80話、魔性


54日目、夜。

マリアとともに、ゼストの家の地下に入る。

今日の分のテイムをここで済ませるつもりだ。


「魔力、濃いのです」


「気分悪くない?大丈夫?」


「平気なのです」


ムワッと噎せ返るような魔力の気配を感じながら、地下を進む。

ここには色々な魔物がいて、それら全部が珍しかったり強かったり危険だったりする、というのはゼストから聞いた。

レッドオーガも、マジックメタルスライムも、危険で強くて珍しい魔物だ。


「なにがいいかなぁ」


「かわいいのがいいのです」


かわいいの、居るのかここに。

ひとまず、一通り見てみるか……


一通り見て回った。

九割は可愛くない魔物だった。いや、見方によっては可愛いのかもしれないけど。かっこいいとか怖い寄りの子が多い。そりゃそうだ。

で、みつけた。可愛いのを。


「かわいいね」


「かわいすぎるのです」


かわいすぎる魔物を見つけた。

正直、ここに閉じ込められているのが不思議なくらいだ。しかもわりと奥の方。

つまり、なにかしらの理由でめちゃくちゃ強いか危険かなのだろう。……でも可愛い。


「テイム、するか」


「うーん……かわいすぎて不安なのです。罠かもしれないのです」


いやほんとにそれくらい可愛いんだよ。罠でもいい、罠でもいいんだ……ってなりそうなほど。なんなんだこの可愛さは。


「いや、テイムしよう。テイム!……いや可愛いなおい」


さて、魔物情報は……



サキュバスキャット。

猫の魔物。人類ではどうあがいても抗えない魅力を持つ。

滲み出す魔力に魅了の魔法が乗っており、対象を誘惑して接触し、魔力と生気を吸い上げる。

その魅了に抗えなかった王族によって一国が滅んだ、という記録が残されている。

寝ている間は認識阻害の魔法で守られており、魔力を見る事のできる者でなければ発見は難しい。

肉や魚を好むが、たまに葉物も食べる。



おおう、とんでもねぇ猫ちゃんだった。

傾城傾国……マジの意味で魔性の猫だ。ダメでしょ猫とサキュバスって。


「とんでもないのです」


「ま、でも、テイムしたから私の言うことは聞くでしょ……ひとまず、魔力の補充はスラちゃんたちからって事にして、生気は……体力だよね?体力は私からかな。ほぼ無限にあるようなもんだし」


というわけで、問題はない。

当然のごとく、マリアが抱っこする事になった。





「お、その子か……起きてたんだな」


帰り際、ゼストに会った。

今までにないくらいの笑顔でサキュバスキャットを撫でている。かわいいとかわいいがかわいいしてる。


「この子は肉が好きだからな、いっぱい用意してやってくれ。魔力と生気は……大丈夫だな。たまに撫でにいくからな」


ゼストがうちに来る理由がまたひとつ増えたようだ。





「マリア、大事な話なんだけど」


「はいです」


夜半ば、マリアと家族会議をはじめる。

議題は……


「サキュバスキャットの、名前を決めなければいけません」


そう、名前。

猫には、ちゃんとした名前をつけなければならない。


「……私が決めるのです」


「うん……そうなんだよ、私じゃダメなんだよ。さすがに猫の名付けは私のセンスじゃダメなの……」


わかっている。私のネーミングセンスが壊滅的なのは。

ほかの魔物ならまぁなんでもいいんだけどね。呼びやすさわかりやすさでいいんだけど。猫は、ね。


「というわけで、お願いします!」


「うーーーーん…………ニクス!ニクスなのです!」


「ニクスかぁ。理由をきいてもいい?」


「深い闇みたいに真っ黒ツヤツヤだからなのです!」


たしかに、吸い込まれる闇のような……いいね、ニクス。


「さすがマリアだわ……天才だなぁ!」


わしゃわしゃとマリアの頭を撫でまわす。


「やーめーるーのーでーすー!くしゃくしゃなのです!お返しなのです!」


わしゃわしゃくしゃくしゃと頭を撫でられる。

ニクスはそれをシラっとした顔で眺めている。

……撫でられるのも、悪くないな。

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