22.次の目的地

「それでは全部で250万スレイになります。どうぞお受け取りください」


 キリルさんはそう言って、金貨の載ったトレーを差し出した。

 そのままでは載りきらないため、タワーのように金貨が積み上げられている。


「すげぇ……あんだけあったら、しばらくの間は遊び呆けられるぜ」


「羨ましいなぁ……」


「くそっ、俺たちのパーティーももっと深く潜れる力があればなぁ……」


 トニーたちはその光景を羨ましそうに眺めていた。

 ちなみに、『不死のローブ』は売ってないし、食べれそうな魔物も売ってない。それでこの金額になるのだから、ダンジョンがオイシイというのは正しかったな。


「ありがとうございます。アビ、お金の管理を任せようと思うんだが……できるか?」


「持ち逃げするかもしれないのですよ?」


「アビはそんなことしません」


「そうだな。お前はもう信頼してる仲間だからな」


「仲間……おーおー、2人ともお人好しなのですよー。わかったのですよ、これからはアビが大事に管理するのですよー。まずは節約のために寝る部屋は1部屋でいいですね? これでイヤラシイこともできないのですよー」


「ア、アビっ!」


 メルが顔を真っ赤にしてアビに掴みかかるが、アビはまったく気にするでもなく「ほれほれ、やっぱり追放するですかー?」と煽ってからかっている。


「おいおい、その辺にしとけ。話が進まんぞ」


「あぅ……すみません、アルゼ様……」


「こほんっ……さて、それでは以上で買い取りはよろしいですか?」


「ええ、ありがとうございます」


「こちらこそありがとうございます。是非、また機会があればよろしくお願いいたします。――あ、それとアビさん」


 キリルさんがアビに声を掛ける。


「なんですかー?」


「……先ほども言いましたが、信頼できるパーティーが見つかって良かったですね。くれぐれもアルゼ様とメル様にご迷惑をかけてはいけませんよ?」


「おーおー、メガネが親気取りなのですよー。メガネもしっかりと働けなのですよ?」


「ふっ、最後まであなたは……。それでは、また会える日を楽しみにしております」


 キリルさんはそう言って深く頭を下げたのだった。



 ◆◇◆



「さーて、これからの向かう先を決めなきゃな」


 俺たちはギルドを出て、街を出る前に食事をとりにきていた。

 あの後、トニーたちがギルドにいた冒険者たちにあれやこれや見たものを言ったせいで、俺たちはすっかり昼時に遅れてしまった。


「行き先が決まってないのですかー?」


「まぁ、それがここだったわけだけど、ダンジョンも踏破したし、アビもせっかくなら街を出てみたいだろ?」


「それはそうですけど、2人はいいのですかー?」


「まぁどこかにゆっくりできる家は欲しいけど、別にここに拘ってるわけじゃないしな」


「私はアルゼ様の行かれるところでしたら、どこでも、どこまでもお供します!」


「メルはほんとにアルゼのことが好きですねー」


 呆れたようにアビが言うと、メルは頬をほんのり朱に染めて、「メ、メルは奴隷ですから……」と両手で頬を触った。


「まぁ、それでしたら王都がいいのですよ?」


「王都?」


「はいですよ。王都なら広いですし、住む家も冒険者活動にも困らないのですよー」


「まぁ、確かに。王都、か……」


 アビが言うように、王都ならいろいろと揃ってるし理想的かもしれない。

 ただ1つ俺としては気がかりなのが、王都にはレティアが住んでいることだ。

 今では貴族でなくなった俺とは更に身分の開きがあるし、王都自体も広いので、そうそう会うことはないと思うが……。

 別に悪いことをしているわけではないので、堂々としていればいいのだが、実際に会えば気まずいことこの上ない。


「何か引っかかることでもあるのです?」


「あぁ、いや……まぁそんな気にするほどではないんだけどな……」


 歯切れの悪い俺にメルはなにか勘付いたようで、


「アルゼ様? どうされましたか?」


 と、

 俺は誤魔化すように目を逸らしたが、


「はぁ……実は元婚約者のレティアの家が王都にあるんだよ」


 メルの圧に根負けして白状した。


「アルゼが振られた婚約者ですかー?」


「うっ……まぁ、そういうことだよ。王都は広いし、今では前以上に身分差があるからそんな気にする必要はないけどな。まぁ……なんとなく、な」


「おーおー、それでメルがヤキモチ焼いてるのですねー。メルがアルゼを癒してあげればいいのですよ? それとも、アビが癒してあげますかー?」


 アビがない胸を反らすが、


「アビ、それはメルのお役目ですよ……?」


「……冗談ですよー」


 メルの言葉にあっさりと発言を撤回した。


「まぁとにかく、次の目的地は王都にしよう。それでいいな?」


「はい、わかりました!」


「わかったのですよー」


 こうして、食事を終えた俺たちは、王都に向けて『ニューリア』を旅立つのだった。

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