第27話

イクヤが笑顔を見せて安心させてくれているのに、泣いている場合じゃない。



それに、ゲームはまだ続いているのだ。



「次は先生の番だろ?」



イクヤに質問されて、あたしは画面の前に座っている先生に視線を向けた。



しかし、サイコロはまだ振られていないようだ。



「先生、ちょっと確認したいことがあるんです」



あたしはそう言って先生に近づいた。



「確認したいこと?」



「はい」



頷き、画面を横から確認する。



あの逆さ読みのローマ字が、まだ表示されている状態だった。



あたしは先生からコントローラーを受け取り、イクヤが見つけてくれたコマンドを入力する。



そして表示されたのは、前回と同じ画面だった。



6人分の手形を押す額縁と、1つだけ埋まらない額縁。



それを確認して、あたしは大きく息を吐きだした。



ゲームはやり直されて、今いる3人分の手形になっていないか少しだけ期待していたのだ。



しかし、その期待は外れてしまった。



「この画面はなんだ?」



先生に質問されたので、あたしはこの画面を見つけた経緯を説明した。



「ホナミがいてくれたら、ゲームはクリアだったのに……」



弾けとんだホナミの姿を思い出し、あたしは息を詰まらせた。



もう誰も、あんな風にはさせたくない。



そう思い、あたしは画面を元に戻した。



こうしている内にもカウントダウンは減っている。



「結局、ゴールにたどり着くまでクリアはできないってことか……」



先生はそう呟いて、サイコロを振ったのだった。



先生が出した目は6だった。



その数字を見た瞬間ホッと安堵の息が漏れた。



でも、先生は今回からゲームに参加したから、最初のマスから始めないといけない。



「6マスって、確か誰かが出したよな」



イクヤがふと思い出したようにそう言った。



そう言えばそうだったかもしれない。



あたしたちは最初6人でプレイしていて、全員が違うミションを行った。



ということは、全員違うマスに止まったということになる。



そう、思っていたのだけれど……。



表示されたミッションは《足の指を全部切断》だったのだ。



あたしはそのミッションに「え……」と、思わず声を上げていた。



あたしたち6人でプレイしていた時に、こんなミッションは出てこなかったはずだ。



「どうした?」



「イクヤ……ミッションが変なの。あたしたちが経験したことがないものが書かれてる」



そう説明すると、イクヤは首を傾げた。



「もしかしたらこのゲーム、ミッションが人とは被らないよう、毎回シャッフルされているのかもしれないな」



先生は画面を見つめて、冷静に分析している。



「そんな……」



あたしは唖然として画面を見つめた。



ミッションがシャッフルされる機能くらい簡単に作ることができるから、先生が言っていることは正しいかもしれない。



けれどそれは、この先どんなミッションが待ち受けているのか想像できないということだった。



「とにかく、使えるものを探さないとな」



先生はそう言い、自分の足の指を切断するための道具を探し始めたのだった……。


☆☆☆


それから先生が探し出したのは剪定ばさみだった。



しかしそれはあたしが見たことのある道具とは少し違い、持ち手に銃のような引き金が付いているタイプだった。



「先生、それは……?」



恐る恐るそう聞くと、先生は「電動の剪定ばさみだ」と、答えた。



刃の部分事態はそれほど大きくないから、少し太くなった枝を切る時に使う道具みたいだ。



「これを使えば力もいらないし、一瞬で終わる」



先生はそう言いながら靴と靴下を脱ぎ始めた。



あたしはその様子を見つめることしかできない。



止めることなんて、とてもできなかった。



先生は壁にもたれかかるようにして座り、右足の小指に剪定ばさみを挟み込んだ。



後は引き金を引くだけだ。

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「国吉」



「はい……」



「先生のことは心配するな。お前は後ろを向いていろ」



先生はそう言って、あたしに笑顔を向けたのだった……。


☆☆☆


それから、先生はハンカチを口に入れて痛みに耐えながらミッションを遂行して行った。



あたしは先生に言われた通り、後ろを向き、ずっとイクヤに抱きついたまま離れることができなかった。



たった1人で恐怖と戦っている先生は、悲鳴すらも押し殺している。



そして、数分後……。



「終わったぞ」



大きく息を吐きながら先生がそう言ったので、あたしは弾かれたように振り向いていた。



瞬間視界に入って来たのは床に散らばった指と、大量の血だった。



出血の多さに吐き気を感じたが、戸惑っている暇はなかった。



あたしはすぐに先生にかけより、自分の上着を抜いて傷痕に押し当てた。



「先生は大丈夫だ。自分で、なんとかするから」



そう言い、先生はあたしの上着の上から傷口握りしめ、仰向けになって寝転んだ。



足の下に段ボールを置き、心臓より高い位置にすると、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をしはじめた。



「ユウ、次の番は……」



イクヤに声をかけられてあたしは頷いた。



次はまたあたしの番だ。



あたしはヨロヨロと立ち上がり、再び画面の前にたった。



プレイヤーの人数が少ないから当然ながら順番は早く回ってくる



あたしはコントローラーを手にして大きく息を込んだ。



今度はなんとしてでも6を出したかった。



ゆっくりゆっくり進んで行くスゴロクゲームなんて、やっている場合じゃない。



「なぁ、ユウ」



サイコロを振ろうとした時、後方からイクヤに声をかけられてあたしは動きを止めた。



「なに?」



「さっき、手形を押す画面を確認したんだよな?」



「うん、したよ。でも前回から変化はなかったの。ホナミの分だけ空欄になってた」



「それさ……もしかして先生の手形をはめれるんじゃないか?」



イクヤの言葉にあたしは「えっ」と、呟き、目を丸くした。



「先生の……手形……?」



「あぁ。今のプレイヤーは俺たち3人だけだ。俺とユウの手形はもう押してあるから、残りは先生の分になったんじゃないか?」

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