引退済みの元最強探索者、暇を持て余しチュートリアルおじさんとなる

三田白兎

第1話 チュートリアルおじさん

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長らく更新が止まっていましたが、本日(2024/9/28)より投稿再開します。

また投稿済みの話も全て大幅な改稿を施しました。

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「おい! 聞けって、お前ら。俺たちが今いるのはダンジョン。凶暴な魔物が蔓延る、いつ命を落としてもおかしくない場所だ。死にたくなけりゃ、もうちょっと人数増やしてこい!!」


 爽やかな風が吹き抜ける広大な草原。そこには場違いとも思える、物騒な武器を持った者たちがいた。

 一人は右目に傷跡がある大男。残り二人は制服を着た高校生の男女である。大男は高校生に身振り手振りで何かの忠告をしているが、その言葉は心に届いていないのか適当にあしらわれていた。


「ダンジョンが危ないっていうのはギルドでも言われたから分かってるって!」

「そうそう。私たちが学生だから心配してくれてるんだろうけど、大丈夫だから。私、火魔法が使えるし」


 三人がいる場所はダンジョン。十年ほど前から世界各地に出現した謎の異空間の一つである。内部には魔物という危険生物が跋扈しているため一般人は入ることができない。ギルドという専門機関で様々な契約書にサインすることでようやく入ることができる場所である。

 面倒な手続きが必要な上、内部は非常に危険であるにも関わらず彼等がダンジョンへ入った理由。それは魔物を倒すと稀にドロップするアイテムや宝箱である。これらはダンジョン内でしか手に入らない特殊な物で、ギルドで高額で買い取ってくれる。またものによってはオークションで億越えで取引されることさえある。ダンジョンへ足を踏み入れる者が後を絶たないのはこうしたロマンがあるからだ。


「そういう問題じゃねえって。確かに魔法が使えるのは良いことだけど、ギルドで初めてダンジョンに入るときは四人組以上が推奨されてるだろうが」


 火の球を飛ばしたり、雷を指定した場所に落としたり。そういった超常現象を引き起こすことができる力こそが魔法。

 魔物という危険生物と戦う可能性があるダンジョンでは、魔法が使えるというのは確かに心強い。女子高生が言った通り、魔法が使える者がいればダンジョンごとに決められている推奨人数を下回っていたとしてもどうにかなるだろう。

 だが、初心者の場合は違う。魔物は普通の野生動物とは比べ物にならないほど凶暴で、普通の人間は初見だと、恐怖で動けないことがあるからだ。大男はそれをよく知っているからこそ高校生たちへしつこく声をかけているのだ。


「それも聞いたけど、一緒にいけるやつがいなかったんだって。俺は魔法は使えないけど、剣道してたし。武器も木刀を用意してきたからどうにかなるよ」

「そそ。おじさんはもう今日の探索終わったんしょ? 心配なんかしなくていいから、お家へ帰りなよ」

「誰がおじさんだ? 俺はまだ三十――――って、おい! お前ら、待て!!!」


 高校生二人組は大男を置いて、草原の奥へと走り去ってしまった。


 どうなっても知らねえぞ。

 そう呟いた大男は出口へと足を運ぶ――のではなく、高校生たちの後を追うようにダンジョンの奥へと進んで行った。




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「あのおじさん、ほんっとめんどくさかったね。私が魔法使えるって言ってもしつこくつきまとってきたし」


 大男を引き剥がした高校生二人組は見晴らしの良い草原を歩いていた。視界内に生き物の姿はない。


「だなー…………てか、思ったんだけど、あの人って最近噂のチュートリアルおじさんじゃね?」

「チュートリアルおじさんって、初級ダンジョンの低層に一人でいて新人にあれこれ世話を焼くって話の?」

「そうそう。やたら体がでかいってのも噂と同じだし」


 数ヶ月ほど前から最も攻略難易度が低い初級ダンジョンについて妙な噂が流れていた。それは熊のような大男が第一層に一人で立っており、探索経験が少なそうな者を見つけると声をかけてくるというものだ。

 大男の話を立ち止まってしっかりと聞けば、ダンジョンについての知識や様々な助言をくれるらしい。過去には心細いのでその日だけ一緒に行動して欲しいと申し出て、同伴してもらった初心者もいたようだ。


「そうだとしたら、私たち有名人にあっちゃったってこと!?」


 有名人と呼べるほどかはさておき。出会った相手が噂されているチュートリアルおじさんだと分かると、女子高生は喜ぶ素振りを見せた。


 ――――キュキュッ。


「ん? 今、鳴き声が聞こえなかったか?」


 大きな声を出したからだろう。近くに獲物がいると気づいた魔物が歓喜の鳴き声を上げた。

 男子高生の方がそれを聞きとり、体を強張らせる。


「ほんと!? どこだろう?」

「あっ! あれだ!! 白い、兎?」


 もぞもぞと足元の草が揺れていたため、男子高生はそちらに視線をやる。そこには草よりも背丈の低い、真っ白な兎が走っていた。


「何これ? めっちゃかわいいんだけど!」


 女子高生もすぐにその兎を視界に捉える。

 土汚れの一切ない純白の毛。ルビーのような瞳。体高も膝より低く、とても危害を加えてくるようには見えない。ある一つの特徴を除けば、飼い主によって丁寧に手入れのされたペット兎のような姿である。


「ほーら、おいで~。攻撃なんてしないから、ちょっとだけ触らせてよ」


 愛くるしい兎にメロメロな女子高生は相手が魔物であるということを忘れて、無防備な状態で近づいていく。


「ちょっと待って!!!」


 兎が女子高生のもとへと辿り着く直前。

 男子高生があることに気づき大声を上げる。


「そいつ額に――――」


 魔物の名は一角兎。

 額に角を持ち、何度も初心者の体に穴を空けてきた恐ろしい兎だった。


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