108話、スライム、浮く


さて、このもちもちの魔物情報を見てみよう。



ドラゴスライム。

羽のような形のなにかが付いているスライム。

魔力によって空中に浮くことができる。浮くために羽は特に関係ない。

警戒が薄くなる空中から、顔に落下し窒息させて獲物を仕留める。

仕留めた獲物を体内に収納して浮くこともできる。

スライムらしくなんでも溶かし食べる。



うん、この子がもし、スライムガールのときみたいにスラちゃんやメタスラちゃんと情報交換みたいなことができるのなら、スラちゃんが空中から魔法を落としまくるなんてことも……。


「あの巨体で浮くだけでもやばいか」


楽しみになってきたな。


というわけで帰宅。ドラスラちゃんはスラちゃんのとこに置いてきた。私は帰って寝る。




69日目。


「おい、お前。またか?」


「あー、多分、まだなんの事かわかんないですけど多分私です」


ゼストに起こされた。

なぜ起こされたかは、多分わかってる。上手くいったということだろう。


「……事前に連絡できねぇのか」


「上手くいかなかったら恥ずかしいでしょ」


「馬鹿じゃねぇの? 」


めちゃくちゃ言われてるけど?


とにかく、裏庭に出てみる。


うん、やっぱり、スラちゃん浮いてるね。


「すげ。これは戦闘力アップでは?」


「もともと高いが、これならさらに戦略の幅がひろがるなぁ」


これなら空からの急襲も……いや、デカすぎて急襲にならんか。そんなに上空を飛んでるわけでもないし。


「たとえばなにができるかな」


こういう時はゼストの頭脳を頼ろう。


「単純に、射角が広くなるだろう。遠くがさらに狙いやすくなるし、味方の配置も自由度が高くなる。スラちゃんは魔法をぶっぱなす戦術だろうからな。攻めでもそうだが、守りでも、視野が広くとれるのはいいだろう。魔物たちの魔力タンクとしても、地上にいるよりは、少しだけ浮いて、下に潜り込めるほうが配置が楽だ」


おうおう、いろいろあるんだな。なんも思いつかんかった。

たしかに、自由度が高くなったのはありがたいな。浮くだけでいろいろ出来るんだなぁ。すごいなスラちゃん。ほかの種類のスライムも探そ。


「……ドラゴスライムもメタル化出来るようになってんぞ。魔法まで使えるじゃねぇか」


うんうん、やっぱりスライムの可能性は無限大だね!




朝ごはんは餅と団子だった。

イサムの試作だ。試作というが、既にちゃんと美味い。

今日は、ゼスト、アリス、ロミオ、イサム、そして私で食卓を囲んでいる。


「餅も団子も、試作って言いましたけどほぼコレで完成ですかね」


「うん、めちゃくちゃ美味しい。これで露店出せるよ」


「いくらでも食べられますわね!おかわりありまして?」


「今日の業務に調理班での試食と野菜の検品があるのを忘れてないか? 食べ過ぎるなよ」


「アリスの補佐として言わせてもらうと、コイツはこれで三分目くらいだ。問題ない」


朝から平和で賑やかだなあ。

それにしてもアリスはよく食べるな。何人分だ?




昼前。

今日は久しぶりに、散歩にいこうとおもう。

なにか居たらテイムして、なにも居なかったらゼストの城の地下で済ませるかな。


「馬ちゃん、今日もよろしくね」


おともは馬ちゃんのみ。メタスラちゃんが居て欲しかった。

メタスラちゃん、帰ってきたら増やそうかな。私、マリア、アリス、ロミオ、ヒナとイサムにも渡したい。服に仕舞っておけるのにめちゃくちゃ強いし、寒暖の対策にもなるんだよね。


「さて、じゃあ……荒野の奥にいこう。馬ちゃん、ちょっとだけ控えめに走ってね」


最近は体が慣れてきたけど、やっぱり馬ちゃんははやい。

荒野の、砂漠側でもなく草原側でもなく、奥のほうへずっと向かってみる事にする。

なにか見つかればいいんだけど。


馬ちゃんの猛スピードの中で、まわりを観察する。

視界の端に一瞬、なにかが見えた気がした。


「馬ちゃんまって。なんかいたかも?」


警戒しながら近づいてみる。


そこに居たのは、女の子だった。


「……あれ、もしかしてこの子」


見覚え、ありそうでなさそうな……。

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