15.ダンジョン攻略開始

「このダンジョンは10層まで攻略されてて、それ以降はいくつまであるかわかってないのですよー」


 アビがダンジョンの説明をしてくれた。

 1層は一角兎など小さくて弱い魔獣ばかりなので、アビの説明を聞きながら攻略する余裕があった。


「よっと――ふぅ……ま、俺たちはそこまで行くことは考えてないけどな。とりあえず稼げて安全に行ければ十分さ」


 あわよくば、まだ食べたことのない魔物がいれば食べたいところだけど、アビに言っていいものかどうか……。


「それが1番いいと思うのですよ? 稼げてアゼルはハッピー、アビもハッピー、メルも貢いでもらえてハッピーなのですよー」


「わ、私はアゼル様に貢いでもらおうだなんて思ってません!」


 メルが慌てて否定する。

 アビはどこ吹く風といった様子で、俺たちが倒した魔獣の死体を収納していった。


「すごいな。そんなまるまる入れて、時間経過も止まるんだろ?」


「そうなのですよー」


 アビの《特殊スキル:無限収納インベントリ》を見て、俺は羨ましく思った。


 ――おっと、そういえば俺もたくさんスキルをゲットしたな。


 俺は自分のステータスを確認してみる。


【名前】アルゼ

【レベル】17

【一般スキル】《剣士》《短剣士》《風魔法》《剛力》《駿足》《夜目》《遠耳》《解錠》《突進》《威圧》《爪撃》《頑丈》

【特殊スキル】《大喰らい》《聖なる癒しホーリーヒール

【派生スキル】《追い剥ぎ》


「…………」


 ――これ、やばくね?


 俺は自分が持つあまりのスキルの多さに驚いた。

 山賊たちを倒したことによって8個のスキルも得られることができた。

 1人被ってるやつがいたので1個少ないが、それでもあの戦闘で8個も新しく増えるなんて……《大喰らい》もすごいが《追い剥ぎ》も凶悪過ぎるスキルだ。


「アルゼ様、どうかしましたか?」


 俺が黙りこくってステータスを眺めていたので、心配してメルが声をかけてくれた。


「いや、あの山賊の一件ですごい量のスキルがな……」


「わ、すごいです、アルゼ様!」


 嬉しそうに自分のことのように喜んでくれるメル。彼女が山賊たちを倒してくれたおかげで、そのスキルたちがあるといっても過言ではない。


「メルが頑張って倒してくれたおかげだよ。ありがとうな」


「えへへ……」


 俺が頭を撫でると、メルは目を細めて嬉しそうにした。


「イチャイチャしてないでさっさと進むのですよー」


「おー、すまんすまん」


 魔獣を収納し終えたアビに急かされ、俺たちはダンジョン攻略を再開するのだった。



 ◆◇◆



「今日はここで休憩するのですよー」


「ああ、わかった」


「わかりました」


 アビがダンジョンにある『休息エリア』と呼ばれる、魔物が寄ってこない場所を指差しながら言った。

 俺たちはすでに3層の終わりに差し掛かっていた。

 この後にボス部屋があるそうなので、いったん休息を取って明日の朝から挑戦することにするそうだ。


「ここは結構人がいるんだな」


「そうですよー。ボス部屋前ですし、この3層まででちまちま稼ぐ冒険者も多いのですよ?」


「へぇ」


 周りを見ると何組かのパーティーがおり、思い思いに休憩を取っていた。

 ここまでは難なく来ることができたので、俺たちもここを拠点に活動するのもいいかもしれない。


「それでは食事の用意をするので休んでていいですよー」


「悪いな、アビ。頼む」


「ありがとうございます! あの、何かお手伝いしますか?」


「別に大丈夫ですよー。アルゼとイチャコラしててもいいのですよ?」


「そ、そそそんなことしません――っ!」


 アビのイジりに、メルは顔を赤くして噛み噛みで否定した。

 この2人、結構上手くやってるみたいだ。


「おー、いい匂いがしてきたな」


「ほんとですね。アビの食事は美味しいので、疲れも取れて元気になります」


 昼食もアビが作ってくれたが、彼女のスキルのお陰で調理器具や新鮮な素材もあって出来立てを食べることができた。

 そのうえしっかり味も美味しいので、本当に彼女を選んで正解だった。


「そういえば、アビはニャアニャア言わないのな」


「……意味がわからないのですよ?」


「いや知り合いにミケっていう猫獣人がいてさ、いっつも語尾にニャアって付けてたんだよ」


「なんですかねーそれは。そんなの言うわけないじゃないですかー」


 アビはケタケタと笑った。

 確かに弟のシロは言ってなかったけど、よく考えたらアビは語尾をよく伸ばすし、猫獣人はそういう特徴がなにかしらあるのかもしれない。


「お、そろそろできたのですよー」


 アビはそう言って、温かいスープとパンを用意してくれた。


「わ、美味しそうです」


「えっへん、美味しいですよー?」


「ああ、確かに美味そうだ」


 スープのいい匂いが辺りに充満する。

 こんなこと《無限収納インベントリ》を持ってるアビにしかできない芸当で、周囲の冒険者たちは羨ましそうな目でこちらを見ていた。


「うわぁ、美味しいです! 温かくてなんだかホッとしますね」


「ああ、メルの言う通り安心するな。こんなダンジョンの中でしっかりした食事をとれるなんて、アビのお陰だな」


「褒めたって何もでないのですよー?」


 そうは言いつつも、アビは俺とメルに多めの肉を追加で入れてくれた。

 俺たちは、温かい食事としっかりとした睡眠をアビのお陰でとることができ、万全の状態で翌朝を迎えるのだった。

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