16.1つの山場
翌朝、アビの朝食で英気を養い準備を整えた俺たちは、ボス部屋の前に一番乗りで来ていた。
「朝は混むので、早めに終わらせるのがいいのですよー。ここのボスを倒せれば、Dランクの冒険者と同等の力があると言えるのですよ?」
「なるほどな。それで朝早くに叩き起こされたのか」
朝はアビが俺とメルを起こしてくれた。なかなか起きなかったようで、かなり激しく揺さぶられて、少し気持ちが悪くなったくらいだ。
昨日は初めてのダンジョンにしてはこれといった疲労を感じていなかったが、どうやら自分の知らないところでだいぶ疲れていたようだ。
それはメルも同じで、アビに「ほらほら起きないと
「準備はいいですかー? ここのボスはゴブリンジェネラルと複数のゴブリンたちなので、ゴリ押しでいきますよー」
「そんな適当で大丈夫なのか? もっとこう、戦術的な話をしとかなくても」
「お2人の力量を見る限りは問題なさそうなので、特に作戦もいらないと思いますよー」
「そんなもんか。まぁ、アビがそう言うならそうしようか。メル、それでいいか?」
「はい、アルゼ様。開幕からスキルを使うので、倒せるだけ倒してみます!」
「頼もしいな。よし、行こうか。アビ、開けてくれ」
アビが「わかりましたよー」と言って、黒い大きな扉を押し開けた。
中は広いホールのようになっており、
「おーおー、ゴブリンどもがいい子に待ってるですよー」
アビが言うように、ゴブリンたちは俺たちが中に入るのを待っているかのように、じっとその場で待機していた。
「よし、準備はいいか?」
「はい! いつでもいけます!」
「アビは後ろに待機してますけど、攻撃されそうになったら助けてくださいよー?」
「ああ、わかった。――行くぞ!」
俺たちは部屋に足を踏み入れた。
「ゲッゲッゲッゲッゲ!!」
笑い声なような不快な声があちこちから聞こえてくる。
「――《
メルがさっそくスキルを開放し、
「はあぁぁぁ――ッ!」
ゴブリンどもを片っ端から切り倒していった。
「グギャオオォォォ!!」
1体だけ大きいゴブリンジェネラルが、俺を見て威嚇するように咆哮をあげた。
――ただのゴブリンはこのままメル1人でいけるな。コイツは俺がやる!
「――《剛力》!」
俺は《剛力》で腕力の底上げをする。
「《駿足》」
そのまま次は《駿足》で脚力を上げ、ゴブリンジェネラルに向かって駆け出す。
ゴブリンジェネラルは俺の身長ほどもある剣を軽々と持ち上げ、
「ガアァアッ!!」
俺の頭目掛けて振り下ろした。
「《突進》――っ!」
俺は《突進》でそれを躱す。
――ドゴオオォォン!!
さっきまで俺のいた地面が砕け、破片が宙に舞う。
その光景に俺は寒気がして足が止まりかけるが、剣を振り下ろしてる今が好機とゴブリンジェネラルに襲い掛かる。
「《威圧》!!」
「グゥッ!?」
俺の《威圧》で、ゴブリンジェネラルは剣を振り下ろした態勢のまま怯んだ。
「うおおぉぉぉぉ――っ!!」
今の俺は《剣士》スキルでこれまで以上に剣の扱いが上手くなっており、そこに《剛力》スキルを合わせることで、
――ザンッ!
俺はゴブリンジェネラルの首を一撃で刈り取ることができたのだった。
その様子を見ていた残りのゴブリンたちは足が止まり、
「――はあっ!」
あっけなくメルに倒されていった。
「アルゼ様! お怪我はありませんか!?」
「ああ、大丈夫だ――っとと」
メルは、俺に傷がないか身体の隅々までチェックする。
「ちょ、メル、くすぐった――あははっ」
「申し訳ありません、アルゼ様。アルゼ様にゴブリンジェネラルを押し付ける形になってしまって……私がもっと早くゴブリンを倒してれば……」
メルは俺がゴブリンジェネラルの相手をしたことを気に病んでいるようだが、10体以上いたゴブリンを1人で片付けてもらっておいて、俺が責める理由なんかあるわけない。
「き、気にしないでくれ。むしろ、あんだけのゴブリンを倒してくれて助かったよ……だからそろそろ、ははっ、もう離して――」
「いつまでもイチャイチャしてるんじゃねぇですよー。収納するのですよー?」
「こ、これはイチャイチャではなくてですね――」
頬を朱に染めて反論するメルが手を離したので、俺はその隙に離脱する。
「おっと、収納はまだ待ってくれ」
俺はゴブリンジェネラルに触れ《追い剥ぎ》を発動する。
『《派生スキル:追い剥ぎ》が発動し、スキル《咆哮》を獲得しました』
――よし、スキルゲットだ。でも……。
魔物からスキルを手に入れるには、《派生スキル:追い剥ぎ》でも可能なことがわかった。
これであまり食べれなそうな魔物からもスキルを獲得することはできるのだが、《大喰らい》と違って経験値を戦闘より多く獲得することはできなかった。
レベルの上がり方は少し遅くなってしまい残念だが、スキルは手に入るので今はよしとしておこう。
「アルゼはなんで死体をすぐ触るのですかー?」
「あー、これにはちょっと理由があるんだけどな……また機会があったら説明するよ」
「そうですかー。さてさて、お宝なのですよー!」
アビはいそいそとゴブリンたちを《
「あっ、アビ! まだ説明は終わってませんよ!」
まだ説明し足りないメルが、アビの後を早足で追いかけた。
俺はそんな2人を見ながら、1つの山場を越えたことにほっと安堵のため息を漏らすのだった。
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