第3話 ふたつの恋心


「旅ってどんなもの持って行けばいいんだろ? これはいるのかな? これは? うーん……まあ、必要になったらその時に買えばいっか」


 レグルス君の荷物を馬に積んだのち、あたしは家に戻り自分の支度を始めた。

 当分の替えの服、食料、お金……必要そうなものを適当にバッグに詰めてゆく。


「……えへへっ。これは当然、持って行かなきゃだよねぇ♡」


 手に取ったのは、白い布切れ。

 以前こっそりと手に入れた、レグルス君のパンツ。


 未だ残るほのかな雄の香りを目一杯吸い込むと、下腹部は火がついたように熱くなり、じゅんと湿り気を帯びた。……あぁ、ダメ。支度しなくちゃいけないのに、変なスイッチ入っちゃうよぉ。


「レグルス君……レグルス君……レグルス君……っ♡ すきっ、すきすきっ……大好きー……っ♡」


 一番気持ちいいのがきて、ビクンと身体が痙攣した。


「はぁー……すきぃー……大好きだよぉー……♡」


 彼とは小さい頃からずっと一緒で、あたしにとっては可愛い弟のような存在だった。

 昔から好きだったような気はするが、明確に異性として意識し想いが抑え切れなくなったのは、あたしがジョブを授かった二年前から。


 【聖女】はとても稀少なジョブで、スキルにより他人の傷を癒したり自身を強化できたりする。

 だからこそ、その力を欲するひとたちは大勢いて……。

 ある時、あたしは犯罪組織にさらわれた。


 怖くて、怖くて、怖くて。

 【聖女】なんて最悪だって思ったその時、助けに来てくれたのがレグルス君だった。


 当時はまだジョブを授かっておらず、彼の武器は純粋な剣技だけ。

 なのに彼は瞬く間にその場を制圧し、泣いてるあたしの手を引いて家まで帰してくれた。……昔は泣くのはレグルス君の方で、手を引くのはあたしの仕事だったのに。


「……さっき転んじゃった時、レグルス君、あたしのおっぱい触って興奮してたよね? えへへっ、絶対してたよね!? レグルス君も男の子なんだぁ。旅の最中に色々耐えられなくなって、そういうことになっちゃったらどうしよう!? へへっ、どうしよぉー!!」


 真っ赤に熱くなった頬を押さえながら、先ほどのレグルス君の息遣いを思い出して身悶えした。


 彼の顔に触れた、あたしの胸。

 大きいばかりで邪魔だと思っていたけど、レグルス君が喜ぶなら別にいっかぁ。


「【おち○ぽチャンバラマスター】が何かは知らないけど、怪我したら全部あたしが治しちゃうからね! あ、あと……あたしのこと欲しくなったら、全部あげちゃうんだから! ……な、なんちゃって、えへへっ♡」


 ひと通り悶えたところで、ハッと我に返る。

 いけないいけない。早く支度しないと置いてかれちゃうよ!




 ◆





「よっこいしょ……っと。ふぅ……」


 自分と坊ちゃまの荷物を馬に積み、小さく息をついた。そして、後ろのお屋敷に目を移す。


 ……ここで働き始めて、もう四年。

 随分と長居をしてしまった。本当はこんなはずじゃなかったのに。


 四年前、私は多くのひとと同様にジョブを授かった。


 何でもない至って普通の家庭。

 なのに私のもとに降りてきたのは、【暗殺者】という普通とは程遠いジョブ。


 そういう犯罪に直結するものは闇ジョブと呼ばれており、人々から忌避され差別の対象にもなる。……だから私は、両親から家を追い出された。


 自棄になり、何もかもがどうでもよくなり、【暗殺者】らしく誰かを手にかけて大きく稼いでやろうと思った。


 そんな時目についたのが、このエーデルライト家。

 何事もなくメイドとして潜入できたが、ここで一つ問題が起こった。


「すぅーーー……はぁーーー……うーん、素晴らしいギャラクシー……」


 いつも肌に離さず持ち歩いている、お守り代わりの坊ちゃまのパンツ。

 それをポケットから取り出して、その香りに酔いしれる。


 ……そう。

 問題とは、坊ちゃまの存在だ。


 あまりにも……。

 あまりにも……っ。

 あまりにも……!!



 坊ちゃまが、私好みのどちゃしこハイシコリティーな天使ショタだった!!!!!!



 一目見た瞬間、何もしていないのに身体が達した。

 脳みそが焼き切れるくらい、派手に絶頂した。

 打ち揚げられた魚かってくらいピチピチした。


 というか、四年経った今もかなりやばい。


 坊ちゃまの前では【暗殺者】のスキル〈偽りの仮面ペルソナ〉を発動して顔面を無表情に固定しているから何とかなっているが、別のジョブだったらおはようからおやすみまでアヘ顔晒しまくって幻滅されていたと思う。


 ……まあ。

 本当は幻滅されて、蔑まれ罵られ、メス豚のように扱われたい欲はあるが、嫌われたら元も子もないからなぁ……。残念……。

 

 それに坊ちゃまの何が好きって、とにかく努力を欠かさないところだ。


 遊びたい盛りの子供なのに、毎日毎日毎日、朝から晩まで剣の稽古。

 おかげで汗まみれの衣服の供給には困らず、マッサージと称して疲労困憊の坊ちゃまに触れたのも役得だった。……あぁ、いけない。思い出しただけで身体が火照ってくる。



 …………んっ♡


 ふぅー……。



 とまあ、そういうわけで私のエーデルライト家破滅計画は初日で頓挫した。


 しかし、好きなひとに嘘はつけない。

 私は自分が【暗殺者】であること、この家の金を狙って潜入したことを坊ちゃまに告白した。こんな素敵な男性に出会えたのだから、もう何もかも終わってもいいと思って。


 すると坊ちゃまは、笑顔でこう言った。


『ジョブが何だろうと、君は僕の専属メイドになったんだ。父さんにはこっちで言っとくから、よかったらこのまま働いてよ。僕のそばにいるより殺してお金を奪った方がいいと思ったら、その時はそうすればいい。僕はその程度の器だったって受け入れるからさ』


 格好よすぎて濡れ散らかした。


 こんな十歳がいるのかと思ったのと同時に、たかが親から見放された程度で自棄になった自分を恥じた。このひとのために立派なメイドになろうと誓った。……そして何より、心の底から惚れた。


「それにしても、どうして坊ちゃまは【おち○ぽチャンバラマスター】なのでしょう……」


 【剣聖】の父親、【剣神】の母親、その息子が【おち○ぽチャンバラマスター】という聞いたこともないジョブ。あれだけ剣の修行を頑張って来たのに、【おち○ぽチャンバラマスター】はちょっとひど過ぎる。


 ……でも、スキルで坊ちゃまの激シコショタおち○ぽを量産できるとしたら?

 もしそうだったら最高だ。いや、きっとそうだろう。そうに違いない。


「ごめん、遅くなって。アトリアは?」


「お荷物をまとめて来るとおっしゃっていました」


 随分と遅れて、坊ちゃまがお屋敷から出てきた。

 結構待ったけど、何してたのかな? やけに暗い顔してるけど。


「ごめーん! 今、用意終わったよー!」


 そうこうしていると、アメリア様がやって来た。

 彼女の荷物も馬に積み、私が手綱を引いて三人で歩き出す。


 ここからは気を引き締めないと。


 私は旦那様から、坊ちゃまを守るよう言われている。

 ただし、本当に危なくなるまで手を出すなとも。息子の成長に期待してのことだろう。


 もう妙な妄想はやめよう。何が激シコショタおち○ぽだ、バカバカしい。


 私の仕事は坊ちゃまのお世話と警護、それ以外に神経を割いている余裕などない。

 これまで通り……否、これまで以上に慎ましいメイドとして、快適な旅になるよう精一杯ご奉仕しなければ。


「アトリア、ミモザ……聞いて欲しいことがある」


「どうしたの?」


「どうされました?」


 風に揺れる白い髪。

 漆黒の瞳に目一杯の決意を滾らせて、坊ちゃまは私たちを見上げる。


「これから先、何があるかはわからないけど、僕が必ず守るから。……それでも危なくなったら、構わず逃げて欲しい。それだけは約束して」


「「……」」


 かっこよ!!!! やっべぇ!!!! いぐぅううううううう!!!!


「ミモザ? 大丈夫?」


「はい、ご心配なく」


 危なかった。

 【暗殺者】のスキルがなかったら、この場で旅が終わっていた。


「あ、あたし嫌っ! 何があっても絶対逃げない!」


「同感です。逃走はあり得ないので悪しからず」


「えぇ……いやでも、危険なことがあるかもだし……」


「ずっとずっと一緒だよ、レグルス君!」


「どこまでご一緒します、坊ちゃま」


 メイドとして当然のことを言っておく。あと、もう一回イッておく。


 ふぅー……。

 クセになってるんだ、絶頂しながら歩くの。





――――――――――――――――――

◆簡単なヒロイン紹介◆


 アトリア・グランチェスタ

 金髪金眼の【聖女】。身長167cm。レグルスとは幼馴染で、得意気な顔でお姉さんとして振る舞う。ひと懐っこい大型犬系女子。レグルスのことが好きで、おっぱいがとても大きい。



 ミモザ・レヴナント

 黒髪青眼の【暗殺者】。身長178cm。レグルス専属のメイドで、スキルを駆使し無表情でクールなお姉さんを気取る。実際はドMの変態女子。レグルスのことが好きで、おっぱいがとても大きい。

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