71話、人類サイド
当分の間は、イサムはうちの街で預かることになった。
ひとまずは山頂の迷宮を再攻略して、手がかりを探るところから手伝う。
そっちはゼストがイサムに同行すると言った。
「サクサク進めた方がいいだろうよ」
「ありがとうございます、ゼストさん」
そうか、誰が一番強いかはイサムが一番わかってるのか。
イサムは人間への害意を見れるためか、うちの魔物たちともなかなか普通に馴染んでくれた。
とくにセチには一番敬意を払っていた。わかってるなぁ、この子。ウチに住まないかな。
ひとまず、聞けるだけの能力とかを聞いてみた。街にいる間の労働を考えないとだからね。タダ飯は食わせない。使えそうなスキルがあれば言ってね、って話だ。
「答えられる範囲だと、とりあえず飛行、瞬間移動、保管庫、それから鑑定と、技術模倣ですね。鑑定は、詳細は伏せますけどいろいろ見れるのと、技術模倣は、一度見た技とか術とかを、完全にコピーできるってスキルです」
一度でコピー。なにそれ、チートでは?
消費魔力が大きいものは足りないと出せないし、攻撃力は自分の能力値に依存するらしいけど、たとえば特級冒険者の技を見るだけで同じように使えるようになるんだから、勇者の立場だとめちゃくちゃ有用では?いいなぁ、勇者。
こちらの陣営の、言えるだけの能力も公開しておいた。私はテイマーだよ、普通の。
「ねえハヤトさん、勇者ってみんなチート能力あるのかな」
「うん。僕の前の勇者は、デフォルトの飛行、瞬間移動、保管庫に加えて、ダメージ無効、疲労無効、精神異常無効、武芸百般ってスキルをもってたらしいよ。で、強すぎたからどこかに封印されてるって噂があったよ」
うーん、神様、勇者に与えすぎでは?
私の能力がほんとにオマケ程度に思えてきた。めちゃくちゃ強いチート能力だと思ってたんだけどなー。
「ひとまずは世界樹の神殿の迷宮攻略を優先させてほしいですけど、その後に時間があるようなら、荷運びでも戦闘でもなんでもやりますよ。任せて下さい」
ああ、ほんとにいい子。私のいい子センサーも満点出してる。
正直、敵対する可能性も考えてたんだけど……良かった。荒事は起こらない方がいい。
「俺以外の三人も……生きてるのはわかってるので。あと、多分、俺はここで修行したほうが強くなる気がするんですよね」
私達の敵じゃなく、人類の守護者として頑張ってるんだから、修行くらいはうちで好きなだけしていってほしいね。ゼストもヒナさんも、手伝ってくれるだろう。
ひとまずいろいろ決まったし、私は家でマリアとのんびり過ごそう。後のことはゼストに任せた。住むところもね。
「じゃ、当分はよろしくね」
「ええ、ありがとうございます」
「今日はまだ安静にしてもらうけど、明日は歓迎会だからね?お腹すかせててね」
「……いいんですか?」
勇者様を歓迎した街、っていうお墨付きがほしいからねー。
俺はイサム。勇者イサムだ。
世界樹の杖を得るための迷宮攻略で罠にかかり、仲間と離散して、この街で保護された。
目覚めた時、目の前に骸骨があった。正直、手が出そうだった。ほんとに。体が思うように動かなかったのをこれほど喜ばしく思ったことはなかった。手出してたら、大変な事になってただろうな。
部屋に人が集まってくるのを眺める。みんな、人類への害意がほとんど無い。
それに……ステータスが異常だ。
この中で一番弱い骸骨ですら、俺より魔力と精神力が高い。
オートマトンのステータスは俺と同じくらいだが、ユニークスキルが……ああ、元勇者か。弱体化してコレか、なるほどね。
虫の羽が生えたイケオジは、今の俺ならもしかすると一撃は耐えられるかもしれない。つまり、戦って勝てるわけがない程のステータスだ。
そして……大魔王、ゼスト。
俺が挑もうとしてる魔王レギオンも、もしかしてこれくらい強いのかな?だとしたら無理な気がしてきたな。いや、数年本気でやれば足元には及びそうだが……ああ、勇者殺しをもってる。勇者でも勝てないのか。
と思っていると、ゼストさんが俺を見た。やば、鑑定がバレたか?
「魔王と大魔王では、格が違ぇからな?心配すんな」
心を読まれてる……うん、よし。大人しくしよう。勝てない。いや、戦う気もないけど。
しばらくすると、街の長がもうすぐ来るという声が聞こえた。タキナさん、と言うのか。
タキナ……日本人の名前だな。こっちも元勇者とかかな?
タキナさんが来たという。皆がすこし緊張したのを感じた。……正直、俺は今すぐここから逃げ出したい。体が思うように動かないのを、これほど恨んだことはない。
格が違う、圧倒的上位者の気配。
扉が開く。
入ってきたのは、王だった。
「あっ……あの時の」
ああ、やっぱり。
巻き込まれて追放された側が、普通の人間なわけないよな。
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