第24話 水進・魔弾

何回も…何時間も…何通りも…、

幾度も容赦なく絶命させられる。


斬殺、焼殺、毒殺、ありとあらゆる死因…、

ありとあらゆる死の想定をこの身に

与えられていく。


二十一回…、斬殺だけでも斬首 腹切

手足の両断…胴体の真っ二つ…等、


与えられるのは死という結果のみで、

試行錯誤する間をシオンは与えてくれなかった


(血の臭い…)


自分が散らした血がそこらじゅうに

臭いを漂わせる。

殺され過ぎて立ち上がるのが馬鹿らしくなる。


何回か死体撃ちもされ、蘇っては死んでを

繰り返したりもしたけれど……


シオン「流石に手も足も出ない見たいね…

今日は辞めにしましょう」


ようやく手が止まる頃にはすっかり日が暮れそうになっていた。


「君の魔術が実戦レベルになるまで、

私は要らなそうね」


拓海「そう…だね、ねぇシオンさん」


シオン「なに?」


拓海「袖…直して?斬られたジャージの袖…」


シオン「……ごめんなさい、今直す」



拓海「シオンさん…、魔術を使う時って

どういう感覚で魔術を使用してる?」



シオン「そうね、魔術を使う…と言うより

魔術に使感じかしら」



拓海「へぇ〜使われる…」



シオン「魔管を通してマナをオドに変換し

魔力を生み出す。」


「あくまで自分は通過点として扱う…

魔術という結果の通り道として」



拓海「なるほどなー、」


事象の一部として自分を組み込む…か、

その考え方で出来るなら、俺にもできそうだ。


それに沢山死んで在り方に近づいたのか、

心做しか心身共に軽い気がする。


水の圧縮の仕方も一つ試したいことが…

生死の狭間にいたお陰でヒントを掴めた

気がする。


「日が暮れるけど…シオンは?」


シオン「もちろん代わる、講師を望むなら

後はクロネに頼みなさい」


拓海「そうする」


シオン「それから明日から私はMonoの

討伐に行くから……早く強くなってね」


「それじゃお休み」


拓海「お休みなさい」


「…………」


クロネ「…………ふぅわぁ〜…、あっ

…こ、こんばんは」


拓海「こんばんは」



クロネ「修行…、続ける前に一度 体を

洗ったら?」


拓海「血生臭い…よね、ごめん」



クロネ「うんうん、むしろごめんなさい

シオンが無理させたみたいで」



拓海「…焦ってるよね…シオン…」



クロネ「そうね。一度患った

病が再発するって聞かされれば

早く対処しようと考えるものよね」


拓海「現に今…生態系は荒らされてる

んだよね」



クロネ「一匹だけ…尋常じゃない速度で

被害を拡大してるのがいるらしいわ」


「私は目を瞑れるけど…シオンは

そうはいかないでしょうね」



拓海「匹…蛇の方かな…」



クロネ「当たり、少し情報を共有して

見たけれど…Kー1(ビースト)の性質に一番

近いのがあの蛇でしょうね」



拓海「質の悪い毒の使い方する所?」



クロネ「そっちじゃ無くて、栄養の蓄え方が

Kー1(ビースト)の資源を回収する時と同じ

なの」



拓海「へぇー…あ、クロネ」


クロネ「そうねユウカがお眠になって

待ってる」


途中、飽きて宿に戻ったユウカの事を

すっかり忘れていた。


拓海「なら今日はここまでにしようかな、

ユウカもお風呂に入りたいだろうし」


お風呂と言っても、少し大きめの桶に

お湯を張っただけの物だが…


「クロネさん、いつも通りお願いします」


クロネ「はーい、それじゃ帰りましょう」


-----------------------------

ユウカ「おかえり…主、クロネ…」


クロネ「ごめんねユウカ…眠いね、早く

お風呂に入って寝ようね」


拓海「ごめんよユウカ……」


ユウカ「うん…入浴姿を観てくれたら許す」



拓海「うん…観ないよ」


ユウカ「いや…?」


拓海「うーん、観たくなったら観るね」


ユウカ「うん……」


クロネ「ほらいいから入るよ」


その後、ユウカとクロネの入浴が終わると

自分もクロネの用意した石鹸と

お湯で身体を洗った。

二人が身体を洗っている間、

部屋の外で湯水を出す練習をしたが…

イメージが足りないのか、自身の体温以上

の湯水を出すことは出来なかった。


----------------------------------------------------------

次の日、早朝から準備運動を済ませ

水魔術の習得に専念する。


「…………」


「………………」


ユウカ「主ー?」


拓海「おはようユウカ」


ユウカ「おはよう、主…それは修行なの?」


拓海「そうだよ…」


ユウカ「……撥条の玩具みたい」


拓海「修行とは地味で滑稽に見えるもの

なんだよ…」


ユウカ「ふーん…、」


シオン「普通に滑稽だけど、滑走するための

練習なのは分かるけど…何がしたいの?」


拓海「片足だけ水を出す練習…、

両足濡らすと体幹で踏ん張れなくなるし、

この世界じゃ俺か弱いから、濡れた靴の重み

だけでも不利な要素を作っちゃうと思って」



シオン「…理にかなってはいるんじゃない?」

「それで?調子はどうなの?」



拓海「全然…、汗をかくイメージでやってる

のが多分悪いんだけど……、両足どころか

全身から汗じゃない水が出る」


「おまけに体温が上がらないと出ないし、

出る水もちょっとずつ増えてくから…、

相手が悠長に待ってくれないと…使えない」



シオン「そうね想像の仕方に問題がある。

人間らしい考え方を捨てなさい」


「魔術の基本は己を理解すること」



拓海「在り方に近づくことを想像…

する…って事か…」



シオン「人を捨てるのは最期で良いんだから

捨てたくないもの以外に拘りを持たない」



拓海「そうだね、そうするよ」


ユウカ「主、頑張ってね」



拓海「ユウカ…シオンと一緒に行くの?」


ユウカ「うん、シオンが助けてって

言ったから、シオンを手助けするの」



拓海「そっか…二人共気をつけてね」


シオン「殺せはしないでしょうけど、

被害を抑えてくるわ」



「行ってらっしゃい」



「それじゃ……」



さて、本当なら俺も手助けするべき所だが…

どうやらMono…、というか海獣ミラには

資源を回収する機能、あらゆる物を

取り込む習性があるらしいのだが、

その‪”‬あらゆる物‪”‬に「魂」も含まれる

のだそうで……

行けば確実に殺される俺は

戦闘に出れるレベルになるまで留守番する

他ないのだ。


二人を心配するなら、この短期間で

成長する事…

シオンは己を理解しろと言った。


それが魔術の基本だと…、なら今から試す

それはきっと…


両手を胸の前にやり、見えない水晶を

持つように手の形を作る…。


星ノ空…星と宇宙が届かぬ場所…、

虚ろ…或いは無と言うべきものに近い何か。


目視できるが決して届かない…、

ただ「見上げる」ためにある在り処。




魔術が使えるようになった理由は何だろう。


シオンの言っていた‪”‬見えづらい‪”‬とは

どういう状態なのだろうか…


そんな事を考えながら

両手の中心で水の球体を作る…。


手の平から出る水は球体となり、重力を

無視して…宙に浮く。


世界は今、凪星 拓海を認識していない。

この手にある水も同じく…

瞬間的ではあるが、宇宙の法則に触れること

無くこの場に居る。


増え続ける水は同じ座標で、体積を増やさずに

その場に留まり…元居る場所へ

帰ろうと待機している。



勘違いしていたのかもしれない。

俺はクロネから夢人と星使者の曖昧な

境界線の上に立ってると説明されたと

思っていた…。


間違ってはいないのだろう…、ただ俺は

それを人と人知を超えた者の境界線に

いるのだと思っていた…。



違う、夢人は架空のキャラ…存在しない者だ。


憶測で、自己完結していたが…

魔術を使えるのは体内で魔管が作られた

からでは無い…


シオンが凪星 拓海と言う記録に

干渉できない理由…


‪”‬何も無いんだ…‪”‬


何も……


肉体に見えるソレは…まるで機能しているか

のように…側だけ取り繕って、

張りぼての様に中身の無い、スカスカで…、

幽霊と差程変わらない…

ただの虚像のような者…。


記録される限り、記憶される限り、

観測され…認識される限りは…話しを合わせる

かのように、生命としての

在り方を取り繕う。


初めから、生きてないし…

死んでもいない…

魔管が有ろうが、魔術が使えようが…、

世界にとってそれは自然でも、不自然でも無い


(夢は夢のまま…触れられず…

届かない…か、)


でも…こうして人のフリをしてる間は…、


世界が再び…ソレを認識する。

一点に集中して圧縮された水は

行き場を得たかのように、弾丸と言える

程の速度で遠くへと跳んでいく。


魔弾スフェラ

後の魔術世界で禁忌とされ

魔法術…と言われるようになる魔術…。


あらゆる術師が改良し、己が技術とオドの力を

持って再現する魔術を……、


海拓者は、その在り方のみで再現する。



けれどそれでは足りない…、


眷属たる魔物をそれだけでは倒せない、


神たる獣にそれだけでは傷一つ付けられない。


(ここからどうするか…)


水圧によって、皮が剥がれボロボロになった

両手を見ながら考える。



全魔術を扱えるようになったとて、

恐らくMonoやミラには効きめは無いだろう。

創意工夫の末、真に必殺と言える

術を考案しなければ…。


シオンとユウカ…、二人は大丈夫だろうか。

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