75話、牢屋


53日目。

朝ごはんは、りんごと紅茶のロールパンと、紅茶だった。

ロールパンは、勇者イサムのアイデアだ。りんごのコマ切れが入っていて食感がよく、ふんわり香る紅茶の風味も良い。

マリアはアリスに学んだのか、紅茶の淹れ方が上手くなってきた。上品に育ってて嬉しいよ。


さて、今日はどうしよう。

……うん、イカちゃんが呼んでるね。海いくか。


「マリア、ついてくる?」


「うみ!いくのです!」


というわけで、二人で馬ちゃんでいこう。

馬ちゃんなら扉もくぐれるだろう。くぐれるよな?





「うみなのです!」


海に到着。イカちゃんもいる。

どうやら今日も、どこかに運んでくれるようだ。馬ちゃんも……乗れるか。乗れた。


しばらく航海。

前回、アリスを救出した扉があった島に向かっているようだ。


「もしかしてまた扉?」


「なのです?」


島に到着。前回同様、島の中央に向かう。

やはり、扉があった。

今回も、アリスのいた部屋に繋がるのか、それとも別の所に繋がるのか。


「あけるか。マリアはちょっと待ってね、先に私が入って確認するから」


「はいなのです」


扉をあける。……部屋は部屋だが、アリスのいた所ではないな。無骨な石造りだ。

その部屋の扉もあける。石造りの建物、ぽいな。

牢屋か?ゼストの家の地下に似ている。音は……うん、誰かは居るなぁ。


「マリア、来ていいよ。人が居るかもしれないから、警戒ね」


「はいなのです」


牢屋のようなものが並んでいる通路を歩く。

奥には人の気配がするが、そこまでは誰も居ないようだ。

というか、そもそもめちゃくちゃ古い。もしかして何百年前とかの牢屋か?鉄格子も錆びてるし、石の床も所々風化している。

しかし、奥には気配がある。恐ろしいな。


そこそこ長かった通路をすすみ、奥についた。

そこには、一際広く頑丈そうな牢屋があった。

そして、そこに一人、大袈裟に思えるほど厳重に繋がれた、人間がいた。


「あー、えっと。大丈夫ですか?」


「なのです?」


その人間は、伏せた顔をあげ、こちらを見た。

黒い目、黒い髪。薄めの顔立ち。

もしかして?


「あ……ん……ああ、あー……声、でるもんだな……ごめん、何百年かぶりに喋ってるから……喉が」


何百年……ほんとに昔の牢屋だった。

そして何百年も生きてる人間。人間か?魔族とかエルフじゃないのか?


「えっと、あなたは何故ここに?」


「ああ、えっと……なんだったっけ?封印されたんだったか。そうそう、封印された。当時の王様にな、強すぎるからごめんって、えーと、そう、勇者なんだよ俺。今もうほとんど力は残ってないけど……わかる?勇者。今もあるのかな」


どうやらまたとんでもない人と出会ってしまったようだ。


元勇者、ユウタ。

彼は、無敵ともいえるほどのタフさによって、当時の魔王を討伐した。

その後、国に帰り、歓待を受けるが……王の世代が変わった頃、勇者たるユウタの政治的な立ち位置が面倒な事になり、封印が打診された。

それから数百年、誰とも顔を合わさないまま、ここでずっとのんびりしていた、とのことだ。


圧倒的なタフさ。数百年の孤独で精神を保っている異常さ。もしかしてこの人、ハヤトの前の勇者、かもなぁ。


「で、あー、さすがにそろそろ牢屋も飽きたし、多分今の俺は封印されるほど強くないだろうし……外が見たいから、解放してくれたりしない?」


よし、解放しちゃお。

まぁ大丈夫でしょ、元勇者だし。世界に悪い影響はないはず。多分。


ということで解放。

一応、彼を街に誘ってみたが。


「ありがたいけど、俺はちょっと旅がしたくてね。数百年経ってると、当時と色々変わってそうで面白そうじゃんか。見て回った後で時間あれば、タキナちゃんの街にもいくかもね」


とのことだった。百年くらい来なさそうだな。

いやぁ、しかし、良い人助けをしたな?

人助けをして気分がいいので、さっそく帰って街の皆のお手伝いでもしようかな!

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