閑話4、勇者、南へ。


「剣と鎧は手に入れた。各国の国宝級の武具もいただいた。さて……杖、とりにいくか」


この40日、大陸の各国で、勇者として魔王軍と戦い続けた。

いまや特級冒険者に並ぶほどと言われるくらいには成長した。まあ、自分としてはそうは全く思わないが。特級冒険者には、まだ勝てる気がしない。


さて、我々勇者一行は、神鉄の聖剣、神鉄の聖鎧を無事に入手した。

あとは世界樹の聖杖と、深淵魔道書がほしい。

深淵魔道書はいまだにある場所がわからないので、ひとまず魔の森の奥の大霊峰の山頂にあるという世界樹に向かうことにする。


魔の森が危険と言われている理由のほとんどが、その濃厚な魔力によるものとされている。

その魔力にさえ対抗出来るのであれば、それほど恐れるものでは無いとも。まあ、対抗出来るレベルの猛者ならそれはそうだろうな、とは思うが。

我々は四人とも、濃厚な戦いの中で聖気覚醒をした。

これにより、魔力によって受ける悪い影響は効かなくなった。状態異常も余程強いもの以外は効かなくなった。つまり、魔の森も、まあ行けるだろう。ダメだったらそれはその時考える。


魔の森に行くにあたって、ひとまずはアルベリア辺境伯領に向かうことになる。

かの地の領主、ゴールド卿は、商人としてもとても優秀だという。

そういえば、かの領地の羽振りの良さの理由を調査しろ、なんて話もあったな。どうでもいいや。どうせ商売が上手いだけだろう。重税なんかしてるのであれば考えるけども。


「アルベリア領は、国で一番、飯が美味いらしいぞ」


「え、楽しみ!はやくいこ!」


「お肉もいっぱいあるかな……」


「やだ、元の世界の料理思い出しちゃったわ」


そうだよな、前世……いや、死んでないから、前の世界と言った方がいいか。前の世界の料理、こっちでは全く無いんだよな。

言われてみれば俺も食べたくなってきたな……ハンバーガー、カレー、唐揚げ……


「魔王倒して、元の世界に帰ったら……四人でグルメ旅行でもするか」


「ん……たまにはいい事いうじゃない。やる気出てきたわ!」





アルベリア領にて、領主直々の歓待を受ける。

パーティーなどは好きじゃないと伝わっていたのか、ゴールド卿とその家族、そして我々だけの食事会となった。

聞いていたとおり、料理が美味しい。野菜も肉も、他の土地で食べたものより数段美味しい。魔法でもかけたかのように。


「とても美味しいですね。これは、どちらから?」


「ええ、こちらのステーキに使われております肉は、我が領の特産にございます。肉にする為だけに肥え育てられた牛を、我が家特性のスパイスにて味付けさせていただいております故、他所では味わえない絶品と自負しております」


そういえばこの世界では、牛は貴重な労働力だったな。しかも魔物に襲われる可能性もあるので、都市部に近い農地でしか使われていないというほど。それを食べる為だけに育てるというのは、とても贅沢なのだろう。


「豊かなのですね、この地は」


「ひとえに民たちの努力の結果でございます。もちろん、私がそれらを適切に評価しているからでもございますが」


ちゃんとしてるよアピール。そうね、一応探ってるよアピールしたからねこっちが。話が早くて助かる。

まあ、なにか隠されている気もするが。いいや、俺の仕事はコレじゃないし。肉、美味いし。





魔の森に向かうと伝え、ゴールド卿に挨拶を済ませる。


「もし魔の森で人を見かけた場合、絶対に、敵対しないようにしてください。これはお願いではなく、忠告です。どうか、おぼえておいてくださるよう」


勇者である俺に忠告か。これは、ちゃんと覚えておかないといけないな……


最後にお土産として美味しい料理をいっぱい持たせてもらい、魔の森へ出立。

世界樹の杖、はやく手に入れよう。

この世界のために、一刻もはやく。

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