星ノ木

花水スミレ

序章・人の夢


夢に手を伸ばした。



あの輝く星に……手を伸ばした。



みんな誰しもあの星に手を伸ばす……

遠い遠いあの星に……、




宇宙ソラは暗くて寒い、

星は眩しくて身が灰になりそうだ。



死ぬのは御免だ。



暗闇で一人は怖い、熱くて苦しむのは嫌だ、

……、…………。


だから「夢を諦めた」。



あのほしは掴めない、

だから視ることにしよう…、

地上ここから上を眺めて…、観る事に

しよう。



ほら見て、また何も知らない子が

ほしを掴みにやってきた。


何も分からずやってきた。



------------------------------------------------‐-----------------



------------------------------------------------------------------




小さい頃に夢をみた。



子供の頃の大きな夢。現実味が無い

大人のほとんどが、夢物語と割り切る物を。


英雄ヒーローなりたい。」

多くの人が抱いたことのある夢。


男の子なら車や恐竜、物や動物に、

警察、消防、なりたい職業、そして何より

誰かを救うヒーローになりたいと

思ったはず………………、

自分もそんな一人だった。


けれどそれも遠い昔の話しで…、……。




夢を見た、夢を見ている、

子供の頃に見た希望と悪夢を。

「どっちについて行く?」 「やめろ!!」

「ごめんね、ごめんね……」 「ちゃんと頑張りなさい」

「どうして生きてるんだろう」

「嫌いだ。」 「何してんだ!」

「何してんだろ…」 「死ぬのは怖い…」

「もう諦めよう。」


------------------------------------------------------------------


とても嫌な夢を見た気がして、目が覚めた。

うなされでもしたのだろうか、

額や脇、背中の汗が尋常ではない。

いや…これは夏の暑さのせいか…?


8月下旬、花や木々の遅咲きに時期外れの

気温の変化など、数年前から異常気象を

肌で感じる気がするが、それにしても

この猛暑は辛い。


最近は、疲れや冬の寒さから来る眠気とは

違う、脳がオーバーヒートするような、

気絶に近い眠りが多い。


(だるい…、身体が重い…。)



加えて今朝は悪夢を見て気分は最悪だ。


いや、‪”‬おそらく悪夢を見たのだろう。

夢は夢だ、記憶から抜け落ちて

すぐに消えてしまう…。

「今日はこういう夢を見た」も起きる直前、

或いは寝る直前に想像や妄想していた

ものの可能性が高い。


意識の無い中、無意識に行われるそれ

気づくのは不可能に近い。



夢とは消えてしまうものなんだ。

決して届かない…、無になって…しまうんだ。



凪星なぎせ 拓海たくみ

ジャージとマッ缶を愛し、

四、五年ほど引きこもりしてる無職十八歳。


何故、彼が自宅警備員という職に就いたのか…

波乱万丈、色々あったけど簡単に

まとめてしまうと「疲れてしまった。」

この一言に尽きる。



何もせず一日を自由に過ごすというのは

素晴らしいものである。

好きなだけ睡眠を取り趣味に没頭し

惰性と呼ばれる日々を謳歌する。


本来華々しく送るはずだった高校生活三年分を

無駄にし、集まった友人達と笑い話に

したのは良い思い出だ。



「最近どう?何かあった?」



「受験勉強 以外何も無い…」



「そりゃそうか…。」



凪星なぎせは?何か新しい事。」



凪星「いゃぁ…何も?ゲームばっかしてた。」



「ぁぁ…ぁ俺もヒキニートになろうかな。

どうせ俺の人生真っ暗だし、

このまま引きこもりになろうかな。」



「やだよーうちから二人も引きこもり

ニートでるの。」



凪星「いいよォ〜。こちら側に、いつでも

歓迎しますよぉ。」



「いや割と本気で病んだら行くわそっちに、

俺人生真っ暗だからさ。」



凪星「待ってる、でもあれだよ、俺のは

先の無い自由だから、真っ暗闇 確定だよ?」



「なるほどね。あれ?てかあれから何年?

引きこもり生活。」



凪星「え?何年だぁ〜?た〜ぶん三年?」



「学校来なくなったのはー 中三の夏頃…」



「えっとねー二学期入ってからすぐだったから…丁度三年じゃない?」


「「あ〜ーそっか三年だ」」

「「お〜、ホントじゃん」」



「えっ、どうすんの三年たったけど。」


凪星「いやどうもしないけど…、まだまだ

親のすねかじりますよ。」


「やってんねぇ」


「三年棒に振ったね。」



凪星「いや棒にすら降れてないんだって。」





------------------------------------------------------------------



いやぁ、あの会話も一年前か…

時の流れは早い、

時の流れに身をまかせ〜、ふふゥん、ふふ、ふん


そんなことを思いながら、今日も今日とて

凪星 拓海の一日は自宅の中だけで完結し

小さな世界で幕を閉じる。



昼間はやりたい事をしたいだけして

あっという間に陽は落ち

眠りの支度についていた。



眠る支度と言っても、眠気が向かいに来る

までベットの上でゴロゴロと

待つだけなのだが、

時計の針も十二時を越え、少し意識を向ければ

外で鳴くスズムシの声が

心地よい音として心の音を落ち着かせる。




(あと一年ちょっと…、あと一年生きたら。)

最近はそのことばかり寝る前に考える。




あと一年生きて、二十歳を迎えれば

それでいいやと思い込んでいる。




成人という立派な節目を迎えることが

できればそれで………そう思い込んでいる。



やりたい事も、やり残した事も無いと、

そう思い込んでいる。



そう、「そう思い込んでいる」だけなのだ。

もう疲れたと思うのも何もしたくないのも

事実だけど、

人生なんて簡単に割りきれるものでは無い。





だいたいの人間は「死にたい」と口に

しても、まだ人生…やり残してる事があって、

「死ぬのが怖い」と思うのは

死んでその「何か」を喪うのが怖いのだと

思っている。




少なくとも自分はそうだ。

叶うことなら夢は叶えたい、

とっくに諦めてしまったが未だに淡い期待を

抱いている。



「誰かを救う人間になりたい」。


流石に全長50メートルの巨人になったり、

超人的なパワーを手に入れる

なんて夢は見ないが、

それでも淡く抱いているのだ。

「誰かを救う」…という夢は未だ曖昧のまま…

現実を見たとしても、現実を見るからこそ

難しいと感じることが多い。



それに……、

(自分を救えないのに誰かを救うなんて

できない……。)



自分という男、凪星なぎせ 拓海たくみ

という人物は難しい。


よく自分の敵は自分自身なんて

言葉を耳にするが本当にその通りだと思う。




物事を理解しても

理解だけして解決しなかったり、

解決する時は一人で勝手にしていたり、

その結果 他人が介入できなくなって

自分ではどうしようも無い事に

手詰まりになってしまったり。



というのが今の現状で、

誰かに助けを求めようにも…



自分では救えないから他人にも救えない、


自分を救えないから他人を救えない


という詰み状態である。



過去に戻ってあの時こうしたら…、

なんてタラレバもあまり意味を成さない

くらい、

自分を救うというのが難しい。


おまけに「自分は救えない人間だが、

俺の人生は幸せだ。」と本心で思えてしまうから、

余計にタチが悪い。


けれど未だに過去に囚われて

あの時の自分を助けて欲しいと、今も

心から救いを求めている。





あぁ気持ちしんどくなってきたなぁ……

ちょっと抜きたくなってきた…。



いや、やっぱ寝ようかな…

あんまりメンタル良くない時にする

自家発電はEDになるっていうし、



でも引きこもり一年目でナニを全くしなかった

せいか既にあんまり勃たないんだよなぁ、



性欲も衰えたし…、

引きこもりだから出会いがある訳でもないし、

まぁEDでもいっかぁ〜……。




その後ちょっとだけエッチな漫画を

見て、秒で寝落ちをしたのだった。


----------------------------------------------------------------





























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る