21.アビのドヤ顔

「なんですって!? 『不死の宵闇』を踏破した!?」


 ギルドに戻った俺たちがキリルさんに報告すると、メガネがずり落ちそうな勢いで驚いていた。

 ここに来るまでなぜか何人も冒険者がついてきていたのでキリルさんは怪訝な顔をしていたが、まさか俺たちがつい数日前に行ったダンジョンを踏破してくるとは思わなかっただろう。


「そ、それは本当なのでしょうか……?」


「だから本当なのですよー」


「そうだぞ。俺はしっかりこの兄ちゃんたちが『転移石』から降りてくるところを見てたからな!」


 なぜか俺たちの後ろからトニーが援護した。

 いったいこいつらは何が目的でここまでついてきたんだろうと俺が疑問に思っていると、


「な、なあ、ダンジョンボスのお宝はなんだったんだ……? 気になって気になって、もう我慢できねぇ!」


「ああ、俺もだ! ちょっとでいいから見せてくれよ!」


 どうやら彼らはドロップ品がなんなのか知りたかったようだ。

 まぁダンジョンに潜ってる冒険者なら、どんなお宝が手に入るのか気になるのは当たり前といえば当たり前か。


「ほれほれ、大人しく『待て』してろですよー。それでメガネはもういいですかー? ドロップ品を鑑定して欲しいのですよー」


 アビがそんなトニーたちにまったく動じず、シッシッと払うように邪険に扱う。


「あなたはまた人の名前を器具で……! はぁ……もういいでしょう。それで、ドロップ品はたくさんあるのですか?」


「ええ、結構ありますのでここだと収まりきらないかと」


「では、こちらに来ていただけますか?」


「わかりました」


 俺たちがキリルさんの案内でカウンターの横を通り抜けようとすると、


「ま、待ってくれ! 邪魔はしないから、俺たちにも見せてくれよ!」


 トニーが懇願するように叫んだ。


「あなたたちは別にパーティーメンバーではないでしょう? 関係ないではありませんか」


 アビが言うように真面目なキリルさんの一言に、トニーは目をうるうるとさせている。

 いい年したおっさんが目をうるうるさせたところで、ただただ気持ち悪いだけだが、


「はぁ……キリルさん。見せるだけなら俺たちは構わないので、一緒に連れて行ってもいいですか?」


「え? はぁ、まぁアルゼ様たちがよろしいのであれば……」


 それを見ていたトニーたちが歓声を上げた。


「すまん、いいか?」


「メルは問題ありません」


「あのまま放置しておくほうが後でめんどくさそうなので、アビもそれでいいですよー」


 うちのパーティーメンバーは協力的で助かる。アビの言うように、あのまま放置して後で恨みつらみを言われても困るしな。


「とはいえ、全員で押しかけられても困りますね。アルゼ様たちパーティーメンバー以外は『3人まで』とさせていただきます」


 キリルさんの人数制限を聞いたトニーたちは、


「俺が行くっつってんだろ!」


「お前は馬鹿なんだから大人しくしてろ、馬鹿!」


『3人』という枠に入るためにとっつかみ合いをしていた。


「アレ、放置してていいんですか?」


「正直外でやってほしいのですが……面倒なのでこのまま放っておきましょう」


 キリルさんはどこか諦めにも似た顔でそう言い放った。


「ふぅ……ふぅ……。よし、決まったぜ!」


 どうやらに人選は終えたようで、トニーを含めた2人の顔を腫らした男たちが俺たちと一緒に別室に移動した。


「さて、ここならよろしいですか?」


「はい。アビ、頼んだ」


「はいですよー」


 アビは軽く返事をして、これまでダンジョンで《無限収納インベントリ》にしまっていたものを出した。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 キリルさんが慌てた様子でアビを止める。


「なんですかー?」


「なんですかじゃありませんよ、もう……。彼らの前でこれだけの収納力を見せるということは、もう隠すことはやめたってことですね?」


 キリルさんが真面目な顔でアビに問う。

 どうやら、この人はアビの能力に気づいていたようだ。それでいてアビをギルドお抱えにするでもなく、その能力を隠してたってことは、なんだかんだ相当優しい人だな。


「気づいてたのですかー」


「ええ、まあ……」


「……アビはもう大丈夫ですよー。何かあってもアルゼとメルの2人が、きっとアビを助けてくれるのですよ? だから、アビは2人とこの街を出ることに決めたのですよー」


 アビの言葉にキリルさんは目を見開く。


「なんと……それほど信頼できる方に巡り合えたのですね。よいことです。アビさんのご多幸を心からお祈りしますよ」


「相変わらずクソ真面目ですよ、キリルはー」


 アビはぷいっと顔を背けて、再びドロップ品を出し始めた。


「アビさん……って、だからやめてくださいって! これ以上は……あぁ、もう!」


 ぽいぽいそこら中にドロップ品を出すアビに、キリルさんは頭を抱えるのだった。


「お、おい、『デスボア』がいるぞ……」


「それどころかジャイアントアントまでいるぜ……?」


「俺たちのパーティーは危うくあいつに殺されかけたんだが……」


 トニーたちはアビの出す魔物やドロップ、宝物でずっと目を丸くしていた。


「さて、これが最後の目玉、ダンジョンボスのお宝――『不死のローブ』ですよー!」


 ジャーンと取り出すアビに俺はふと疑問に思う。


「あれ? そういう名前なんですか?」


 俺が思った疑問をメルが代わりに言ってくれる。

 残念ながら鑑定スキルは俺も持っていないので、効力や名前などは俺たちにはわからないはずだが……。


「アビが勝手に名付けたのですよ?」


 アビは当たり前といった顔でそう言った。


「なんだよそりゃ……」


「ふぅ、やれやれ……ここは専門家に見てもらいましょう」


 そう言ってキリルさんは一度部屋を出ていき、ギルドお抱えの鑑定士を連れてきた。


「トードです。どうぞよろしく」


 トードさんは「さて、これだけあると時間も相当かかってしまいます。ある程度優先順位を決めましょうか」と言ったので、


「じゃあ、これからいいですか?」


 俺はアビ名称の『不死のローブ』を指差した。


「承知しました。《鑑定アナライズ》――むむ、これは素晴らしい!」


 トードさんはカッと目を見開いて驚きの声を上げる。


「このローブには、なんと『1度だけ致命的な死を防ぐ』とあります! こんな特殊効力を持つローブなど見たことありません!」


「す、すげぇ……」


「とんでもない代物じゃないか……?」


「いやこれもう国宝レベルだろ!」


 それに関しては俺もトニーたちに同感だ。正直、俺が持っている装備なんてそのローブの足元にも及ばない。


 ――あ、そういえば……。


「このローブに名前ってありますか?」


 俺はもう1つ気になることをトードさんに聞いてみる。


「このローブの名前は――『不死のローブ』ですね」


 アビがこれでもかというドヤ顔を決めたのは言うまでもないだろう。

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