リファーネ・フィーネ

未河

第1話

 この世界に神様はいるのだろうか。


 私はいると思う。もしいなかったら私はもう死んでいたから。


「大丈夫だよ、お姉さんが助けに来たから」


 崩壊が止まらないビル。赤一色に染まった街にこの街に住んでいる数よりも多く感じる大小様々な怪物の前に少女が降り立ち、私に語りかけた。


 小学生と見間違えてしまうほど幼い顔立ちに翠色の学生服を身に纏った彼女は


 確かに年齢は私より上だとは思う。しかし、彼女はあまりにも若すぎた。


「で、でもこんなにたくさんいるのに勝てっこないよ……」


「確かにこの数はさすがにしんどいかも」


 少し苦笑した後、すぐに目つきを変え前を向く。


「でもそれは私一人だったらの話ね」


 彼女が空を指さす。その人差し指の先には3つの光が高速で通り過ぎていった。


 光は怪物たちの群衆を切り裂き、蹴散らし、敵の数を減らしている。


「私も加勢しなきゃね」


 彼女は足を溜めて地面を蹴る。その風圧に少し吹き飛ばされそうになりなんとか持ちこたえようと両手で顔を覆い隠す。


 風が止み、空を見上げると彼女は空中に静止していた。


 右手には輝いた剣を敵に向け、呟くように一言




「      」




 この一言により彼女の身体は煌めき、背中から翼が現れる。


 その翼は桃色を馴染ませ、すべてを優しく包み込むような温もりがあるように思えた。


 翼が現れると灰色の背景が飲み込まれ、彼女の周りには白一色の背景となる。


 薄紅の翼は染物のような淡さがありとても綺麗だった。赤く燃えている大地と、灰色に包まれた空のグラデーションは主役から背景へと変わってしまった。


 人知を超えたその姿はまるで天使のようだった。


 彼女に目を釘付けにされたのは人だけではなかった。


 街灯に集まる虫のように彼女に群がろうとする。


 しかし、光は近づくことも許さなかった。3つの光と同じように灰色の空を燦爛とした軌跡で塗り替えていく。


 この世界の法則タブーを犯した怪物は一人の天使によって粛清されていく。


 もう恐怖などなかった。


 私はその光景にただただ魅了されていた。


 無数の花火を作り出した少女は私の元へ帰ってきた。


「ありがとうお姉さん! すっごい強いんだね!」


「ね?大丈夫だったでしょ?」


 私は大きく首を縦に振る。


「お姉さんすごい! 私もお姉さんみたいに強くなりたい!」


「それはいい目標だね、お姉さんを超えてくるのを期待しているね」


「うん!」


 しかしここで一つの疑問が浮かび上がってくる。


「ところでお姉さんたちって何者なの? 中学生って人?」


「何者って言われても……って私のこと中学生に見えてる?」


 また首を縦に振る。


「即答かー私今高校生なんだけど……ま、まあ身長が小さいからそう見えたのかな?」


 なんか一瞬動揺したように見えたけどこれだけ強い人ならそんなこと気にはしないだろう。


「それでそれでお姉さんたちは誰なの?」


「そうだね……高校生って言ってもいいんだけどあえて言うなら……」


 少し考えてから私に向けて一言、






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 2050年 4月


 日差しが窓に差し掛かる清々しい朝に私は心を躍らせる。


 翠色の制服を身に纏い、鏡で髪を整えてリボンの傾きを直す。


 その後は、鏡の前で一回転。スカートのなびきを観察する。


 この制服を着ることが出来て思わず顔が綻んでしまう。


 身だしなみのチェックをしていると一階からインターホンが鳴る音が小さく聞こえる。


愛果まなかー! 汐里しおりちゃんが迎えに来たわよー」


「はーい! 今行くって伝えといてー!」


 私は自分の部屋を飛び出し、階段を下りながらお母さんに伝える。


「それじゃあ車には気を付けてね」


「わかってるよお母さん、行ってくるね!」


 そう言って私は玄関を出る。


 待ちに待った中学生活最初の日。


 心地よい春風が私たちを祝福しているかのように思える。


「おはよう愛果まなかちゃん」


「おはよー汐里しおりちゃん!」


 ドアの前で待っていてくれた汐里しおりちゃんに挨拶を返す。


 汐里ちゃんは私の幼馴染で中学校も同じ学校に通う親友だ。


「どんな人がいるのか楽しみだね!」


「同じ中学に上がる友達が汐里しおりちゃんしかいないから新しい友達とか出来たら嬉しいよね」


 これからの学校生活に心躍っているのは私だけじゃないみたいだ。


 今日は雲一つない青空でこれが私たちの始まりの日。


日崎愛果ひざきまなか頑張ります!」










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