112話、人道的


70日目、昼。

今日は、ヒナとふたりで、アビスの迷宮の十七層にむかうことにした。


「そういえばさ、アデクもテイマーじゃん」


「そっすね、珍しい」


「テイマーって、なんで最弱って言われてんの?強くない? 」


前々から思ってた疑問をぶつけてみた。

アデクのテイムしてる魔物も強いし、テイマーって強いのでは?


「テイマーは最弱っすよ。タキナはインチキで、アデクは素が強いだけっす。テイムするのに、対価として魔物の強さに応じた魔力が必要なんすよ。それも、テイムしている間は常に必要なんす。つまり、魔力が少ないと雑魚しかテイムできない上に、魔力上限値が常に下がってる状態になるわけっすよね。しかも、テイムするには相手に実力をわからせなきゃいけないっすから。普通の人間がテイマーになったとして、精々がゴブリン数匹のテイムが限界じゃないっすか? それで魔力が空の人間一匹と、雑魚のゴブリンが数匹になるだけっす。ハズレ魔法と言われがちな水魔法相手ですら、魔力がないと抵抗できずに溺れて終いっすよ。雑魚っす」


うん、雑魚だな。そりゃ追い出されもするかもしれない。生産系のジョブのほうがまだ戦闘に向いてる、なんて嘲りもあるらしい。酷いな。


「で、アデクさんは素が強いっす。多分、今のアデクさんとタイマンなら、私はギリ勝てるっすけど。でも魔物込みなら即負けっすね。魔物のバランスもいいし」


ほんとに強いんだな。魔王の副官って言うくらいだし、そんなもんか。


ちなみに、アデクさん自身は食材加工、主に肉の解体の仕事を。アデクさんの魔物たちは、肉集めと鉱石集めを手伝ってくれることになった。 みんなちゃんと強いし賢い。いい子たちだった。




さて、アビスの迷宮、十七層。

そこは、見渡す限り、砂だった。


「砂漠っすねー」


「また砂漠かぁ。でも風なくてよかった」


風が吹くと砂が口やら目やらに入って大変なんだよね。


で、魔物の姿だが。


「ワイバーン、なんかでかいっすねー」


「グリフォンも強そう」


「あ、ワームが……丸呑みっすか」


「あのワイバーンを丸呑みかぁ。こわいねえ」


どうやら、ちゃんと強い魔物のいる階層のようだ。

砂の中に囚われるのは嫌なので、慎重に進もう。


今回はどんな魔物がいるかな。

ワイバーン、グリフォンはまあ、多分いらない。

ワームもいらない。砂漠ってあとなにがある?


と思っていると、また別の魔物もあらわれた。


「サソリ……やっぱりおおきいね」


「固くて強そうっすよ? どうするっすか? 」


うん、どうしよう。

うちにもサソリは既にいるけど。でもこの子のほうが、大きなカゴを背負えそうだな。


「テイムしておくかな。はいテイム!」


「……近くで見ると、結構かっこいいっすね」


うん、たしかに。男の子が好きそうなカッコ良さがある、気がする。


魔物情報をみてみよう。



ボイドスコーピオン。

特殊な魔法毒をもつサソリ。虚毒といわれる、神経を遮断し痛みを与えないまま絶命させる毒を使う。この毒は魔法毒のため、死後は体内に残らない。

基本は温厚な性格をしている個体が多い。

その昔、人道的な処刑方法として用いられた事がある。

肉食。腐りかけの肉を好む。



おお、人道的な処刑方法として……言われてみればそうか、ってなるけど。

その昔、というのがいつ頃なのかは気になるけど、まあそれは置いておいて。


「さて、テイムしたし。帰りますか? 」


「ボスのテイムは次回っすね。帰るっすよ。この子、街の子供たちの人気者になれそうっすね」


うん、見た目がね。サソリ型のロボットみたいで凄くかっこいいんだよ。男児の乗り物にしてあげようか。

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