191話、ちょっとした異変


「みな、前方が騒がしい。止まるぞ」


わいわい騒いでいると、ムサシが窓を開けて声をかけてきた。

なにか起こったか?


「見てくるっす」


ヒナが馬車から出て、単身で前に走っていった。

馬車は道脇にとめられ、全員が馬車から出る。


「なにかあった?」


「前方に馬車数台。襲われているようです」


盗賊か魔物か? なににせよ、大変だなあ。


「ヒナひとりでいける?」


「ヒナなら素手でも大丈夫なのです」


マリアがいうなら大丈夫か。

救助も要るかもしれないし、私たちも前に向かおう。




「盗賊っすね。結構強かったっす」


汗を拭う仕草をしながら、ヒナがのたまう。

無傷どころか、汚れひとつないが。しかも盗賊はほぼ生きて倒れている。実力差がエグすぎる。


「どうするのこれ」


「馬車の人らをとりあえず回復させるっすよ。みんな死んでは無さそうっす」


みんな生きてるのか。よかった。

ていうか全員倒れている。間一髪だったな。


盗賊以外の全員にヒールを施し、軽傷だった人を起こして話を聞こうと思う。

盗賊は全員縛って放置。あとで話を聞く。


「助けたっすよー、起きるっす」


ああ、あんまり揺らすのはよくない…… いや、回復させたし大丈夫だろうけど。


「な、なにもの…… いや、ああ、すまない、助かったのか」


男は混乱しているようだが、状況理解が早い。服装からして、護衛だろう。


「なにがあったっすか?」


「ああ、盗賊に…… ひめ、姫は無事か! なあおい、何人いる!?」


男が周りをみて騒ぐ。まてまて、暴れないで。


「十人いるっすよ。盗賊あわせると二十人っす」


「十…… ああ、なら…… あ、姫、いました、よかった」


姫とやらを狙われたのかな。

離れたところでレティが介抱している女の子が見える。あれが姫か。

ところでマリアは盗賊の前で何をしてるんだ。


「助かった、ありがとう。あなた方は?」


「通りすがりの冒険者っす。ああ、謝礼は迷宮都市の良い店の情報がいいっす」


「お易い御用だ。姫の父上に話を通そう」


姫の父とやらだから、やっぱり身分の高い人なんだろう。期待大だな。


「マリア、どうっすか?」


「大きなマフィアの実行部隊なのです。情報はあんまり無いのです」


「そうっすか。ひとり残して、あと使っていいっすよ」


「ひとりはどうなのです?」


「泳がせて元を知りたいっす」


「任せるのです」


なにやら非人道的な事をしようとしているな? いいんだけど。盗賊じゃなくてマフィアとな。事が大きくなりそうな気配。


「ロマネコンティファミリアか……?」


護衛の人が呟く。マフィアの名前か? 覚えておこう。


「ひとまず、全員を道から移動させましょう。タキナ様、馬車の移動をおねがいします」


「あいよー」


スライム化、馬車を浮かせて、道の外れに。スライム便利だねえ。

盗賊はマリアが動かした。みんな意識は取り戻しているようだ。いや、あれは…… うん、見なかったことにしよ。

助けた人達はまだ目を覚まさない。だがすぐ目覚めるだろう。

冷たいのみものの用意だけしておこうかな。

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