52話、大増量


40日目。

今朝はハッシュポテトとコーンサラダを食べた。

植物油をつくるための大きな圧搾機ができたらしく、今まで道具をつかってるとはいえ人力で絞っていたのが解消され、大量に生産されるようになった。ひとまず、ポテチを教えた。みんな食べすぎないでくれ。

マヨネーズもつくらせた。これもダメだよな、もうこの街は終わりかもしれん。肥満一直線だ。いや、みんなめちゃくちゃ働いてるし大丈夫か。私以外は。


「黒胡椒マヨポテチ美味しいのです」


「絶対食べすぎないでね……」


本当に美味しい。ダメだって……





さて今日こそ、地獄迷宮の三層をクリアしよう。

ボスを探し出して、四層をみるのが今日の目標だ。


というわけで、マリアと一緒に馬ちゃんで三層へ。ゴージャス・キャバリーは街乗り用にするようだ。


「空気が美味しいのです」


「ね、草原!って感じ」


三層は本当に、地獄とはなんなのかという雰囲気だ。天国と言ってもいいくらい心安らぐ大草原だが。


やはりデスキャバリーとデカいトカゲしか出てこない。なんなら二層より楽かもしれないな、と感じる。


またしばらく散策。

結局とくになにも見つけられず、ボスまでたどり着いた。


「アレは……象かな?」


「象さんなのです?」


ボスは、戦象だった。骨ではなく、宝石のように輝く生身のボディに鎧を纏っている。


「まあ、ボスならテイムだよね。テイム!」


「象さん、のりたいのです!」



ディアマンテ・エレファンテ。

地獄迷宮三層のボス。

ダイヤモンドのように輝く分厚く硬い皮膚、鋭く巨大な牙、しなる鼻、超重量のボディに、魔法的刻印を施された鎧をつけている。

鎧がなくても当然強いが、鎧の効果で移動速度や衝撃吸収などがつくことでさらに強みをいかす動きができる。

果物や草を食べる。



うーん、強い。強いけどなんか、一層二層よりインパクトが足りない気がする。

と思ったけど、試運転でデスキャバリーの群れを突進粉砕したのをみて考えを改めた。象、めちゃ強い。


象さんは帰りに迎えに来る事にして、四層におりる。一目だけみて帰ろう。





「海なのです?」


「海かなあ?湖かも?どうだろう」


四層は、砂浜だった。

荒野の扉の向こうにあるような、真っ白で広い砂浜。もちろん、横には水。海か、湖かはわからないが。多分海だろう。


「魔物は……おお、アレか」


「カニさんなのです!」


でっかい蟹がいた。硬そう。食べれるかな?

見える範囲では、でっかい蟹が数体だけ。もしかしたら水中になにかいるかもしれないが、水中呼吸とかそういうのは持ってないからな……水中で活動できる魔物を連れてくるべきだったか。


四層の確認はしたし、三層に戻って象さんを連れて帰る。マリアは気に入ったみたいだ。デスキャバリーを粉砕しながらキャッキャしている。





象さんをつれて帰宅。

ひとまず象さんは、街の建築班に配属した。台車を引かせて壁建設のお手伝いだ。

たまにマリアの乗り物としても励んでもらおう。

さあ、そろそろご飯の時間かな?今日も楽しみだ。





我々は、誇り高きアグニの街の調理班である。

今日は調理班の仕事について知ってもらおうと思う。

この街での晩御飯は、今のところまだ全住民で同じものを食べている。20人の調理班が100人分をつくっている。それに加え、肉の解体や野菜の収穫なども、スケルトンやオーガを使いながらも調理班が行っている。魔物たちが居るので楽には楽なのだが。

そして調理班にはひとつ、魔物には任せられないとても大変な仕事がある。

それは、「タキナのリクエスト」だ。

調理班の面々は、もともと家庭やら店の手伝いやらで料理をしていた者が多い。これは我々を所持していた元違法奴隷商が、小さな飲食店に対して仕掛けた詐欺でふっかけた借金にたいするカタとして私たちを攫ったからなのだが。

つまり多少なり、料理に対する造詣は深い。のだが。

タキナのリクエストは、この世界の常識にない。マヨネーズ、ハンバーガー、カレー、カレーパン、シチューもそう、デザートだって殆どが少なくとも調理班の面々が元いた国にはなかったものだ。芋だって、ハッシュポテトはあったが、ポテチは無かった。芋があんなに美味しいとは……さておき。

それらを調理班に口頭で伝授し、いろいろとつくらせ、さらに調理班がそれを磨いて新しい料理を生み出す。しかし傑作が生まれたと思っても、タキナは「懐かしいな」と言う事がある。全く新しい料理のはずなのに。

しかし、今回のコレは自信作だ。20人全員で話し合い、各素材のバランスにも苦労して作り上げた大作。

これであれば、タキナを驚かせる事が出来るだろう。

さあ、食べてほしい。我々調理班の、新たな最高傑作を。


「お、今日は油淋鶏か。これも食べれるようになったのか……感慨深いな……」


どうやら、我々調理班は、またタキナの故郷に負けたようだ。

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