのマクシムだ。俺を倒せれば認めてやるよ。ただし! お前が俺にやられるようならば、悪質な嘘つき野郎ってことで衛兵に突き出してやるからな。覚悟しておけよ」


「わかったわかった」


 俺はマクシム脅しにビビることもなく、軽く受け流した。

 お互いに木剣を構え、開始の合図を待つ。


「こ、これはあくまで訓練ですからね! 危ないと思ったら止めますよ!」


 間に立つものとして、受付嬢のミゼに半ば強引に引き受けてもらった。

 最初は嫌がっていたが、この事態を自分が招いたきっかけであったこともあり、渋々引き受けた形だ。


「ではいきますよ……始め!」


 ミゼの開始の合図と同時に、


「俺のスキルは《剣豪》だ! お前に止められるか――!?」


 マクシムはものすごい速度で俺との距離を詰めた。


 ――速い!


「オラッ!」


 ガゴンッと木剣が激しくぶつかり合う音が響く。

 俺は《剛力》を使って、マクシムの力にも負けないように強化する。


「チッ、なかなか力はあるみたいじゃねぇか!」


 マクシムはいったん後ろに飛んで距離を取った。


「《突進》」


 俺は追撃をかけるため、マクシムの懐に飛び込み、


「な――!?」


「――《爪撃》」


「ガハッ!?」


 腹辺り目掛けて《爪撃》を放って、吹き飛ばした。


「【ウインドアタック】!」


「ふぐッ!?」


 《風魔法》で更なる追撃をする。


 ――な。


 俺はどうせやるならと、完膚なきまでに倒すと決めていた。そのほうが、今後王都で冒険者をやっていく上で、煩わしい奴らからも絡まれることがなくなるだろうと思ったからだ。


「ぐっ……調子に乗るなよ! その剣はブラフだな!? 魔法使いがたまたま俺の一撃を止めただけだろう、次は容赦せん! ――ハアァァァアアアッ!!!」


 マクシムは剣を振り上げて俺に襲いかかる。

『一般スキル』でありながら《剣豪》は《剣士》よりも上位であるが、


 ガンッ! ガンッ! ガンッ!


「なにぃ!?」


 大振りな剣を受け切るくらいならば、今の俺には容易いものだった。


 ――《視力強化》……これはいいスキルだな。


 今の俺は、ダンジョンにいた『ビッグフライ』というハエの魔物から得たスキルで、自身の動体視力を強化していた。

 これでマクシムの大振りなんて、完全に見切ってしまえるのだった。


「くそっ! なんで当たらねぇんだ!」


 マクシムは苛立たし気に叫ぶが、俺は冷静に反撃の機会を窺う。


「いい加減に……しやがれッ!!」


 マクシムの大振りが一段と大きくなったところで、


「《威圧》!」


「う――!?」


 俺は《威圧》マクシムの動きを止める。


「《剛力》――ハッ!」


 そして、木剣を力いっぱいマクシムの体に打ち込んだ。


 バキイイィィィッ!!


「あぎゃあああぁぁあぁぁあああ――ッ!?!」


 木剣の折れる音と一緒に、マクシムの体の中からも音が聞こえた。


「ひっ、ひぃ、ふうぅぅう――ッ」


 マクシムの額からは脂汗がどっと吹き出しており、必死の形相で息を整えていた。

 俺は地面に仰向けになるマクシムの隣にしゃがみ、


「意識もあるようだし、敗北宣言も聞いてないな。これ、まだ終わってないよな?」


 と、低くどドスを利かせた声で脅した。


「ひっ……待って、待ってください! あぐっ……! も、もう許してくださいぃぃ……」


 マクシムは苦しそうに呻きながら、俺に許しを懇願した。

 俺はやれやれと思いつつ、


「それは降参ということでいいか?」


「あぐぅ……いい、いいです……! だから、た、助けて……苦しいぃ……っ」


 マクシムの降参宣言を聞いて決着がついた。


「聞いたろ? 一騎討ちは終わりだ」


 俺はぽかんとするミゼにいうが、反応がない。いや、周囲の野次馬を含めて、固まったままだ。


「おい、聞いてるのか?」


「あ、はい!」


 ようやく反応を示すミゼ。その顔はまだどこか呆けているように見えた。


「えと、死んではないですよね?」


「いやいや、死んでるように見えるか? ほっといたらどうなるかわからんが、骨が折れただけだろ。もしかしたら折れた骨が内蔵のどこかに突き刺さってるかもしれんが……」


 俺は、ただ息をすることだけに集中しているマクシムを見下ろしながら答えた。


「アルゼ様、お疲れ様でした!」


「口ほどにもねぇ野郎ですよー」


 メルとアビが駆け寄って、メルは俺を労い、アビはマクシムに悪態をついた。


「ああ、ありがとう、メル。まあ、こんなもんかって感じだったけど、Bランク冒険者の実力を知れてよかったよ」


 俺が2人とそんな会話をしていると、


「おいおい、マクシムの野郎をこんなあっさりと倒しちまうのかよ……」


「本物だな……。『不死の宵闇』を踏破したってのは、伊達じゃないぞ……」


 ようやく我に返った野次馬たちが俄かに沸き始めた。


「とりあえず、中に戻ろうか」


「はい、アルゼ様!」


「はいですよー」


 俺はニューリアと同じだなと思いつつ、ギルドに戻っていくのだった。

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